2010年12月29日水曜日

ワシーリー・ペトレンコの「名曲プロ」

  1. フェリックス・メンデルスゾーン:序曲「ルイ・ブラス」 作品95
  2. 同上:ヴァイオリン協奏曲ホ短調 作品64
  3. ジョルジュ・ビゼー:「アルルの女」第1組曲、第2組曲
ワシーリー・ペトレンコ指揮、サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団、パーヴェル・ポポフ(ヴァイオリン)
12月29日 フィルハーモニー大ホール 19:00~

今年の初めにマーラーの3番を振ってとても感激させてくれたワシーリー・ペトレンコ。あの一回の演奏会で、完全に「私的期待の若手指揮者ナンバーワン」になってしまった。今度は対照的な「名曲プロ」。

最初の「ルイ・ブラス」からして、案の定さっそうと進む。気持ちいい。その次は「メン・コン」。ソリストのポポフって、名前だけだと誰?という感じだが、フィルハーモニーではおなじみの顔である。実はここのオケで、コンマスの横にいつも座っている人。時々、自分がコンマスになる。というわけで、協奏曲というよりオケとの一体感が目立った。というか、演奏内容についてあんまり覚えていない。

正直に告白すると、この曲苦手だなあ(苦笑)。同じメンデルスゾーンでも、「スコットランド」とかは大好きだし、「真夏の夜の夢」「イタリア」などもいいと思うけど、一番の代表作「メン・コン」はダメ。BGM程度にしか聞き流せない(BGMで悪いかと言われると、困るのだけど…)。

後半は「アルルの女」。結構特徴のある演奏だった。気がついた点は以下の通り。
  • 基本的なテンポ設定は早めだが、細かく揺らす部分も多い。
  • フレーズは大胆なぐらい短め。え、そんな歌わせ方をするのという個所も結構あった。聞きなれた名曲が新鮮に響いて面白かったけど、人によっては嫌うかも。
  • 基本的にクールだが、最後のファランドールではオケを煽っていた。
惜しむらくは、ライヴとはいえオケに細かいミスが散見されたこと。それに今日はヴァイオリンの鳴りが悪かった気がするのだが、なぜだろう。

でもワシーリー・ペトレンコが個人的に一押しの若手(特にロシア出身者では)であることは、間違いない。日本にも振りに来てほしいなあ。

2010年12月28日火曜日

合唱指揮者がオケを指揮をすると…

  • カール・オルフ:カルミナ・ブラーナ
アンドレイ・ペトレンコ指揮、マリインスキー劇場管弦楽団&合唱団ほか
12月28日 マリインスキー劇場 19:00~

コンサートホールのほうではなく、劇場のほうでカルミナ・ブラーナをやるというので、これはきっとオリジナル通りにバレエが入るに違いないと期待していたが、大ハズレ。舞台の上には合唱団のみ。せっかくなら、バレエも入れて派手にやってほしかった。出来不出来はともかく、いろいろなことに手を出すのが、マリインスキーの(というかゲルギエフの)特徴なのだから。

今日の指揮者は、マリインスキーの合唱団の指導者である。あんまり合唱のことは詳しくないけど、ここの合唱団のレベルは決して低くないと思う。もちろん、日によって出来不出来はあるが。今日も、割と発音もピッチも揃っている。だが、オケが問題。正確に言うと、指揮者がオケを統率できていない。

明らかに拍の出し方が不明確。合唱だとそれでもいい、というよりそのほうがいいのだろうが、オケの場合はアンサンブルが揃わない。あちこちズレまくり、音が落ちまくりで、オケのほうは半ばアマチュア状態だった。ケーゲルやヒコックスのように、合唱指揮とオケの指揮の両方が出来た人もいるけど、両方同時にこなすのって、実際は難しいんだなということがよく分かった。

2010年12月27日月曜日

「美女と野獣の対話」

  1. エクトル・ベルリオーズ:幻想交響曲 作品14
  2. モーリス・ラヴェル:ピアノ協奏曲ト長調
  3. 同上:ラ・ヴァルス
ワレリー・ゲルギエフ指揮、マリインスキー劇場管弦楽団、エレーヌ・グリモー(ピアノ)
12月26日 マリンスキー・コンサートホール 20:00~

本当は5月に来るはずだったエレーヌ・グリモーだが、その時は急病でキャンセル。ガックリきたのだが、何と年末に来てくれることに。エライ!!今度こそキャンセルしませんようにと願いつつ、チケットを購入した。

ところがグリモーがラヴェルの協奏曲を弾くということ以外、いつまで経ってもプログラムが発表されない。そして当日の昼になって、やっと上記のプログラムが発表された。オイオイ、いきなりベルリオーズの幻想かよと思いつつ、会場に足を運んで(ゲルギエフの演奏会ではよくあることだが)またビックリ。前半で幻想をやって後半にピアノ協奏曲とラ・ヴァルス。だんだん曲が短くなっていくなんて、聞いたことない。ゲルギエフは何を考えているのだろう?でも聞き終わってみると、確かにこの曲順は正解だったと思う。

まずは幻想。ゲルギエフのベルリオーズというと、1年前に聞いた「ファウストの劫罰」があまり良くなかったので、大して期待していなかったのだが、意外にも名演だった。第1楽章、第2楽章は特に良くもなく悪くもなくという感じだったが、第3楽章の中間部からエンジンがかかりはじめて、第4楽章、第5楽章は迫力ある演奏を聞かせてくれた。今までのこのコンビだと、音は鳴っていてもそれだけで、どこか白けてしまうのだが、今日の演奏に関してはゲルギエフの頭の中に明確な曲のイメージがあり、それがオーケストラを通じてこちらに伝わってきた。こないだのチョン・ミョンフンよりも良かった気がする。私の中で、ゲルギエフの株が少し上昇。

しかし今日の主役は、やっぱりグリモーだった。半分ミーハーなノリで、あの美貌を生で拝みたくて行ったのだが、見た目だけでなく(もちろん生で見ても大変な美人でしたが)、演奏そのものに完全にノックアウトされてしまった。

彼女の生演奏の感想を一言で述べると「怖い」。CDを聞いているときは気がつかなかったけど、彼女は演奏中、かなりハァハァ息を切らしながら演奏する。その没入度たるや、凄まじいの一言(そうやって曲に没入している様が、また絵になるのだが)。この人、演奏が終わったら倒れこんでしまうのだはないかと思ったほど。

そしてピアノがよく鳴る。出だしから一気に引きつけられた。単に音がでかいのではなく、ものすごい集中力で自分の世界を構築し、聴衆をそこに引きづり込んでしまう。その点では、6月に聞いたユンディ・リと同じである。しかも時々演奏中に、何かが閃いたのではないかと思える瞬間があった。ジャズのようなノリで、音がきらめく。彼女はこの曲を数えきれないくらい弾いているはずなのに、まったくマンネリ化していない。

白眉は第2楽章前半のソロ。ラヴェル屈指の美しいメロディーで個人的に大好きだけど、グリモーの演奏で聞くととても悲しく、不安になった。そうだ、この曲は見た目の華麗さとは裏腹に、とても寂しい音楽なのだと思う。グリモーの読みは眼光紙背に徹しすぎるぐらい徹して、ラヴェルが華やかさの背後に隠した孤独感を暴きだしたのだ。

おかげで、ゲルギエフとオケがどんな音を出していたのか、よく覚えていない。ソリストがこんなにオケを圧倒してしまうのも珍しい。何と怖いピアニストだろう!!それにグリモーは、本番中のインスピレーションを大切にして、リハーサルでの約束はあまり守らなさそうな気がする。聞いていてそんな印象を受けた。指揮者としては、やりづらい相手ではないだろうか。でもその分、聞いているほうはスリリングだ。

熱烈な聴衆の拍手にこたえて、2曲もアンコールを弾いてくれた。何の曲か分からないけど(ショパン?)、それもとても良かった。彼女が舞台裏に引っ込んだときは、こっちまでヘトヘト。もうお腹いっぱい。今日、ゲルギエフが幻想を前半に回したのは、グリモーの存在感を恐れたからではないかと邪推してしまった。

しかしまだラ・ヴァルスが残っていた。さすがにグリモーのあとだと分が悪いのだが、決して悪くはなかった。オケの鳴りっぷりが気持ちいい。4月に聞いた時も良かったし、やっぱりラ・ヴァルスはゲルギエフに合っていると思う。でもこの意見に賛同する人、日本にどの程度いるだろう。

何がともあれゲルギエフのコンサートとしては、今年の初めに聞いたシチェドリンの「魅せられた旅人」と並んで、満足度が高かった。

2010年12月24日金曜日

クレーメルの問い

  1. 楽器の技法~ヨハン・セバスチャン・バッハとグレン・グールドへのオマージュ
  2. 新譜「深き淵より」よりシャルクシュニーテ、ペルト、ナイマン、ペレシス、ピアソラの作品
ギドン・クレーメル&クレメラータ・バルティカ
12月23日 フィルハーモニー大ホール 20:00~

  • フィルハーモニー動物園、あるいはアンデルセンの童話「ナイチンゲール」に基づく音楽物語:9歳から99歳のお子様のためのコンサート
リカ・クレーメル(朗読)、ギドン・クレーメル(ヴァイオリン)、クレメラータ・バルティカのメンバー
12月24日 フィルハーモニー小ホール 17:00~

クリスマスの季節に、2日連続でクレーメル&クレメラータ・バルティカのコンサート。こういうコンサートを聞くと、プロデューサとしてのクレーメルの能力に舌を巻く。でもだからといって、ヴァイオリニストとしてのクレーメルがダメだと言っているのではない。確かに80年代、90年代の切れ味は衰えたかもしれないけど、相変わらず一流のプレイヤーだと思う。ただそれ以上に今回感じたのは、この人のクラシック音楽の聞き方、演奏の仕方、コンサートのあり方を不断に問い直そうとする姿勢である。そもそもこの人は、クラシック音楽というジャンルをどのように捉えているのだろう?

私がクレーメルという人に興味を覚えだしたのは、「ピアソラへのオマージュ」を聞いてからだった。あれでピアソラと同時にクレーメルにも興味を覚えて、クレーメルのCDを集めるようになった。10年前、クレーメルとクレメラータ・バルティカがピアソラとヴィヴァルディの四季を組みあわせたCDを出したときは、実家の近くに彼らが来たので聞きにいった。とっても楽しかったコンサートだった。さすがに、あの時チェロのトップに座っていたマルタ・スドラヴァなどはもういない。

ただピアソラにしても、ジャンルを超えるというよりは、あくまでもクラシックの音楽家がピアソラを取りあげるとこうなるという印象が強かった。だが今回、特に第1夜のコンサートを聞きながら、通常のクラシック音楽とも違うかもしれない、という思いを抱いた。

前半はバッハの平均律クラヴィーア曲集などの曲を、クレメラータ・バルティカの編成に合わせて編曲し、切れ目なく演奏したもの。最後の、グールドの演奏するゴールドベルク変奏曲(晩年の録音)に合わせてクレーメルらが演奏するのが、印象に残った。後半は先ごろノンサッチから発売された「深き淵より」から5曲を演奏。しかしこのCD、日本では「ミハイル・ホドルコフスキーらに捧ぐ」ということになっているのだが、いいのかロシアで演奏して、と思ってしまう。もちろん、クレーメル自身によるプログラム解説を読んでも、ホドルコフスキーのことなんてどこにも書いていない。尤もそんなことが書けたら、ホドルコフスキーに捧げる必要もなくなってしまうだろうけど。ただ、プーチンに目の敵にされているということで、ペルトやクレーメルからホドルコフスキーが自由の闘士のように扱われているのも皮肉な気がする。

さて、こんなことを言ったらクレーメルは不本意かもしれないが、初日は「ヒーリング・ミュージック」に近い印象を受けた。もちろん単なる癒し系ではない。時々クレーメル好みの「汚い音」が聞こえてきて、普通のアダージョ系のクラシックとも違う。実は、クレーメルらが作りだす音楽を捉える適当なアンテナが自分の中に見つからなくて、戸惑ってしまったというのが正直な感想。でもアンコール(おしゃべりのような合唱)は楽しかった。

だが2日目は文句なし。やっぱりこの人のプロデュース力は半端ではない。アンデルセンの童話「ナイチンゲール」をベースに、サン=サーンスの「動物の謝肉祭」、メシュヴィツの「動物の祈り」、リドーの「フェルディナンド」、R. コルサコフの「くまんばちの飛行」、バッハの「平均律クラヴィーア曲集」などを適宜織り込んでいく。リカ・クレーメル(クレーメルの娘?)以外にも、出演者全員がユーモアたっぷりにいろいろ喋って面白い。演奏は、いつものように特殊奏法を多用。もちろん会場の子どもは大喜びだったけど、大人が聞いても十分楽しかった。決して「子どもだまし」ではない、これぞ音楽!!ベートーヴェンの協奏曲などで聞かせてくれる過激なカデンツァも、子どもと一緒に音楽を楽しむ遊び心があってこそ、生まれてくるものなのかもしれない。

2日目の終演後、クレーメルのCDとエッセイを持って恐る恐る楽屋を訪ねてみたが、にこやかにサインしてくれた。他のファンとは一緒に写真に映ったりして、仕事のあとなのによくファンサービスをやるなあと思った次第。その後、楽屋を出たところで私の好きなロシアのジャズ・ベース奏者、ウラジーミル・ヴォルコフ氏とバッタリ鉢合わせ。彼も来ていたのか。ちょっとビックリした。

2010年12月19日日曜日

ペテルブルグでトゥランガリラ

  • オリヴィエ・メシアン:トゥランガリラ交響曲
ニコライ・アレクセーエフ指揮 サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団、フランソワ・ワイゲル(ピアノ)、トマ・ブロック(オンド・マルトノ)
12月19日 フィルハーモニー大ホール 20:00~

高校の時に出会って以来、愛聴している交響曲。そもそもこの曲を機に、本格的に「現代音楽」の世界へ足を踏み入れたような気がする。若きブーレーズから「売春宿の音楽」とけなされたらしいけど、メシアンの作品の中では抜群の親しみやすさ、カッコよさをほこっている。もともとロックバンドでキーボードを弾いていた原田節が、この曲に出会ってオンド・マルトノに開眼し、転向したように、この曲はプログレ系の人にインスピレーションを与える力も持っている。クラシックという枠にとらわれずに聞いたほうがいいかもしれない。

最近ではこの曲もだいぶ取りあげられる機会も増え、録音数も増えてきた。私自身、生で聞くのは2回目。前回は、2008年にPMFで取りあげられた際に聞きにいった。指揮は準メルクル、ピエール・ローラン・エマールのピアノに原田節のオンド・マルトノ、コンマスにライナー・キュッヒルという豪華メンバー。しかもこの日は、前半に細川俊夫をやるというハードなプログラム。臨時編成のユースオケにもかかわらず、ここまで仕上げてくるかという見事なアンサンブルの整いようだったが、楽しめたかというと、ちょっと微妙。アンサンブルを整えるのに精いっぱいで、その先を表現できていないという感じだった。余談だが、後日、北海道新聞に載ったコンサート評の書き手が、この曲のことを何も理解していなくて、ムッとした記憶がある。

さて、ペテルブルグ・フィルは得手不得手がはっきりしているオーケストラだ。ショスタコーヴィチなどでは日本のオーケストラが及びもつかないようなパワーを見せつけるが、慣れていない曲ではボロボロになる。メシアンなんて、もちろん慣れていない。開演前に譜面台を覗いてみたが、ピカピカの楽譜が置いてあった。そして出だしから金管と弦がずれ気味で、大丈夫かなと思いつつ聞いていたが、確かに結構危なかった。第5楽章の中間部でトランペットが思いっきり脱落したり、終楽章の前半で危うく崩壊しかけたり。CDにしたら、おそらく聞くに堪えないだろう。演奏の完成度は、かつてラジオで聞いたデュトワ&N響やチョン・ミョンフン&東フィルのほうが、絶対に上。

おまけにピアノのワイゲルが、風邪を引いているらしく、しきりに咳をする、鼻水が出てくる。見ていて、大丈夫かこの人と思った。気難しいアーティストなら、キャンセルしたのではないだろうか(ちなみに今日のピアノとオンド・マルトノのコンビは、NAXOSから出ている同曲のCDで演奏している)。

と書くと、なんかとんでもない演奏会だったみたいだけど、これが結構楽しかったのだから、音楽って不思議。少なくとも、PMFの時よりは楽しめた。ワイゲルも、遠くから見ていれば、おそらく風邪を引いていることに気がつかなかっただろう。見ている分には危うかったけど、音はきっちり出していた。

そして今日のMVPは、指揮者のアレクセーエフ。眉間にしわを寄せながら弾いているオーケストラに、一生懸命指示を出しまくって必死にまとめていた。複雑極まりない80分間の大曲を、よく勉強していた。立派だ。彼のおかげで、聞きごたえのある演奏になったような気がする。

確かにリズムが入り組んでくると、オーケストラが混乱してくるが、逆にある程度リズムが整理されてくると、オーケストラの持っている底力が生きてきた。このオケの得手不得手がはっきり見えたような気がした。

第5楽章の後、いったん休息。私の隣に座っていたお兄ちゃんは退屈したらしく、休憩時間に帰ってしまったが、一方でその時間に「気にいった」と話している人たちの声も聞こえた。そしてもちろん、オンド・マルトノを見るために前のほうへ人が群がっていた。しかし今日のオンド・マルトノには、ハイワットの普通のスピーカーがつながれていたが、あれでもいいのだろうか?

2010年12月18日土曜日

チョン・ミョンフン&フランス放送フィル in St. Petersburg

  1. モーリス・ラヴェル:組曲「クープランの墓」
  2. アンリ・デュティユー:メタボール
  3. エクトル・ベルリオーズ:幻想交響曲 作品14
チョン・ミョンフン指揮、フランス放送フィルハーモニー管弦楽団
12月17日 フィルハーモニー大ホール 20:00~

14日に開幕した「芸術広場祭」だが、今年は露仏友好年にちなんでフランス特集。17日はチョン・ミョンフン率いるフランス放送フィル。前任者のヤノフスキの時代に一躍有名になったオケだが(ヤノフスキ時代の4枚組のCD BOXセットを持っているけど、確かにいい)、当日会場に行ってみると、席は4分の3ほどしか埋まっていない。一階席の一番後ろで1000ルーブルとチケットが高めだったので、それで売れ残ったのかも。日本の感覚からすれば、それほど高いとも言えないが。

今年の6月にも、チョン・ミョンフンはソウル・フィルを率いてペテルブルグに来ているが、その時はオケが指揮者の指示を守って、楽譜を几帳面に音にしていたのに対し、フランス放送フィルの場合は、よりオケに自発性が感じられた。どちらもチョンの指導の結果なのだろうが。

まずは「クープランの墓」。オーボエのソロが上手い!!ちょっとしたタメ、音の伸ばし方にセンスの良さを感じる。それが彼女の自発性によるものなのか、チョンの指示なのかは分からないけど、全体的に木管がとても上手い、というかセンスがいいと思ったのは確か。

続くデュティユーも見事な色彩感。ただ単に音を鳴らすだけではなくて、オーケストラが全体としてどういう響を出さなければならないかを団員一人一人が理解して、それぞれの役割を果たしている。5曲目に限っては金管が怪しかった気がするけど、デュティユーなんてロシアでめったに聞けないので(ましてやこの水準のものは)、満足した。問題は、隣に座っていた若い女性2人が小声で駄弁っていたことか。おまけに演奏の最中に席を移動する人がいるし。まったくロシアの聴衆は…。

ということで、幻想に期待したのだが、これはやや期待外れだったかも。メリハリの利いた演奏だったと思うのだが、今一つ興奮できなかった。ラヴェルやデュティユーの時に感じた、「この人たちにしか出せないもの」というのを感じさせるのに、あと一歩なのだ。先日のソヒエフの時も、指揮者はいろいろ工夫しているはずなのに、今一つだった。テレビ、ラジオ、CDでいろんな名演に接しすぎたせいか、満足できる幻想の実演に出会うのは、案外難しいのかもしれない。

アンコールでラヴェルの「マ・メール・ロア」より「妖精の園」を取りあげていたが、これは出だしから夢幻的な雰囲気が満点。そうそう、コレコレ。これが聞きたかったのだ。最後は満場の拍手にこたえて、「カルメン」前奏曲をやって終わり。

2010年12月15日水曜日

テミルカーノフのラヴェル

  1. モーリス・ラヴェル:組曲「マ・メール・ロア」
  2. 同上:左手のためのピアノ協奏曲ニ長調
  3. 同上:「ダフニスとクロエ」第2組曲
  4. 同上:ラ・ヴァルス
ユーリ・テミルカーノフ指揮、サンクト・ペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団、エリソ・ヴィルサラゼ(ピアノ)
12月14日 フィルハーモニー大ホール 20:00~

12月は聞きたいコンサートがたくさんあって困る…。

テミルカーノフとラヴェルってなんだか結びつかないが、でも実は、彼がデンマーク放送交響楽団を振ったラヴェルのラ・ヴァルスとマ・メール・ロアのCDは、結構いいと思う。特にラ・ヴァルスは熱い。

聞いた結果は、絶品というわけではないけれど、割と満足できる水準だった。ラヴェルの面白さは十分伝わってきた。ラヴェルといえば、ゲルギエフも得意にしている(一般には、ゲルギエフとラヴェルはまるで結びつかないみたいだけど、私の中では、ゲルギエフはラヴェルのような作品を振る時にこそ、その長所を発揮する)。確かに色彩感は、ゲルギエフのほうが上のような気がする。でもそう聞こえたのは、主に会場のせいではないだろうか。マリインスキーのコンサートホールのほうが残響が豊かで、それでいて音の抜けがいいので、ラヴェルのような近代管弦楽向きである。テミルカーノフの演奏も、マリインスキーのコンサートホールで聞いていれば、さらに名演に聞こえたかもしれない。何がともあれ、6月のマーラーの時のような違和感はなかった。

ソリストのヴィルサラゼは、最初からミスタッチでどうなることかと思ったが、最後のカデンツァは意外とちゃんと弾けていた。カンデンツァを集中的に練習したということ?それにしてもこの曲、素人の耳にはCDで聞く限り、両手で弾いているように聞こえる。実演で見ても、何で左手一本であれだけ音が出てくるのか不思議。

あと不思議だったのは、テミルカーノフの楽譜。最後のラ・ヴァルスで使用していたのは、たぶんDover版。われわれ音楽愛好家にとっては、Doverは手軽に入手できるありがたい出版社だが、テミルカーノフのようなプロの人も使うのだろうか?そういえば去年、ゲルギエフの「指輪」を見にいった時も、Doverを使っていたような…。ひょっとしたらめくりやすいとか。でも実はラ・ヴァルスの最中、テミルカーノフが一カ所めくり間違えて、慌ててページを戻していたのがちょっと可笑しかったのだが。

2010年12月12日日曜日

セルゲイ・ババヤンのリサイタル

  1. アルヴォ・ペルト:アリーナのために
  2. オリヴィエ・メシアン:「幼子イエスに注ぐ20のまなざし」より「聖母の最初の聖体拝受」
  3. ウラジーミル・リャボフ:幻想曲ハ短調「マリア・ユージナの追憶に」 作品21
  4. ヨハン・セバスチャン・バッハ:ゴールドベルク変奏曲 BWV988
セルゲイ・ババヤン(ピアノ)
12月12日 マリインスキーコンサートホール 20:00~

こういう演奏会を聞くと、ある音楽家が売れたり売れなかったりする要因は一体何なのだろうと思う。

もちろん、CDをどれだけ出せるかが大きいのだが、レコード会社と契約を結べるかどうかは、知名度によるところが大きい。つまり鶏と卵のような関係。結局、マスコミが取り上げるかどうかが大きいのだが、現代社会においてマスコミが持つ影響力はあまりにも大きいので、何でもかんでもマスコミのせいにしてしまうことに、かえって躊躇してしまう。「それはマスコミのせいだ」と言っていれば、間違ってはいないにしても、それはそれで思考停止に陥ることはないだろうか。

今日聞いたババヤンは、今年の4月に偶然聞いて、印象に残ったピアニスト。その点では、先日のマジャラと同じ。今日は前半で現代音楽、後半がバッハという意欲的なプログラム。しかしババヤンの名前がほとんど知られていないせいか、客席は寂しい状況。おかげで、タダで一番前の席に座れたが。

特に良かったのは前半。ペルト、メシアン、リャボフを連続して弾いたが、実に見事だった。最初のペルトからして、とても美しい音。生のピアノって、こんなに美しかったっけと思った。この人の演奏で、ドビュッシーも聞いてみたい。続くメシアンとリャボフでは、弱音と強音の対比が激しい。これも録音ではなかなか出せない。リャボフは初めて聞く名前だけど、メシアンと同じくピアノの技巧の限りを尽くした曲で、面白い曲だと思った。

いわゆる「精神性」を感じさせる演奏ではない。美しい音、とどろくような強い音、きらめく色彩感。でもそれがとても気持ちいい。子どものころ、ただ単にいろんな音を出すことが面白かったことを思い出した。

その点、後半のゴールドベルク変奏曲は、もう少し聞き手を引きつける工夫が必要かもしれない。繰り返しの際、装飾音符の付け方を変えたり、それはそれで面白かったが、何しろ50分の長丁場。それにこの曲には、グールドの新旧両盤を含め、様々な名演奏が存在している。その中で独自性を出すのは大変だ。

でも最後はとても満足した。疑問は最初に記したとおり、この人、もうちょっと名前が知られてもいいはずなのに、ということ。

2010年12月10日金曜日

ムソルグスキーとストラヴィンスキーのピアノ曲

  1. モデスト・ムソルグスキー:幼年期の思い出
  2. 同上:お針子
  3. 同上:村にて
  4. 同上:組曲「展覧会の絵」
  5. イーゴリ・ストラヴィンスキー:4つの練習曲
  6. 同上:セレナードイ長調
  7. 同上:ペトルーシュカからの3楽章
ニコライ・マジャラ(ピアノ)
12月10日 フィルハーモニー小ホール 19:00~

今年の3月に聞いて、「お、このピアニストいいかも」と思ったニコライ・マジャラ。昼間の疲れは残っていたし相変わらず雪は降り積もっているが、それでも聞きにいった。

しかしムソルグスキーとストラヴィンスキーの作品のみで構成されたピアノ・リサイタルなど、聞いたことがない。2人とも大作曲家とはいえ、ピアノの作曲家とはみなされていないからだ。もちろんムソルグスキーの場合は、代表作に「展覧会の絵」があるが、あれも事実上、ラヴェル編曲の管弦楽版で広まっているし。それにしても、「展覧会の絵」は不思議な作品で、ラヴェルという「決定版」があるにもかかわらず、次から次といろんな管弦楽版が現れる(でもラヴェル版の地位は揺るがない)。それだけでなく、チェロとアコーディオンで演奏したやつだとか(長谷川陽子のCD。結構好きである)、ELPのロック版だとか、一体どこまで編曲されていくのだろう。詳しくは、「展覧会の絵の展覧会」なるすごいサイトを参照。

とまあ、そんなことをつらつらと考えながら聞いていたのだが、「ボリス・ゴドゥノフ」や「ホヴァンシチナ」を一通り聞いたせいか、これまで「下書きっぽいなあ」(失礼!)と思っていたら「展覧会の絵」のオリジナル版から、ムソルグスキーの美学の匂いを感じ取ることができた。なるほど、こうして聞くと、ラヴェル版は少々派手すぎるかもしれない。でもラヴェルを超える編曲はなかなか現れない。

もちろんそんなことを考えたのも、マジャラの演奏が良かったからだ。たぶん世界中を探せば、彼よりもさらに指がよく回るピアニストはいるだろう。今、楽器の技術は本当に天井知らずだから。でも彼の音色に対するセンスの良さは、ちょっと得難い。心地よい響きに身をゆだねることができる。また、対位法の描きわけも上手い。曲の構造が立体的に見えてくる。これで120ルーブルは安かった。

<追記>
吉松隆氏がこんなことを書いているのを発見。ということは、昨日聞いたのはプログレの起源だったのだろうか?

2010年12月9日木曜日

雪、雪、雪のコンサート

  1. エーリヒ・ウォルフガング・コルンゴルト:「雪だるま」より抜粋(ペテルブルグ初演)
  2. ニコライ・リムスキー=コルサコフ:組曲「雪娘」(D. ユロフスキ編)
  3. ピョートル・チャイコフスキー:交響曲第1番ト短調「冬の日の幻想」 作品13
ドミートリ・ユロフスキ指揮、サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団、オリガ・トリフォノファ(ソプラノ)
12月9日 フィルハーモニー大ホール 19:00~

一見して分かる、冬と雪がテーマのコンサート。まさしく今の季節にふさわしい。しかし会場にたどり着くまでが大変だった。今日のペテルブルグは夕方から猛吹雪。歩いていると、全身あっという間に真っ白。しかしバス停にも地下鉄の駅の入り口にも長蛇の列で、公共交通は使いづらい。ペテルブルグでここまで吹雪くことも珍しい気がする。

それはともかく、今日の指揮者はユロフスキ。といっても、最近ロンドン・フィルを振って売り出し中のウラジーミルのほうではない。ドミートリである。ネットで調べてみるとどうやらこの2人、兄弟らしい。

1曲目はコルンゴルトの「雪だるま」。何と作曲者11歳の時の作品。自分が11歳のとき、何していたかなと考えながら聞いてしまった。もちろんただの小学生だったわけだが…。オーケストレーションは先生のツェムリンスキーが手伝ったらしいけど、それにしても11歳の作品とはとても思えない。まるでR. シュトラウスの「ばらの騎士」のような甘い世界。マーラーやR. シュトラウスから神童扱いされたのもうなずける。これだけの恵まれた才能を持ちながら、晩年は「時代遅れ」のレッテルをはられて不遇だったというのだから、人生何が起きるか分からない。時代の波って恐ろしい。

次の「雪娘」は、同名のオペラから指揮者が自分で編んだもの。これはソプラノのトリフォノファが良かった。澄んだ声で発音も明晰。それにこういう曲を聞くと、R. コルサコフのオーケストレーションって凝ってるというのがよく分かる。ここに近代管弦楽法の基本があるんだなと。

メインはチャイコフスキーの1番。期待していたのだが、やや期待外れの演奏。このオケにとってチャイコフスキーは十八番のはずだが、今日は弦の鳴りが今一つで、リズムの詰めも甘い気がした。時々意外な内声部が聞こえてくる解釈は部分的に面白いが。もしかして指揮者がオケをいじくりすぎたのでは。もっとオケに任せればよかったのでは。

終演後は相変わらずの吹雪の中、歩いて帰る。

2010年12月4日土曜日

バレエ・プレルジョカージュ in St. Petersburg

  1. 結婚
  2. ケンタウロス
  3. 春の祭典
バレエ・プレルジョカージュ
12月3日 マリインスキー劇場 20:00~


「春の祭典」のラスト。百聞は一見に如かず。実際に見てくださいとしか、言いようがない。

女性が全裸になるなど、モダンバレエの世界では珍しくも何ともないかもしれないが、普段バレエを見ない人間が生で見てみると、やはり衝撃的である。特にロシアではこのような「過激な」振付には出会えないだけになおさら。テレビでは、日本では放送できないような下ネタが氾濫しているのに。そもそも、冒頭からして女性がパン××を脱ぐところから始まるのだ。なぜか今日はここで、会場から拍手と笑い声が起きた。おまけに、なぜか今日は子どもがたくさん来ていた。なんで…?

あからさまに性的な興奮を誘発する振付だが、でも「春の祭典」とはよく指摘されるように、人間の根底にはそういう衝動が潜んでいるということを暴きだした音楽なのだ。実は、以前びわ湖ホールで同じ振付を見たことがある。その時は、ラストの全裸にあっけにとられただけで終わってしまったが、今日は振付の意図を体感することができた。もちろん、最後に中央で踊る女性のダンサー(今日は日本人ではなかった)だけでなく、全員の動きが素晴らしく、また照明の使い方も見事だった。人間の原初的な欲望を、洗練された手法で描くというギャップの面白さ。

こういう「洗練された前衛」というのは、ロシアではなかなか出会えない。先日聞いたマルティノフにしても、よくも悪しくも素人っぽさというか、「単純さ」がある。理念としては難しいことを説いているのに、実際に出てくる作品はむしろ妙な「わかりやすさ」が付きまとっている。こういう前衛のアイディアなら、私でも思いつきそうだとふと思ってしまうのだが、それは聴衆として傲慢だろうか。

一方、今日のバレエは完全にプロの世界。こんな世界、私には絶対に作れません。ラストシーンで「興奮」を覚えながら、ああ完全にプレルジョカージュの手玉に取られてしまったと思った。もちろん聴衆の中には、あからさまに嫌悪感を示す人たちもいたけど。

でも考えてみれば、「春の祭典」はロシア人たちが作ってパリで初演したものなんだなあ。改めて思いおこしてみると、とても面白い。

「春の祭典」ばかりになってしまったが、「結婚」も「ケンタウロス」も面白かった。特に「ケンタウロス」(音楽はリゲティ)では、二人の男性のダンサーの肉体美を見せつけられた。

2010年11月27日土曜日

K. リンドバーグ&北極フィル in マリインスキー

  1. オレ・オルセン:トロンボーン協奏曲 作品42(世界初演)
  2. エドワルド・グリーグ:ピアノ協奏曲イ短調 作品16
  3. クリスチャン・リンドバーグ:コンドルの峡谷(トロンボーンと金管五重奏のための)
  4. ピョートル・チャイコフスキー:交響曲第5番ホ短調 作品64
クリスチャン・リンドバーグ指揮&トロンボーン、アークティック・フィルハーモニー管弦楽団、クリスチャン・イリ・ハードランド、マリインスキー劇場金管五重奏団
11月26日 マリインスキー・コンサートホール 20:00~


アークティックとは「北極の」ということ。要は「北極フィルハーモニー管弦楽団」。ウラジオストクには「太平洋交響楽団」という大層な名前のオーケストラがあるが(ただし技量は日本のアマオケ以下)、負けず劣らず凄い名前だ。しかも指揮者に「トロンボーンのパガニーニ」の異名を取るクリスチャン・リンドバーグを迎えている。

このオケ、2009年にできたばかりの新しいオーケストラ。もちろん一から作ったわけではなく、いくつかの室内管弦楽団や、軍楽隊のメンバーから成り立っている。面白いことに、管楽器の奏者の半分近くは軍楽隊の制服を着ていた。

このコンサート、お目当てはリンドバーグだったものの、終わってみればなんだか視覚的印象が強くて、音そのものは実のところあまり覚えていない。

オケの団員はみんな黒っぽい服を着ているのに対し、リンドバーグは一人だけ、アロハシャツの一歩手前のような派手なシャツに、足のラインがよく分かるぴっちりした黒いズボンをはいて出てきた。しかも笑いながら走って出てくるものだから、今からクラシックではなく、ラテンジャズでも始めるのかというような雰囲気。

トロンボーンに革命をもたらしただけのことはあって、細かいパッセージもきっちり吹きこなすが、最初のうちは、高音域がやや詰まり気味。全盛期は過ぎたか?彼の本領が発揮されていたのは、オルセンの協奏曲(この曲、1886年に書かれて埋もれていたのを、今になって初演したらしい)よりも、自作自演のほうだと思う。さすがに自分の名人芸を誇示するために作っただけのことはあって、よい意味での曲芸的な愉しさがあった。マリインスキーの金管五重奏も見事。パガニーニもショパンもリストも、もともと自分の名人芸を聞かせるために作曲していたのであって、こういう作曲のあり方こそ「正しい」のかもしれない。

しかし「吹き振り」の最中も、グリーグの伴奏を振っている最中も、なんか変だなあと思っていたのだが、休憩時間に気がついた。何のことはない、リンドバーグは左利きなのだ。それでトロンボーンを右手に持って、左手で指示を出す。あるいは指揮棒を左手で持つ。それでなんだか違和感があったのだ。ちなみにその振り方は、なんだか手旗信号みたいで、ちょっとおかしかった。自分でもまだまだ研究したいらしく、自分で舞台の後ろにビデオカメラを設置して、自分の指揮姿を映していた。

演奏そのものは、奇をてらうことのない、正攻法なものかなあと。逆に言うと、ちょっとインパクトに欠けるきらいがある。オーケストラともども、今後どこまで成長するか未知数。

コンサートのプログラムの中に、The Northern Lights Festival という、ノルウェーのトロムセー(トロムソ)で1月末から2月初めにかけて開かれる音楽祭のチラシが入っていた。真冬の北極圏で行われる音楽祭というのに、ちょっと惹かれるのだが。

2010年11月24日水曜日

しわくちゃにした紙の音はどうなっているの?~ジョン・ケージ

  1. クルト・ワイル:ユーカリ(Youkali)
  2. エリック・サティ:最後から2番目の思想
  3. ジョン・ケージ:"5", "But what about the noise of crumpling paper which he used to do in order to paint the series of "Papiers froisses" or tearing up paper to make "Papiers dechires?" Arp was stimulated by water (sea, lake, and flowing waters like rivers), forests"
  4. フランク・ザッパ: "How could I be such a fool", "Mom & Dad", "The Sheik Yerbouty tango,"
  5. ジミ・ヘンドリックス:Angel
  6. アレクセイ・アイギ:"Ping-Pong is living", "Loft", "Equus II", "Nextango", "Finistere", "8"
アレクセイ・アイギ&アンサンブル4'33"
11月24日 フィルハーモニー大ホール 19:00~

先日に続き、クラシックの影響を受けたロシアン・ロックの世界。昨年の9月、モスクワに滞在していたときにも、このアンサンブルは聞いた。その時は、クラシックぽい編成でロックをやっているという感じだったが、今回は前半で本当にクラシックを取りあげていた。

一番楽しめたのは、ジョン・ケージのすごく長いタイトルの曲。さすが「4分33秒」と名乗るだけのことはあって、ちゃんとケージの曲もやってくれた。この曲を聞くために、このコンサートに行った価値があったと言っても過言ではない。ロシア語のプログラムだと、「しわくちゃにした紙の音はどうなっているの?」というタイトルになるが、原題はものすごく長い。この曲について、詳しくはコチラ

6人の奏者が、ポコ、ポコとスローで打楽器(一人はピアノ)を叩きながら、合間合間に紙をぐしゃぐしゃと鳴らす。ある人は、水の入ったコップにストローを突っ込んで、ブクブクを音を立てたり。客席は笑いをこらえるのに必死で、最後のほうにはあちこちでクスクスと笑い声が…。まったく、なんという「音楽」だろう!!でもこういうジョン・ケージが大好きだし、安価でこういう曲(演奏)に接する機会を提供してくれるから、ロシアのコンサートはやめられない。

ケージの印象が強烈すぎるので、他の曲や演奏についての印象は割愛。

2010年11月20日土曜日

カワウソの子どもたち~ロシアの「前衛」音楽

  • ウラジーミル・マルティノフ:組曲「カワウソの子どもたち」
フーン・フール・トゥ(Huun Huur Tu)、Opus Posth、ムラダ(Mlada)、ウラジーミル・マルティノフ(ピアノ)
11月20日 フィルハーモニー大ホール 19:00~


ウラジーミル・マルティノフと言えば、今年の初めに聞いた「ガリツィアの夜」も変な曲だったが、今日聞いた「カワウソの子どもたち」はさらに壮大で変。両方ともフレーブニコフのテキストを基にして書かれているので、その意味では姉妹作だが、編成はかなり違う。

前回は、弦楽アンサンブルOpus Posth とポクロフスキー・アンサンブルの共演だったが、今回はポクロフスキーの代わりにムラダというペルミの合唱団と、フーン・フール・トゥというトゥヴァ系のエスノ・アンサンブルの共演。そのせいか、今日は東洋系(でも明らかに日本人ではない)の顔が会場で目立った。

この人たちで、80分ほどの音楽を奏でる。一応、マルティノフの作曲ということになっているが、明らかにフーン・フール・トゥが主体になって作曲した部分が、何カ所かある。私が気にいったのは、これらの個所。特に前半、ハイテンポながらしっかり歌って気持ちがいい個所がある。いかにも草原を駆け抜けるさわやかな風を思いおこさせる。

一方、マルティノフの個性が出た部分は苦手だ。普段クラシックを聞いているせいか、開放弦を大体に弦をひっかく奏法には、なかなか馴染めない。でもそれ以上に、マルティノフの打ち出す宗教的な雰囲気に馴染めなかった。特に合唱が加わると、荘厳な雰囲気が増すのだが、同時にある種の「胡散臭さ」まで出てくるのは、なぜだろう。あるいは、理屈っぽさが鼻につくというのか…。

でもどちらにしろ、現代ロシアを代表する「前衛」の音楽であることに、間違いない。なんだかんだいって気になるので、会場で売られていたDVD(昨年、ペルミで初演された時の様子を収めたもの)を、帰りに買ってしまった。

それにしても、今日はフィルハーモニーの大ホールがほぼ満席だった。なんでこんな実験的な作品に、こんなに人が集まったの?マルティノフ、あるいはフーン・フール・トゥって、一般のロシア人の間でも有名なのか?

2010年11月19日金曜日

マリインスキーで吹奏楽

  1. アーロン・コープランド:バレエ音楽「ロデオ」より「カーボーイの休日」と「ホー・ダウン」
  2. フリードリヒ・グルダ:チェロ協奏曲
  3. Fredrik Österling:Songes-extases (世界初演)
  4. ジョージ・ガーシュイン:ラプソディー・イン・ブルー
  5. 同上:歌劇「ポギーとベス」より
Maria Eklund 指揮、スウェーデン・ウィンド・アンサンブル、セルゲイ・ロルドゥギン(チェロ)、セルゲイ・ナカリャコフ(トランペット)
11月17日 マリインスキー・コンサートホール 19:00~


今年はよく外国のオーケストラが来る。露仏友好年だから、フランスのオケが来るのは分かるにしても、まさかスウェーデンの吹奏楽団が来るとは。

実はこの夏、ストックホルムに行く機会があり、王宮で軍楽隊のパレードを見たのだが、度肝を抜かれた(この表現、数年ぶりに使うかも)。ピッチのそろい方が半端ではない。これぞ究極の純正調。「ハーモニーってここまで磨き上げることができるんだ!!」と感嘆することしきり。スウェーデンと言えば合唱王国だと思っていたけど、吹奏楽も凄いらしい。

ということで今回のコンサートに行ったのだが、ストックホルムの王宮で聞いた軍楽隊に比べると、さすがに「普通に上手い」というレベルに留まっている。むしろ今回インパクトがあったのは、セルゲイ・ナカリャコフ。彼も今年で33歳。私が中学か高校にいたころにさっそうとデビューして、今はどうしているのかと思っていたけど、ちゃんと「大人」になったらしい。トランペット協奏曲風に編曲された「ラプソディー・イン・ブルー」だったけど、冒頭のソロ(クラリネットソロの部分を、トランペットで吹いていた)からして、存在感たっぷり。ただこの人の場合、その魅力を言葉にするのは難しい。とにかく「クールな貫禄」ということだろうか。あれこれ技巧を弄しなくても、存在感を示せるというのか。

あとはグルダのチェロ協奏曲が笑えた。以前ラジオで聞いたことがあったけど、生で聞くのは初めて。もちろん鮮烈なのは第1楽章。完全にロックのノリだけれども、そこでチェロを主役にするというのが可笑しい。ロルドゥギンのチェロはノリがイマイチだったかも。でもその「ズレ」こそが、この曲の魅力なのかもしれない。

2010年11月13日土曜日

マリインスキーの「マクロプーロスの秘事」

  • レオシュ・ヤナーチェク:マクロプーロスの秘事
ミハイル・タタールニコフ指揮、マリインスキー劇場管弦楽団&合唱団、ジャンナ・アファナシエファ(ソプラノ)ほか
11月12日 マリインスキー劇場 19:00~

同じ曲を同じメンバーで夏休み前に聞いたが、期待以上によかった。しかしどうやらこれは、舞台上演に向けた練習だったらしい。先月から、劇場のほうで上演しだした。これは見ておきたい。「マクロプーロス」なんて、滅多にお目にかかれないし。

まず演出が良かった。いつものマリインスキーに比べて、洗練されている。実際には声を発しない人たちも出てくるが、彼らの動きが印象的で想像力をかきたてる。それでいて、歌手の邪魔をしない。様々な大道具、小道具のセンスもいい。休憩時間に、今日の演出は誰だろうと思ってプログラムを見てみたら、グラハム・ヴィック。ステージデザイナーや照明にも外国人が名を連ねており、このプロダクションの初演もデンマークだったらしい。つまり基本的に外のプロダクションだったわけで、どうりでと納得(してしまうのも、ちょっとさびしいけれど)。

演奏のほうは、前半は快調。メリハリのある演奏で、ヤナーチェクの響きがする。残念だったのは後半、徐々に粗が目立つようになってきたこと。疲れてきたのか、練習時間が足りていないのか。全体的には健闘していたと思うが。

プログラムによれば、ヤナーチェクはカミラ(ヤナーチェクが熱烈に(勝手に)思いを寄せていたことで有名な女性)への手紙の中で、このオペラに関連して「私たちは人生が短いことを知っているから、幸せなのです。ですから、ひと時ひと時を私たちは有効に使わなければなりません」と述べているそうだ。そうか、そういうことを考えながらヤナーチェクはこのオペラを作曲したんだと、これも納得。

人は生きる、草が茂るように…

  • ロストフ、トゥーラ、スタヴロポリ、ペルミ、スモレンスクなどの正教徒、旧教徒の讃美歌
ポクロフスキー・アンサンブル
11月11日 マリインスキー・コンサートホール 19:00~

今年の1月に、同じコンサートホールで聞いたポクロフスキー・アンサンブル。何!?この人たちと思いつつ、その正体不明の感じが愉しかった。今回はおそらくもっと「本領」に近い形で、讃美歌(песнопение)を歌ってくれた。ただ「讃美歌」と訳してみたものの、多くの日本人がイメージするような、親しみやすい歌とは違う。じゃあラフマニノフの「徹夜祷」のようなものをイメージすればいいのか。確かにエネルギーという点では通じるものもあるが、それでも「徹夜祷」ではこんな「だみ声」は出てこない。むしろストラヴィンスキーの「結婚」の世界に近い。

ポクロフスキー・アンサンブルについては、伊東信宏『中東欧音楽の回路』(岩波書店、2009年)の中の短いエッセイで触れられている。この中で伊東氏は「彼らは民謡に『成る』」(61頁)と言っているが、上手い表現だと思う。

今回歌われた曲の多くは、旧教徒のものらしい。だとすれば、「讃美歌」でありながら土俗的原始的(ストラヴィンスキー的?)であることも、納得できる気がする。

なお「人は生きる、草が茂るように…」というのは、たぶん歌われた歌の中の一節である。

2010年11月4日木曜日

ニコライ・オブホフって誰?

  1. アレクサンドル・スクリャービン:交響曲第3番ハ短調「神聖な詩」 作品43
  2. ニコライ・オブホフ:3番目にして最後の聖書 (ロシア初演)
アレクサンドル・ティトフ指揮、サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー管弦楽団ほか
11月4日 フィルハーモニー大ホール 19:00~

ロシアは今週いっぱい連休。というわけで、この機会に何か面白いコンサートないかなあと思ったら、あったあった。秘曲マニア(?)ティトフの振るコンサートが。ニコライ・オブホフって誰?しかも一緒にやるのがスクリャービンの「神聖な詩」とは。

スクリャービンは、「法悦の詩」は好きだけれども、他の曲はよく分からんというのが正直な感想。時々気分転換に、ピアノソナタの5番とか「プロメテウス」を聞くけど。「神聖な詩」は前に聞いたのがいつだったのか、忘れてしまった。

というわけで、50分近いこの曲を耐えきれるのか不安だったが、これがなかなか楽しめた。このオケが、チャイコフスキーやショスタコーヴィチを得意とするのは分かっていたけど、スクリャービンも良い。音色も歌い方も、ピッタリである。冒頭からトロンボーンとチューバが鳴りまくり。第3楽章はトランペットが鳴りまくりで、ロシアンブラスを堪能することができた。もちろんそれだけでなくて、弦や木管も魅力的だったが、インパクトとして大きかったのはバリバリ鳴る金管。弦や木管はともかく、ああいう馬力ある金管の音は、残念ながら日本のオケにはちょっと出せない。こうして聞いてみると、スクリャービンってロシアの作曲家だったのだなあということを、あらためて思い知った。

さて、後半のオブホフだが…。この人は1892年生まれ、1954年没で、青年期はモスクワで過ごし、ロシアで音楽教育を受けたものの、革命を機に亡命し、そのままフランスで生涯を終えた。シェーンベルクより先に12音技法を用いたことで、音楽史に名をとどめている(というか、日本語のウィキペディアの「十二音技法」のところに、この人の名前が出ていた)。

「3番目にして最後の聖書」は、1946年に書かれた大作。オーケストラに加えて、5人の歌手、2台のピアノ、オルガン(2人で弾く)、テルミン(!)を必要とする。時間は40分ほどだったか(ちゃんと計っていない)。

音楽は何と言えばいいのか…。スクリャービンと並べて演奏されたのは、スクリャービンの影響を受けたからで、確かに全体的には、「プロメテウス」に声楽とテルミンを加えて、もっと前衛的にしたような雰囲気である。でもオーケストレイションは、案外アイヴスに似ているんじゃないかという気も。いわば引用のないアイヴス?? 題名の示す通り、宗教的な内容の音楽だが、後半はテルミン協奏曲みたいになって怪しさ満点。耐えきれずに、途中退席する人も多かった。

名曲かどうかは(名演だったかどうかも含めて)分からないけど、でも場内に鳴り響いたテルミンは面白かった。こういう秘曲を聞くのは好きだ。

2010年10月31日日曜日

ソヒエフの凱旋

  1. クロード・ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲
  2. ジャック・イベール:フルート協奏曲
  3. エクトル・ベルリオーズ:幻想交響曲 作品14
トゥガン・ソヒエフ指揮、トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団、エマニュエル・パユ(フルート)
10月31日 マリインスキー・コンサートホール 19:00~

今注目のソヒエフは、これまでも何度かマリインスキーで聞いているが、今一つピンとこなかった。でもプラッソンでブレイクしたトゥールーズのオケとなら、いい結果を出すかもと思って、ちょっと期待しつつ出かけた演奏会。

もちろんこの演奏会は、ソヒエフだけでなくパユも目玉。イベールの協奏曲はそんなに詳しく知っているわけではないけど、パユの圧倒的な技巧には感服。一音一音の安定感、存在感が他のフルート奏者とは違う、という感じ。

では気になっていたソヒエフはどうかというと、この人にこれから期待していいのかどうか、やっぱりよく分からんというのが正直な感想。

ソヒエフってこんなにきっちり振る人だっけ、と思ったぐらい、今日はきちんと拍を出す見やすい指揮だった。オーケストラが熟知しているであろうフランス・プロにも関わらず。丁寧に振っていた理由の一つは、細かくテンポを動かしたかったからで、特に幻想の第1楽章などかなり大胆な設定。でもオーケストラのほうも、乱れることなくついてくる。マリインスキーの時より、きっちりリハーサルしているのは明らかで、その点は好感をもったのだが、なぜか演奏を聞いていて今一つ興に乗れない。牧神にしろ幻想にしろ、何やらモノクロームな感じで、物語性もエスプリも感じられない。曲の構造は、きっちり浮かびあがってくるけど。よりによってフランスのオケを振って、なんでこんな演奏をするのだろう。しかし1回聞いただけでは分からないけれど、CDで繰り返し聞けば、ソヒエフの面白さが分かるかもしれない。そう思いながら、聞いていた。

文句なしによかったのはアンコールの「カルメン」前奏曲。最初、ドヴォルザークのスラブ舞曲第1番ハ長調をやった後、「カルメン」をやったが、ここには間違いなくさっきはなかった華があった。今から幕が開く!!という愉しさに満ちた演奏。ソヒエフはマリインスキーで何度も「カルメン」を振っているので、この曲は完全に手の内に入っているはずだが、もっとこういう演奏をしてくれたらなあと思う。その後もう1曲、オペラの間奏曲のような、知らない曲をやっていたけど、それも良かった。

しかし今日のフルートの首席はやりづらかっただろうな。牧神の時は、この後にパユが出てくるということを意識せざるをえなかっただろうし、幻想の時はパユが客席に座って聞いていたし。

2010年10月26日火曜日

初ミハイロフスキー劇場~アレヴィの「ユダヤの女」

  • ジャック・アレヴィ:歌劇「ユダヤの女」
ペーテル・フェラネツ指揮、ミハイロフスキー劇場管弦楽団&合唱団ほか
10月26日 ミハイロフスキー劇場 19:00~

昨夜、日本から持ってきたプルーストの『失われた時を求めて』(鈴木道彦訳)の第1巻を読んでいたら、アレヴィの「ユダヤの女」のことが出てきた。そういえばこのオペラ、最近ミハイロフスキー劇場でやってるよなと思って調べてみたら、今日やることになっている。チケットもまだ十分余っているみたいだし、足を運ぶことに。実を言うと、1年半以上この街に過ごして、ミハイロフスキー劇場で音楽を聴くのは初めて(映画祭の時に、建物のなかに入ったことはある)。

ストーリーについては、グーグルで検索してもらえればすぐに出てくるのでここには書かないけれど、悲劇的な復讐劇。たぶん20世紀の作曲家(シェーンベルクとかショスタコーヴィチとかブリテンとか)ならば、不協和音を駆使して問題提起的なオペラに仕上げるのだろうけど、そこは19世紀前半のフランス。むしろ耳になじみやすいアリアや合唱満載の、典型的な「オペラ」になっている。ちなみに序曲が終わるとすぐに、オルガンのソロとともに祈りの合唱が流れるが、これってワーグナーの「マイスタージンガー」そっくり。もしかしてワーグナーは、ここからアイディアを頂戴したのかと思ったぐらい。

プルーストが言及しているぐらいだから、100年位前まではヨーロッパで広く受け入れられていた作品なのだろうけど、その後の100年間はさっぱり。しかし4年前にはDVDも出て話題になったし、こうしてロシアでも上演されているところを見ると、リバイバルの兆しがあるのだろうか。

演出は設定を少し変えていて、舞台は1930年代ヨーロッパの架空の国ということになっている。あからさまにナチスを想起させる人たちが出てきたりして、なんで1930年代なのか、意図は明白。衣装は豪華で、このように演出はそれなりに凝っているものの、どこか学芸会的な雰囲気が漂う。たぶんそれは演奏のせいで、特にオケが、何でこんな乾いた音しか出せないのかと思うくらい、音楽が盛り上がらない。だが聞いているうちに、ここのホール自体に問題があるのではないかという気もしてきた。少なくとも桟敷席で聞く限り、音の残響がほとんど感じられない。この体育館的音響が、学芸会の雰囲気を醸し出していたのではないか。マリインスキーで聞けば、もっとちょっとマシに聞こえた可能性はある。

実を言うと今日は疲れていたし、長丁場(休憩時間も含めて4時間近く)ということもあり、第3幕が終わった時点で劇場を後にした。

2010年10月19日火曜日

今度はメンデルスゾーンの「パウロ」

  • フェリックス・メンデルスゾーン:オラトリオ「パウロ」
ドミートリ・ズボフ指揮、サンクトペテルブルグ交響楽団、Kantorei der Schlosskirche Weilburg, ドリス・ハーゲル(ソプラノ)、マンフレッド・ビトナー(バス)ほか
10月17日 フィルハーモニー大ホール 19:00~

こないだマリインスキーでメンデルスゾーンの「エリア」(ちなみにロシア語だと「イリヤ」になる)が演奏されたばかりだが、今度はフィルハーモニーで同じメンデルスゾーンの「パウロ」(ロシア語だと「パーヴェル」)が演奏された。まるで示しあわせたようだ。

3年か4年ぐらい前に、演奏者は誰だか忘れたが、NHK-FMでたまたま「パウロ」を耳にして、「何だドラマチックないい曲じゃないか」と思った。それ以来、「メンデルスゾーン=苦労知らずの金持ちの作曲家=いやな奴」というイメージも見なおすようになった。

わざわざドイツから合唱団とソリストが来ていたが、一番良かったのは、合唱団の指導者でもあり、ソプラノ歌手でもあるハーゲル。外見からしてそろそろいい年ではないかと思うが、とても澄んだよく通る声で、最後まで無理なく歌っていた。パウロを歌ったビトナーも落ちついたいい声だと思う。

問題はいつもの通り(?)、オーケストラ。明らかにリハーサルが足りていない。フィルハーモニーの第二オケだが、特に弦楽器の音程が怪しすぎ。このオーケストラがドイツから来た合唱団の前に立ちふさがるような格好に。合唱団はハーゲルの指揮でCDを出しているぐらいだから、さすがに慣れていたが。

今度は、もっと高い水準の演奏で聞きたい。

2010年10月15日金曜日

シューベルトと新ウィーン楽派

  1. フランツ・シューベルト(アントン・ウェーベルン編):ドイツ舞曲集
  2. アルバン・ベルク:ヴァイオリン協奏曲
  3. フランツ・シューベルト:交響曲第9番ハ長調(グレート)
ニコライ・アレクセーエフ指揮、サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団、アリョーナ・バーエヴァ(ヴァイオリン)
10月15日 フィルハーモニー大ホール 19:00~

シューベルトと新ウィーン楽派を組みあわせた意欲的なプログラム。こういうの好きだ。でもロシアのオケって、実はあまりドイツものが得意ではないという認識があるのだが。

一曲目のウェーベルンの編曲によるシューベルトは、「音楽の捧げもの」ほどではないにしろ、やっぱり変わった編曲だと思う。あえて盛り上がるのを避けているような。

お次のベルクは、ソリストのバーエヴァに期待したのだが、今回は不発気味。でもその主な原因は、オーケストラにあるような気がする。とにかくオーケストラが鳴らない。音に自信が感じられないのは、こないだの「大地の歌」と一緒だが、今日のはオーケストレーションがより複雑なだけに、オーケストラが「なんでここでこの音を出さなきゃいけないの?」と戸惑っているのが、よりはっきり分かる。これでは、ソリストもやりにくいだろう。アレクセーエフはいつになくきっちり振っていたが、逆に言うと、それだけきっちり振らないと、オーケストラが崩壊してしまうということだと感じた。

メインのシューベルトは、ベルクとは全く違った意味で難しい曲だ。この曲、「天国的な長さ」がすぐに「天国的な退屈さ」になってしまう。ロシアのオケって、こういう曲が苦手なのだよなあと思っていたが、意外と聞けた。メロディーの歌い方やリズムの活かし方など、部分的にはとてもいい。オッと思わせる瞬間が何度かあった。ただしそれが長続きしない。そこが問題。もちろんそれは、曲自体の問題でもあるのだが。

たぶんベルクのようなタイプの曲は、マリインスキーのほうが上手いだろう。でもシューベルトは、フィルハーモニーのほうがいいような気がする。

2010年10月11日月曜日

レザール・フロリサン in St. Petersburg

  1. マルカントワーヌ・シャルパンティエ:田園劇「アクテオン」
  2. ヘンリー・パーセル:歌劇「ディドとエネアス」
ウィリアム・クリスティ指揮、レザール・フロリサン
10月10日 マリインスキー・コンサートホール 20:00~

本当に素敵な、可憐な演奏、そして音楽。ロシアではなかなかこういうコンサートに出会えないだけに、なおのこと貴重。いや~本当に来て良かった。

特にシャルパンティエは絶品だった。曲の個性と演奏者の個性がピタリと一致して、愉しいことこの上ない。ルノワールは、「人生とはうんざりするものだから、芸術作品はそれとは別の、愛らしく美しく愉しいものでなくてはならない」という趣旨のことを述べたらしいが、シャルパンティエの作品は、その言葉を思い出させる。お話自体は悲しいものだが、音楽は浮世の疲れを癒し、生きる喜びを与えてくれるものだった。

それに対して、パーセルの作品はもう少し翳りのあるものだけに、少し演奏者と作品の間に距離があるのを感じた。それでも、高水準の演奏だったことには間違いない。

演奏形態は、オペラとコンサートの中間のような形で、舞台の中央にオーケストラが位置し、その周りを歌手たちが動き回るというものだった。特に目立った舞台装置はなし。それでも、想像力を十分駆り立ててくれた。

クリスティの名前もレザール・フロリサンの名前も、ロシアでそれほど有名だとは思えないのに、会場は満員。臨時の席を追加していたほど。最後は熱狂的な拍手が延々と続いて、何度も舞台に呼び出されていた。やっぱりこの街には、熱狂的な古楽好きが一定数いるらしい。

2010年10月7日木曜日

スナイダー、「エリア」を振る

  • フェリックス・メンデルスゾーン:オラトリオ「エリア」
ニコライ・スナイダー指揮、マリインスキー劇場管弦楽団&合唱団、ワジム・クラヴェツ(バス)、アナスタシア・カラギナ(ソプラノ)ほか
10月6日 マリインスキー・コンサートホール 19:00~

日本語のウィキペディアを見ると、メンデルスゾーンの「エリア」について「メンデルスゾーンの代表作であり、のみならずオラトリオ全体の中でも最も著名な作品の一つである」と書いているが、実際には彼の他の代表作、「スコットランド」、「イタリア」、「真夏の夜の夢」、ヴァイオリン協奏曲(メン・コンというあだ名まである)などに比べると、知名度で圧倒的に劣るのではないだろうか。今回足を運んだのも、単純に聞くチャンスが少ないと思ったからである。少なくとも、日本のコンサートのチラシで「エリア」の名前を見たことはない(ただし私は首都圏に住んだことがないので、首都圏に住んでいれば話は違うかもしれない)。

スナイダーの指揮については、金曜日の演奏会で少し未熟さを指摘した。今回はオケは小編成になるが、代わりに合唱と独唱が加わる。それに、ひょっとしたらマリインスキーのオケはこの曲を初めて弾く可能性がある。弾いたことがあるとしても、だいぶ前だろう。そもそもメンデルスゾーン自体、あまり取りあげない。したがって、また練習不足の演奏を聞かされるのではないかと不安に思っていたが、意外にも金曜日より出来が良かった。

確かに合唱は荒い部分があるし(特にソプラノ・パート)、独唱者もまだ歌を体得しているとは言えない(その中ではカラギナがかなりマシだった。この人、いろんなコンサートで見かける。ものすごくいいというわけではないが、大きな不満も感じさせない。安定した歌い手だと思う)。しかし全体的には、かなりテンションが高めの名演だった。そう、メンデルスゾーンはこういう劇的な大曲も書ける人なのだ。

スナイダーの指揮は、確かにまだ表層的な部分があるものの、意外にもマーラーの時より自分の意志をオケに浸透させている。この人、もしかしたら将来指揮者として化けるのではないか。今日の演奏はそんな期待を抱かせてくれた。

2010年10月5日火曜日

アルブレヒトの「大地の歌」

  • グスタフ・マーラー:交響曲「大地の歌」
ゲルト・アルブレヒト指揮、サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団、アリギルダス・ヤヌタス(テノール)、オレシャ・ペトロヴァ(メゾ・ソプラノ)
10月5日 フィルハーモニー大ホール 19:00~


これで10番の全曲版を除き、マーラーの交響曲は全部生で聞いたことになる。だからって、自慢してもしょうがないのだけど。ペテルブルグ滞在中に、たまたまマリインスキーとフィルハーモニーの両方で、マーラーチクルスをやってくれたのが良かった。しかしそんなにロシア人は、マーラーが好きなのか?

と言うのも、今日の演奏を聞きながら、オーケストラがマーラーの語法に慣れていないのではないかという思いを抱いたからだ。出だしのホルンからして、なんだか思いっきりが悪い。その吹っ切れなさは、最後までついて回った。オーケストラが始終手探りで音を出しているという状態なのだ。その意味では、6月に聞いたテミルカーノフの4番と似た印象なのだが、曲がより複雑なせいか、今日の演奏はより「ノリが悪い」と言う気がした。

もしかしたら、指揮者のアルブレヒトの責任かもしれない。この人、ドイツ音楽全般に精通しているはずだが、今まで演奏を聞いたことがなかったので、いかんとも判断しがたい。振っている姿がちょっと元気のないように感じたけど、大丈夫だろうか。

2010年10月3日日曜日

マリインスキーの「イーゴリ公」

  • アレクサンドル・ボロディン:歌劇「イーゴリ公」
ボリス・グルジン指揮、マリインスキー劇場管弦楽団&合唱団ほか
10月3日 マリインスキー劇場 11:30~


実は初めて好きになったクラシック音楽が、ボロディンの歌劇「イーゴリ公」の中の「だったん人の踊り」である。小学4年生の頃、母が居間でかけていたCD(カラヤン&ベルリン・フィルの演奏)を横で聞いていて、「何かこの曲いいなあ」と思った。以来、思い出の一曲になっている。

マリインスキー劇場では定期的に「イーゴリ公」を取りあげるので、慌てて聞きにいかなくてもいいだろうと呑気に構えていたのだが、徐々に帰国の日が近づいてきつつある。日曜の昼間というのは個人的に好都合なので、この日を選んだ。他の人にってもそうなのか、会場はほぼ満席。

演奏のほうはというと、イマイチ冴えなかった。序曲とか「だったん人の踊り」とか、弾けているのかどうか怪しい個所が結構あった。でも、日本では簡単に全曲聞けないので、とりあえず聞いておいて良かったと思う。

以前、やはりマリインスキーの「イーゴリ公」を見にいった日本の友人が「なんで主役のイーゴリ公があんなにしょぼいんだ」と苦笑していたが、全く同じ感想を持った。マリインスキーの「イーゴリ公」の構成は、ウィキペディアなどで紹介されているのとは違って、プロローグの後、序曲が演奏され、その直後に第2幕が来る。休息をはさんで、第3幕、1幕、4幕の順に演奏される。したがって、プロローグで出陣したイーゴリ公が、序曲が終わるともう捕虜になっているので、余計しょぼさが強調されてしまう。対するコンチャーク汗は、イーゴリ公に向かって「君は捕虜じゃない。客人なんだよ」と余裕の表情(?)で言う。どう考えても、コンチャーク汗のほうが立派。イーゴリの息子ウラジーミルは、コンチャーク汗の娘と恋に落ちて父を捨てるし、イーゴリの留守を預かるはずのウラジーミル(イーゴリの義兄)は放蕩三昧。結局、イーゴリは最後までコンチャークに勝てない。

音楽的に見ても、ポロヴェツ人(だったん人)の陣営の場面のほうが有名な「だったん人の踊り」や「だったの娘たちの踊り」を始め、イーゴリの息子とコンチャーク汗の娘の二重唱など、充実している気がする。

これがロシアの国民的な英雄譚?まあ、こういう苦しい状況の中でも祖国への愛を忘れないイーゴリこそ、真の愛国者ということになるのかもしれないが。そういえば、ムソルグスキーの2つのオペラも悲劇的な終わりかただし、19世紀のロシアの愛国心って屈折しているなあと思う。

<余談>
プロローグの日蝕の場面で、金管にベートーヴェンの「運命」によく似た三連符のモチーフが現れる。あれって、やっぱりわざと真似ているのだろうか?

2010年10月1日金曜日

スナイダーのマーラー

  1. ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番ハ長調 作品15
  2. グスタフ・マーラー:交響曲第1番ニ長調「巨人」
ニコライ・スナイダー指揮、マリインスキー劇場管弦楽団、サリム・アブド・アシュカル(ピアノ)
10月1日 マリインスキー・コンサートホール 19:00~

昨年11月にも、同じ顔ぶれの演奏会があった。前半がベートーヴェンのピアノ協奏曲というのまで一緒。後半も、前回はブルックナーだったのに対し、今回はマーラーと、プログラムの組み方が似ている。スナイダーは、6日にはメンデルスゾーンの「エリヤ」を振る予定で、実は大規模な作品が好きと見える。

マーラーの1番は、小学6年生の時に初めて耳にして以来、定期的に聞いてきた思いいれのある曲。にもかかわらず、なぜか今まで生で接する機会がなかった。他のマーラーの番号付きの交響曲は、すべて生で聞いているのに。一番ポピュラーな曲のはずなのに不思議。今回、念願かなってやっと聞くことができた。

ただ演奏のほうは、どう評価すればいいのか…。まず、ベートーヴェン、マーラーとも、きちんとリハーサルをした跡が窺え、その点は好感が持てた。マリインスキーのオケは、明らかに練習不足の時も多いのでなおさら。メンバーはゲルギエフが振る時によく見る顔ぶれで、技術的には問題なし。しかし、その結果出てきた音が、指揮者の情感を表現しきれているかというと疑問。特に今回は、ベートーヴェンにしろマーラーにしろ若書きの作品なので、もっとはじけるようなエネルギーが欲しい。

スナイダーはまだおそらく、オーケストラをヴァイオリンのように操れてないという気がした。聞いていて、スナイダーがどのような音楽づくりをしたいのか「理解」はできるのだが、直接こちらの情と結びつかない。アンサンブルを整えることはできても(バトンテクニックは、怪しいところがあるが)、そこに自分の「意志」を吹きこめるようになるには、もっと経験を積む必要があるのだろうと思う。それが簡単にできれば、苦労はしないのだが。

2010年9月25日土曜日

ショスタコーヴィチの誕生日

  1. ドミートリ・ショスタコーヴィチ:歌曲集「ユダヤ民族詩より」
  2. 同上:交響曲第11番「1905年」
ニコライ・アレクセーエフ指揮、サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団、アナスタシア・カラギナ(ソプラノ)ほか
9月25日 フィルハーモニー大ホール 19:00~


こちらでは、作曲家の誕生日に合わせてその作曲家の作品を取りあげることが多いが、今日もそう。9月25日はドミートリ・ショスタコーヴィチの誕生日。大ホールのみならず、小ホールでも室内楽のコンサートをやっていた。実は大ホールのほうは、息子であるマクシムが振るはずだったのだが、なぜかキャンセル。今年の初めにも演奏会をキャンセルしているし、マクシム、大丈夫なのか。

それはともかく、演奏会自体は結構良かった。「ユダヤ民族詩より」も悪くはなかったものの、圧巻はやはり「1905年」。第1楽章こそ、もうちょっとあの凍えるような雰囲気を出して欲しいなと思ったが(冬の宮殿広場の寒さなんて、この人たちは絶対に知っているはずなのだから)、第2楽章の銃撃の場面の迫力はやはりすごかった。ただ打楽器は鳴りまくっていたが(小太鼓のリズムなんて、軍隊の雰囲気そのもの)案外トランペットは抑えめ。実はアレクセーエフは、結構バランスに気を使っている。何も金管を無理に鳴らさなくても、このオケは十分迫力ある音を出せるのだ。

誕生日にふさわしい曲目かどうかはともかく、まだまだこのオケにはショスタコーヴィチを十八番とする伝統が継承されていることを実感した演奏会だった。

オケのフォルテシモを聞いて、「ああスカッとした」という気分は、なかなかマリインスキーでは味わえない。でももうすぐ、ゲルギエフの「1905年」のCDが出るらしい。ちょっと興味があるが。

2010年9月24日金曜日

フィルハーモニーのシーズン開幕~リール国立管弦楽団

  1. マヌエル・デ・ファリャ:バレエ音楽「恋は魔術師」
  2. ジョルジュ・ビゼー:「アルルの女」第1組曲+ファランドール
  3. エクトル・ベルリオーズ:カンタータ「クレオパトラの死」
  4. イーゴリ・ストラヴィンスキー:組曲「火の鳥」
ジャン=クロード・カサドシュ指揮、リール国立管弦楽団、ソフィー・フルニエ(メゾ・ソプラノ)
9月24日 フィルハーモニー大ホール 19:00~


やっとフィルハーモニーのほうもシーズンが開幕。ただし、開幕を飾ったのはフランスからのゲスト。リール国立管弦楽団、知らないなあと思いつつ、でも当日になって足を運んでみた。ロシア以外のオケを聞く機会は貴重なので。何度もここに書いているけど、期待せずに行くと結構良かったりする。

もっと重厚な音を出すオケ、華やかなオケはヨーロッパにたくさんあるだろうし、ソロもそれほど上手いとは言えない。でも生のオケの音っていいよね、と思わせてくれるものがあった。縦の線はやや緩めだが、別にいいんじゃないのという気になる。

こうした軽く明るく、でも一定の厚みを持った音というのは、ロシアではなかなか聞けない。フィルハーモニーのオケの音は、もっと暗くて硬い。ツボにはまった時のパワーは凄いけど。マリインスキーの場合、ソロは見事だが、オケとしてはひどくスカスカな音を出す。

このコンビ、ナクソスから結構CDを出しているらしい。帰国したら買ってみようか。CDで聞くと印象が違うかもしれないが、それはそれでいろいろと学べるだろうし。

2010年9月15日水曜日

マリインスキーのシーズン開幕~ホヴァンシチナ

  • モデスト・ムソルグスキー:歌劇「ホヴァンシチナ」
ワレリー・ゲルギエフ指揮、マリインスキー劇場管弦楽団&合唱団、オリガ・ボロディナ他
9月14日 マリインスキー劇場 18:00~


とうとうマリインスキーの新シーズンが開幕。初日は、ホヴァンシチナ。このオペラ、昨年末に聞きにいったが、残念ながら時差ボケのため途中からすっかり寝てしまった。というわけで、再挑戦。

おかげで、(最初のほうで少し寝てしまったものの)ほぼ全曲聴くことができた。確かにこの曲、美しい旋律にあふれている。それも、チャイコフスキーのような甘い美しさではなく、もっと素朴な美しさだ。私の周りのロシア人たちが愛するのも分かる気がする。長丁場なので(6時に始まって終わったのが11時近く)、そう気軽には聞けないけれど、それさえ除けば、むしろ「ボリス・ゴドゥノフ」よりも親しみやすいかもしれない。

ただ演奏は相変わらずというか、オケも合唱も荒い。明らかにピッチが揃っていない個所が散見される。ゲルギエフ&マリインスキーの演奏って、日本の吹奏楽コンクールにおける佼成ウィンド・オーケストラの模範演奏みたいなもので(時としてそれ以下なのだが)、どんな曲か知るには十分な演奏をしてくれるけど、それ以上のものを求めると欲求不満が出てくる。今シーズンも、相変わらずこの調子なのだろうな。

2010年9月6日月曜日

ヘレヴェッヘ&コレギウム・ヴォカーレ in St. Petersburg

  • ヨハン・セバスチャン・バッハ:ミサ曲ロ短調
フィリップ・ヘレヴェッヘ指揮、コレギウム・ヴォカーレ
9月5日 カペラ 19:00~

マリインスキーもフィルハーモニーも、まだシーズンは開幕していないが、一足早く古楽フェスティヴァルが開幕。その演奏会がこれ。何とヘレヴェッヘとコレギウム・ヴォカーレで、バッハのミサ曲ロ短調。会場はカペラ。それほど広いホールではないが、ほぼ満席。

実を言うと、ロ短調ミサ曲って、それほどよく聞く曲ではない。一曲一曲はいいと思うのだが、あまり通して聞こうとは思わない。同じバッハの宗教曲でも、マタイはよく聞けど。マタイにはドラマチックなストーリーがあるからだろうか?

したがって、演奏の評価も難しい。悪くはなかったが、というところに落ち着いてしまう。合唱は全部で17名。ソロパートは、合唱団員が前に出てきて歌う。バスがやや不安定だったが、他は総じて上出来。特にテノールの柔らかく明るい声は良かった。オケも少人数なのに、弱さを感じさせない。だが、現代の進歩した古楽アンサンブルならば、この水準の演奏は出来て当然という気もする。

この日のコンサートで印象に残ったのは、むしろ聴衆の反応。ロシアでは楽章間で拍手が起こることも珍しくないが、今回は決して曲の合間に拍手をしようとしなかった。また全曲が終わった後も、指揮者が手を下すのを待ってから拍手をするというマナーの良さ。携帯も鳴らなかったわけではないが、演奏の大きな妨げにはなっていない。

しかし演奏後は熱狂的なスタンディングオベーションで、何度もヘレヴェッヘを舞台に呼び出した末、オーケストラが舞台裏に引っ込みはじめてもまだ熱烈な拍手が続くものだから、とうとうオーケストラが舞台に戻ってきて終曲をもう一度演奏するという、異例の展開になった。これこそが真のアンコール?

そういえば、4月にレオンハルトの演奏を聞きに行った時も、聴衆の拍手がハンパではなかった。もしかしてロシアにも、コアな古楽ファンが一定数存在するのだろうか。

2010年8月24日火曜日

文京区民オケ in St. Petersburg

  1. ピョートル・チャイコフスキー:歌劇「エフゲーニ・オネーギン」よりポロネーズ
  2. セルゲイ・ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番ハ短調 作品18
  3. アレクサンドル・ボロディン:交響曲第3番イ短調
  4. 松下功:和太鼓協奏曲「飛天遊」
  5. 同上:幻想曲「通りゃんせ」
松下功指揮、文京区民オーケストラ、渡邉規久雄(ピアノ)、林英哲(和太鼓)、サンクト・ペテルブルグの児童たち
8月23日 リムスキー=コルサコフ名称音楽院 19:00~

最近になってペテルブルグに進出した「うどんやさん」という昼食を取って、会計を済ませた後、レシートと一緒にもらったチラシが、この公演の告知だった。しかもタダ券付き。2週間前のことである。実は、文京区民オケがロシア公演を企画しているという話は、耳にしていたのだが、「うどんやさん」で無料でチケットを配布するとは、ちょっと驚きだった。しかもよくチラシを見ると、8月27日にはモスクワでも公演をする。

翌週、今度は日本の総領事館から、同じコンサートのお知らせが。どうも単なる一アマオケの公演ではなく、「日本の秋」という毎年やっている文化行事の一環らしい。去年はその関連で、平原綾香が来た(ちなみに、未だに猛暑が続く日本とは違って、ロシアは8月16日から完全に秋の気候)。

総領事館と「うどんやさん」以外に、街中では全然ポスターを見かけず、これで客が来るのかと思っていたが、当日行ってみると、どこから来たのか満席だった。立派なプログラム(日本語とロシア語の併記)をこれまた無料で配布。コンサートの前には、ペテルブルグの副知事、日本総領事、日露友好協会の会長、音楽院の院長などが次々と挨拶。全部で、20分ほど続いた。一体何、このバックアップ体制は?

コンサートについては、最終的に結構楽しめた。最初のうちは、「プロの作曲家が指導している割には、思ったより下手だなあ」と生意気なことを考えながら聞いていたのだが、林英哲が出てきて以降は、さすがの盛り上がり。林英哲を生で(しかも無料で)聞けたのは幸いだった。また、最後の「通りゃんせ」では、ペテルブルグの子どもたちが日本語で歌っていたが、予想していたよりもずっと綺麗な発音で、これも良かった。

もちろん、「上手い」演奏を聞きたければプロオケを聞きにいけばいいのだから、アマオケに対して技術的な注文をつけるのは本来間違っているのだが、プログラムをもう少し短くして、その分集中力を高めるという手もあったのではないかという気もする。でも最終的に会場はとても盛り上がったし、コンサートとしては成功だったのではないだろうか。

(8月25日追記:ちょっと調べてみれば、このバックアップ体制のすごさの理由はすぐに分かったけれど、勝手な詮索をこの場でするのは止めておきます)

2010年7月16日金曜日

マリインスキーのヤナーチェク~マクロプーロスの秘事

  • レオシュ・ヤナーチェク:歌劇「マクロプーロスの秘事」(演奏会形式)
ミハイル・タタールニコフ指揮、マリインスキー劇場管弦楽団&合唱団、ジャンナ・アファナシエファ(ソプラノ)ほか
7月16日 マリインスキー・コンサートホール 19:00~



なんでこんなマイナーな作品に挑戦するのか分からないけれど、クラヲタとしては悪い気はしない。安いし(一番高い席でも300ルーブル)。あらすじはこちら。カレル・チャペックの戯曲をオペラにしてしまうなんて、さすがヤナーチェク。

マリインスキーの主力部隊は現在バーデン・バーデンに行っているはずなので、今日のオケは「二軍」(ちなみに今日は、劇場のほうでは「白鳥の湖」をやっていた。一体、ここのオケどれだけの団員を抱えているんだ)。コンマスは初めて見る若いお兄さん。これは(少なくとも技術的には)あまり期待できないかなと思っていたが、意外や意外。冒頭のホルンこそこけたものの、その後はしっかり鳴っている。ちゃんとヤナーチェクの響きがする!!そして、ちゃんとリハーサルした跡が窺える!!これは嬉しい驚きだった。

タタールニコフはいつもながらの明晰な指揮ぶり。歌手にも特に不満はなし(チェコ語の発音って、よく分からないし)。マリインスキーも、もうちょっとこのレベルの演奏を頻繁に聞かせてくれたら、言うことないのだけど。本当に、バーデン・バーデンとペテルブルグと、どちらが充実しているのだろう。

ちなみに、今日を最後に、コンサートホールは夏休みに入った。劇場のほうは22日まで。

2010年7月15日木曜日

マリインスキーの室内楽

  1. ルイ・シュポーア:6つのドイツ語の歌~ソプラノ、クラリネットとピアノのための
  2. ヨハネス・ブラームス:クラリネット三重奏曲イ短調 作品114
  3. ヨーゼフ・ハイドン:弦楽四重奏曲ニ短調 作品76-2
  4. アルフレッド・シュニトケ:弦楽四重奏曲第3番
アナスタシア・カラギナ(ソプラノ)、エントニ・ボナミチ(ピアノ)、マリインスキー劇場管弦楽団のメンバー
7月14日 マリインスキー・コンサートホール 19:00~


マリインスキーのオケには名手が多いので、もっと室内楽のコンサートをやってもいいように思うのだが、彼らの室内楽を聞くのは、これが初めて。ひょっとしたら、こちらが気がつかないうちに、フィルハーモニーの小ホールあたりでやっているかもしれないが。

面白いのは、普段のオケではあまり取りあげないような作曲家の作品が並んでいること。シュポーアとシュニトケはともかく、ハイドンをやっているのは聞いたことがない。ブラームスも、協奏曲とドイツ・レクイエムは聞いたけれど、交響曲は聞いたことがない。

さて、聞いた結果だが、う~ん、確かに上手いのだが…。特にシュニトケなど見るからに難曲なのに、決して弾き飛ばしていない。

ただ、個々の奏者の音の間に、まだ隙間があるような気がした。音程とか縦の線はそろっているはずなのに、アンサンブルとしての緩さを感じさせてしまうのが、音楽の面白いところ。音楽のベクトルが定まっていないと言えばいいのだろうか。この印象は、オケでも時々感じる。

シュニトケなんて、もうちょっと「狂気」を感じさせてほしいなと思う。滅多に聞けない曲なので、生で接することができただけでもありがたいのだが。

2010年7月14日水曜日

バランシンとフォーキン

  1. パウル・ヒンデミット:四つの気質
  2. ロベルト・シューマン:謝肉祭(オーケストラ編曲:ニコライ・R. コルサコフ、アレクサンドル・グラズノフほか)
ミハイル・アグレスト(1)、ミハイル・タタールニコフ(2)指揮、マリインスキー劇場管弦楽団
踊り:マクシム・ジュジン、イリーナ・ゴルブ、ラファエル・ムシンほか

7月13日 マリインスキー・コンサートホール 19:00~


ペテルブルグにはあるまじき、連日30度越えの日々。クーラーなどない建物が多いので、こうなると悲惨。扇風機を買いに行っても、とっくの昔に売り切れていたり。はやく気温が下がってほしい。天気予報によると、今週いっぱいこの暑さが続くらしいが。

こういうときは空調設備の整っているところへ…。だからというわけではないが、今日もマリインスキーのコンサートホールへ。珍しくコンサートホールでバレエ。お目当てはヒンデミットの四つの気質。この曲、好きなのだ。副題に「ピアノと弦楽合奏のための主題と変奏」とあるように、半ばピアノ協奏曲のようになっている。いかにも新古典主義的な曲で、メロディーも親しみやすく、ジャズっぽい和音も使われている。

有名な振付家、バランシンのために書かれた曲で、この日もバランシンの振付を採用。それを見てみると、なぜヒンデミットがピアノと弦楽合奏というシンプルな編成で曲を書いたかが、よく分かる。ダンサーは皆、練習時のようなレオタード姿。古典的なバレエの華やかさを拒否したような振付だけれども、人間の「肉体美」がそのままストレートに浮かびあがってくる(それにしても、ダンサーの足の長いこと!!)。今までバレエって、何回見てもピンとこなかったが(モーリス・ベジャールもローラン・プティも)、今回は違った。バレエという表現の世界に共感できたのは、これが初めてかもしれない。

次はシューマンの「謝肉祭」だけれども、もちろん原曲はピアノ曲。それを、R.コルサコフ、リャードフ、グラズノフ、N.チェレプニン、アレンスキーという、いわばR.コルサコフ一門の人たちがオケ用に編曲している。実を言うと原曲を聞いたことがないのだが、そんな人間にとってみれば、ちっともシューマンらしくない。最初から、打楽器が派手に鳴りまくる。グラズノフのバレエ音楽ですと言われれば、素直に信じてしまうだろう。

こちらはフォーキンの振付で、普通に華やか。それに、ヒンデミットでは荒かったオケの音色も、シューマンでは引き締まって聞こえた。指揮者(タタールニコフ)の手腕か。

暑さを忘れさせてくれたひと時だった。

2010年7月11日日曜日

ウィーン・フィル in St. Petersburg

  1. ピョートル・チャイコフスキー:弦楽のためのセレナーデハ長調 作品48
  2. オットー・ニコライ:歌劇「ウィンザーの陽気な女房たち」よりアリア
  3. ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番変ホ長調「皇帝」 作品73
ワレリー・ゲルギエフ指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、イルディコ・ライモンディ(ソプラノ)、ルドルフ・ブッフビンダー(ピアノ)
7月10日 マリインスキー・コンサートホール 19:00~



今年の白夜音楽祭は豪華で、何とウィーン・フィルまで登場。右端の席ながら1200ルーブルで聞けてしまうのだから、安いものである。さすがに今回のチケットは完売で、会場は超満員。ウィーン楽友協会よろしく、いつもは合唱団が座る場所に客を座らせて、対応していた。

1月にザルツブルグでウィーン・フィルを聞いた時はピンとこなくて、今回は指揮がゲルギエフなので不安に思っていたが(彼のおひざ元なのだからしょうがないけど)、いや、今度はちゃんとウィーン・フィルの魅力を感じ取ることができた。

一曲目のチャイコフスキー。普段聞いているマリインスキーの弦と比べると、その魅力は明らか。12-10-8-6-5という大きさで、普段のマリインスキーより人数は少ないが、音の厚みはウィーン・フィルのほうがはるかに上。それでいて重たくならず、ふわっと浮くような軽やかな音を出す。

ただウィーン・フィルの個性と曲の個性が寸分の狂いもなくマッチしていると感じたのは、その後のニコライのほう。確かに、「優雅」という言葉がぴったりである。ペテルブルグのフィルハーモニーで聞くショスタコーヴィチと同じように、この曲はこのオケの音を想定して書かれたのだと思わせる、強烈な説得力がある。特に好きな曲でもないのに(おかげで、アリアのタイトルも確認していない)、ウィーン・フィルがなぜ多くの人から特別視されるのか、その理由を自分の耳で確認することができた。

ベートーヴェンでも、ウィーン・フィルの個性と曲が一体化している。最初の和音からして、もうウィーン・フィルの世界を作っている。「ああ、これが『本場』のベートーヴェンなのですね」と、ただひたすら耳を傾けるしかない。

ただ、たとえばアメリカやドイツのオケでも魅力的なショスタコーヴィチの演奏を披露するように、ウィーン・フィルのベートーヴェンが唯一のベートーヴェンだとは思わない。当たり前と言えば当たり前だが、つまり今回の演奏会で、そこまで熱狂することはなかったということである。

ライナー・キュッヒルが、いい指揮者の条件として「私たちの音楽を邪魔しないこと」と言ったという話を読んだことがある。そのとき「それなら、指揮者なんて置かなければいいじゃん」と思ったのだが、にもかかわらず指揮者を必要とするところが、オーケストラの面白いところだと思う。この日のゲルギエフは、いつもよりずっと真面目に振っていたし、「私たちの音楽」を邪魔することもなかったと思うが、ウィーン・フィルのベートーヴェンをより一段高い次元に持っていくレベルには、残念ながら達していなかったと思う。

ウィーン・フィルのドイツ・オーストリアものが特別な魅力を備えているということは分かったが、しかしそのことは、世界にもっと魅力的なベートーヴェンが存在することを妨げないことも、事実である。お金の話をして恐縮だが、1200ルーブルなら喜んで聞きにいくが、何万円も出してウィーン・フィルを聞きたいかと言われると、(この日の水準だと)ちょっとためらってしまう。クラヲタなら、一生に一度は、メッカにでも詣でるように、ウィーン・フィルを聞いておいたほうがいいとは思うが。もちろん、ウィーン・フィルがその実力を120%発揮することもあるだろうが、そうした演奏会に、生きている間に巡り合えるだろうか。

なんだかんだと、いつもながら偉そうなことを書いてしまったが、ウィーン・フィルとなると、どうしても構えてしまう自分がいる。

ちなみにブッフビンダーのピアノは、ウィーン・フィルの音色に対してやや硬い気がした。というか、やっぱりウィーン・フィルの前では影が薄くなったかなと。むしろアンコールで弾いたJ.シュトラウスのパラフレーズのほうが、遊び心が発揮されて楽しめた。前回も書いたとおり、アンコールのほうがいいというのは、この世界でよくある話。

2010年7月10日土曜日

ヤルヴィ(弟)を聞く

  1. ヤン・シベリウス:交響曲第7番ハ長調 作品105
  2. ピョートル・チャイコフスキー:ロココ風の主題による変奏曲 作品33
  3. アルヴォ・ペルト:チェロ協奏曲「賛と否」
  4. イーゴリ・ストラヴィンスキー:春の祭典
クリスチャン・ヤルヴィ指揮 バルティック・ユース・オーケストラ、ヤン・フォーグラー(チェロ)
7月8日 マリンスキー・コンサートホール 19:00~


マリインスキーのサイトにプログラムが発表された時から、これは行かねばと思っていたコンサート。ヤルヴィの弟とフォーグラーが同時に聞けてしまうとは。しかし案の定、客席は半分程度しか埋まっていない。知名度の問題か。

一番楽しめたのは、ペルトのチェロ協奏曲。チェロ協奏曲という割には10分程度しかなく、おまけになぜかヴィオラの出番がないが、充実した作品。ソ連体制下で様々な実験を試みていたころの作品らしく、時々激しい不協和音が鳴る。しかしそれがやみくもに鳴っているのではなく、指揮者の頭の中で「こう響くべき」という明確なプランがあり、その意図をオーケストラが上手く音にしている。

途中、チェロのカデンツァの部分で、指揮者が休止しているオーケストラに向かって棒を振る場面がある。文字通りの「空振り」だが、指揮という行為を戯画化しているようで可笑しい。ヤルヴィの動作がオーバーなものだから、フォーグラーも笑いをこらえながら弾いていた。この作品、他の指揮者でも見てみたい。

実は今回の一番のお目当ては「春の祭典」だった。ヤルヴィはこの複雑なリズムを楽しまないと損とばかりに、頻繁に足を跳ね上げ、腰を振る。この人にとって「春の祭典」とは、もはやお堅い「クラシック」の範疇を脱しているのではないか。ただ全体の興奮度としては、もう少し上があるような気がした。

というのも、その後のアンコールのほうが、オーケストラが吹っ切れていて気持ち良かったから。リラックスしている分、アンコールのほうが名演になるというのは、よくある話だが。曲目は分からないけれど(ロシアでは日本のように、アンコールの曲目を掲示してくれない)、1曲目はハチャトリアンぽく、2曲目はチャイコフスキーかR.コルサコフあたり?3曲目は、北欧あたりの民謡をオケ用に編曲したような雰囲気。ノリとして、こないだ聞いたシモン・ボリバル・ユースOに近いものを感じた。3曲もやったところをみると、拍手にこたえてというより、最初から入念に準備していたのだろう。

オケのメンバーは、バルト三国のみならず、北欧各地、ポーランド、ドイツ、ロシアから集まっていて、普通に上手い。大体PMFのオケと同じぐらいの技量だろうか。

2010年7月4日日曜日

サロネン、マリインスキーを振る

  1. リヒャルト・シュトラウス:メタモルフォーゼン
  2. エクトル・ベルリオーズ:劇的交響曲「ロメオとジュリエット」作品17
エサ・ペッカ・サロネン指揮、マリインスキー劇場管弦楽団&合唱団ほか
7月3日 マリインスキー・コンサートホール 21:00~


サロネンがマリインスキーのオケを振るという、変わった組みあわせ。でも実は、何年か前にも振ったことがあるらしい。これって期待できるのだろうか?サロネンは好きな指揮者だが、マリインスキーのオケというのが引っ掛かる。おまけに9時開始って…。でもやっぱり行かずにはいられない。

一曲目のメタモルフォーゼンは、見ていると面白い。23人の弦楽器奏者が、入れ替わり立ち替わり音楽を紡いでいく様が、視覚的に確認できる。よくこんな複雑な曲を書いたよなあと思う。でもよく考えてみれば、戦後の前衛運動は目の前まで来ているのだ。

やっぱり難曲で、ところどころ音程が怪しい。素人が聞いてそうなのだから、サロネンの耳には、とんでもない音が聞こえていたのではないだろうか。実は中間部でちょっと退屈して、少し寝てしまった。

サロネンの振り方を見たくなって、後半は指揮者の向かいに移動。後半のベルリオーズは、R.シュトラウスより楽しめた。サロネンはマーラーを振る時のように、ベルリオーズのオーケストレーションを丁寧に解きほぐしていく。特に舞踏会の喧騒のような場面では、オーケストラが気持ちよく響き渡って、とてもいい。一方、「愛の場面」などは、もっと歌ってほしいなあという気も。それは、サロネンの問題でもあるかもしれないけど、むしろマリインスキーのオケが、ベルリオーズのようなロマン派の歌い方を分かっていないのではないかという気もする。ここのオケは弦の音に厚みがないため、ベルリオーズやワーグナーに求められる「うねり」が出てこない。この印象は、ゲルギエフが振るとより強まる。今日はサロネンだから、まだマシだったような気がする。

とまあ、なんだかんだ言いつつ、結局最後まで飽きもせず聞いてしまった。終演は12時ちょうど。白夜の頃はよくある話。

2010年7月1日木曜日

ユンディ・リ in St. Petersburg

  1. フレデリック・ショパン:5つの夜想曲
  2. 同上:アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ 作品22
  3. 同上:4つのマズルカ 作品33
  4. 同上:ピアノ・ソナタ第2番変ロ短調 作品35
  5. 同上:英雄ポロネーズ変イ長調 作品53
ユンディ・リ(ピアノ)
6月30日 マリインスキー・コンサートホール 19:00~


ショパンはイタリア・オペラとともに、私的食わず嫌いの代表例である。したがってこのコンサートも行くかどうか迷ったが、今の時期はちょうど時間があるし、ユンディ・リってどんなピアニストだろうという興味もあって、出かけた。

「アンダンテ~」までが前半だったが、ここまで聞いた時点では「確かに上手いですね」という程度。以前聞いたアファナシエフのように極端な解釈をすることもなく(それはそれで面白かったのだが)、まっとうに楽譜を音にしている。そもそもショパンを普段あまり聞かないので、ユンディ・リがどの程度すごいのか、よく分からないという感じだった。

ところが後半、前半とは明らかに曲への没入度合いが違う。普段はショパンを聞かないのに、この時ばかりはこちらものめり込んでしまった。曲の性格もあるのだろうが、特にピアノ・ソナタ第2番はデモーニッシュな雰囲気にあふれ、圧巻だった。

以前、とある日本の新聞に、ユンディ・リの弾くラヴェルのピアノ協奏曲について、「上手いのだが、それ以上のものを感じさせない」「最近こんな演奏が増えている」という批判的なコンサートの論評が載っていたことがある。この日の前半はこの評言が当てはまるが、後半は違う。後半のユンディ・リは、楽譜に書いてあること以上のものを表現していたと断言していい。そうか、「一流」とはこういう演奏をする人のことを言うのだと納得。

あと、ユンディ・リの特徴として、マズルカやポロネーズのリズムの特徴をあまり考慮せず、そのまま均等なリズムで鳴らす傾向があると思う。だが彼が興に乗ると、そういう理屈はどうでもよくなってしまう(私が、あまりショパンに思い入れがないせいかもしれないが)。

ユンディ・リがだてにこの10年間活躍しているわけではないことが、よくわかった。

2010年6月27日日曜日

懐かしの音楽

笑わせてもらいました。

2010年6月26日土曜日

「魅せられた旅人」をもう一度


  • ロディオン・シチェドリン:歌劇「魅せられた旅人」
ワレリー・ゲルギエフ指揮、マリインスキー劇場管弦楽団ほか
6月25日 マリンスキー・コンサートホール 20:00~

個人的にゲルギエフのベストパフォーマンスだった1月2日のシチェドリン。あれからCDも買って聞いてみたが、これはやっぱり力作だと思う。平明すぎず難解すぎず、個人的にちょうどいい塩梅の現代性を持っている。気になるので、もう一度見にいった(ペテルブルグで2回見たオペラが、まさかシチェドリンになるとは)。

印象は、前回とほとんど変わらないので、もう繰りかえさない。今回も、シチェドリンとプリセツカヤの夫妻が客席に姿を見せていた。だからなのか、ゲルギエフは手抜きをしていない。さすがに何度かCDでも聞いたので、前回ほどの衝撃はなかったものの、その代わり、大体の山場を把握することができた。こうなってくると、他の演出、演奏にも接したくなる。マゼールとニューヨーク・フィルの初演はどんな感じだったのだろうか。

とにかくこれは、現代ロシアを代表する作品だと思う。

(写真は、終演後の様子)

2010年6月25日金曜日

ロジェストヴェンスキーのシュニトケとブルックナー

  1. アルフレート・シュニトケ:ヴァイオリン協奏曲第4番
  2. アントン・ブルックナー:交響曲第2番ハ短調(1872年版)
ゲンナージ・ロジェストヴェンスキー指揮、サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団、アレクサンドル・ロジェストヴェンスキー(ヴァイオリン)
6月24日 フィルハーモニー大ホール 19:00~

お目当ては当然シュニトケ。ブルックナーは怖いもの見たさの心境だった。でも結果は、こちらの予想と全く逆だった。

シュニトケのヴァイオリン協奏曲第4番は、CD(クレーメル盤)を聞いている段階では気がつかなかったが、かなりオーケストレーションの薄い曲。編成自体はでかいのに、みんな待ち時間が多い。ティンパニ奏者など「ヒマ~」という表情でずっとひじをついていた。そのティンパニ奏者を見てしまったせいか、どうも緊張感が薄い気がした。ロジェストヴェンスキーなら、もっとシュニトケ特有の狂気を醸しだしてくれることを期待していたが。息子のソロは慣れた感じで弾けているものの、さすがにクレーメルあたりと比較するのは酷だろう。

それに、第2楽章と第4楽章にあるはずの「視覚的カデンツァ」で、何もせず。思わず笑いだしてしまうようなパフォーマンスを期待していたのに。

次はブルックナー。ロシアでは珍しく、ちゃんとどの版を使うかが書いてある。実は前日に、ロジェストヴェンスキーの公開記者会見みたいな場に行って話を聞いてきたのだが、その場で彼は「ブルックナーは実は23の交響曲を書いたのだ。私はそれを全部指揮した」と得意気に話していた。ソ連時代にブルックナーの交響曲全集を作った際、2番の1872年版の存在を知らなかったらしいのだが、5年前にある人からその存在を指摘されて、今回取りあげることにしたとのこと。ロジェストヴェンスキーは「もう新しいヴァージョンは出てこないだろう」と胸を張っていたが、さあどうだか。

ロジェストヴェンスキーがソ連時代に作ったブルックナーの交響曲全集を、実は私は全部持っている。それも国内盤で。札幌に住んでいたころ、近所のブックオフに7000円で丸ごと売りに出されているのを見て、思わず買ってしまった。予想通りの珍解釈のオンパレードだったけど、それなりに楽しませてもらった。特に4番の初稿とか、かなり気合が入っていたように思うし、4番のマーラー版というユニークなものも聞けた。

今回も、にやけながら聞くか、退屈のあまり寝てしまうかのどちらかと思っていたが、結果は全く違った。かなり「正統派」のブルックナー。相変わらず金管は堅い音だが、なぜか違和感を覚えない。むしろ金管の咆哮が快感なぐらい。さすがにロジェストヴェンスキーも、この20年の間にブルックナーに関する理解を深めたのか?特に第1楽章は立派。もしこのコンビが8番や9番を演奏したら、どういうことになっていただろう。

まさかロシアで、それもロジェストヴェンスキーの指揮で、ブルックナーを聞いて満足することになるとは思わなかった。W杯の日本チームといい、世の中予想外のことがいろいろと起きるものである。

2010年6月22日火曜日

クラヲタに100の質問(いろいろ編)

Q82. お宅のオーディオ環境を教えてください。
海外在住のためパソコンで聞いています。ただしスピーカー(ソニーのSRS-M50)をつけて、オーディオマネージャをいじくれば、そこそこいい音は出ます。

Q83. CD以外の音楽メディアとしては何をお持ちですか?
最近、LPも収集中。もちろんiPod は利用。

Q84. CD・LP、楽譜、楽器以外に集めている音楽関連グッズって何かあります?
なし。

Q85. ではここで一つ持ち物自慢をどうぞ!(誰それのサインを持ってるとか、幻のレコードを持ってるとか)
強いて挙げれば、以下の通り。
・近衛秀麿によるマーラーの交響曲第4番、世界初録音のデンオン盤。
・ロジェストヴェンスキーのブルックナー交響曲全集を国内盤ですべて。
・フルトヴェングラーが指揮したシューベルトのグレート、メロディアのLP。
・サヴァリッシュ&シュターツカペレ・ドレスデンによるシューマンの交響曲第3番「ライン」、エテルナのLP(黒盤)。
・ショスタコーヴィチの交響曲第13番の自筆譜ファクシミリ。その他、DSCH 社から出ているショスタコーヴィチの楽譜を買いまくっています(ただし全部そろえる気はなし)。
・チャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」の自筆スケッチのファクシミリ。
(上2つは札幌のブックオフで、下4つはペテルブルグで購入)

Q86. 通勤通学時もクラシック聞いてます?
そういう時は、基本的に音楽を聞きません。

Q87. クラシックのMIDIについてどう思われますか?
いいんじゃないでしょうか。

Q88. あなたの知っているクラシック替え歌を教えてください。
学生オケにいたころ、ベートーヴェンの交響曲第9番の第2楽章、同じリズムがひたすら続くところで、「パンプキン、パンプキン、食べて、食べて」と口ずさむように、トレーナーの先生に言われたことがあります。

Q89. あなたの印象に残っている音楽マンガ・小説・映画を教えてください。
松本清張の「砂の器」。実験工房や黛敏郎が華々しく活躍していたころを、見事に活写しています。

Q90. 突然ですが、日本人であるあなたが西洋の伝統音楽であるクラシック音楽を聴くということに、何か疑問を感じたことはありますか?

時々感じる。でもそれについて論じ出すと、論文ができる。

Q91. 学生時代(小中高大)の音楽の授業で印象に残っている出来事を教えてください。
中学の音楽の授業で、一見音楽とは全く縁のなさそうなスポーツマンタイプの同級生が、とても見事なピアノを披露してくれたこと。

Q92. では学校時代の音楽の成績、良かったですか?正直にお答えキボンヌ。

あまり良くなかったような。でもはっきり覚えていません。

Q93. クラヲタなのにやってしまったこっ恥ずかしいエピソード、あったらここでカミングアウトしてください。
この一連の質問に答える過程で、何かやっているかも。

Q94. それではクラヲタでよかったと思った体験はありますか?

なし。

Q95. 逆に最もひどかった体験は?
それもなし。オケや楽器にまつわるいやな思い出は山のようにありますが。

Q96. 尊敬するクラヲタいたらどんな人か教えてください。
いないです。

Q97. 音楽がなくても生きていけますか、或いはその自信がありますか。
考えたことありません。

Q98. 奥様(彼女)/旦那様(彼氏)から「あたしとクラシック音楽と、どっちがだいじなのっ!」と迫られたら、なんと答えますか?
「君」といいつつ目が泳いでしまうでしょうから、ばれるでしょう。

Q99. ズバリあなたにとってクラシック音楽とは何ですか?
生きている証。

Q100. お疲れさまでした。最後に一言物申してください。

オタクって恐ろしい。

改めて回答を読みなしてみると、自分の偏食ぶりがよくわかった。普段はドイツ3Bとかもよく聞くのだけど、バッハもブラームスも出てこないとは。

クラヲタに100の質問(音楽家編)

Q70. あなたのおすすめの演奏家(含む歌手)を教えてください。
パトリチア・コパチンスカヤ!!
指揮者ではワシーリー・ペトレンコ。

Q71. 世界一のオーケストラは、ずばりどこ?
総合点でベルリン・フィルかな。

Q72. 日本のオーケストラに何か物申すことあります?(一般的にでも、個別のオケに対してでも可)
「物申す」というほどのものはありません。ロシアに来てから、日本のオーケストラって実は結構優秀だと思うようになりました。

Q73. N響の次期音楽監督は誰になってほしいですか?
デュトワに戻ってきてもらう(団員は嫌がるだろうけど)。

Q74. あの世から一日だけ生き返ってくれる音楽家がいたら、誰に生き返ってほしい?
ショスタコーヴィチ。『証言』の感想を聞きたい。

Q75. 競演してみたい演奏家を教えてください。
これもコパチンスカヤ。

Q76. 弟子に入ってみたい音楽家を教えてください。
いません。弟子入りした途端に、みんな鬼になりそうで怖い。でもバーンスタインに「音楽学」を教わるのはいいかも。

Q77. あなたの知っている音楽家の笑い話を教えてください。また聞きでも可。
岩城宏之が指揮棒と間違えてヘアブラシを持って舞台に出ていこうとしたら、舞台袖でマネージャーにひったくられたとか。この方、本当に正直に書く人でしたね。

Q78. あなたの知り合いに音楽を職業にしているプロの方はいますか?(名前はあげなくていいです)
ブログに何回か書いていますが、います。

Q79. 音楽の教科書にのっている音楽家の肖像画に落書きしたことありますか?
国語の教科書にはありますが、音楽の教科書にはありません。

Q80. J・S・バッハに何人子供がいたか知ってます?
20人?

Q81. ブラインドテストで演奏家の違いを聞き分けることが出来(ると思い)ますか?
グールドぐらいなら分かるかな。あるいはメンゲルベルクとか。

クラヲタに100の質問(楽器編)

Q59. 楽器演奏できますか?できる方は楽器の種類と演奏歴を教えてください。出来ない人、てゆーか楽譜読めますか?
チェロ。大学に入ってから、学生オケに参加して始めました。ただし一度中断しているので、いまだにど下手くそです。

Q60. やってみたい楽器を教えてください。
ピアノ

Q61. 楽器ができる方が音楽をわかっていると言えると思いますか?
さあ、どうだか。

Q62. 楽器レッスンでの先生・師匠の思い出を語って下さい。学校の音楽の先生の思い出でもOK。
チェロを始めたとき、プロの先生から散々しごかれました。私の練習の仕方が中途半端だったので、チェロのほうはそれほど上達しませんでしたが、彼女の教えはむしろ日常生活の中に活きることになったように思います。

Q63. 合奏でやりたいパートを挙げてください。
ティンパニ。

Q64. ピアノ曲で弾いてみたい曲を教えてください。
カプースチンのピアノ曲。8つの演奏会用練習曲など。

Q65. オーケストラの一員とソリスト、どっちで舞台に上がりたいですか?
オーケストラの一員。あがり症なので、ソリストは絶対に無理。

Q66. どうしても好きになれない楽器があったら教えて下さい、またその理由も教えてください。
なし。

Q67. 右手で3拍子、左手で4拍子、振り分けること出来ますか?
できない。昔から音痴であり、リズム音痴。

Q68. あなたの知っている楽器メーカーを挙げてください(国産、外国メーカーなんでもあり)
ヤマハ、スズキ、スタインウェイ、ベーゼンドルファー。

Q69. バッハのBWV1013番の曲で使われている楽器は?
知りません。

クラヲタに100の質問(コンサート編)

Q47. 月に何回くらいコンサート(オペラ)に行きますか?場所、ジャンルは?
日本では月一以下。ロシアでは、このブログを見れば一目瞭然。

Q48. お薦めのホールと座席を教えてください。
マリインスキーのコンサートホールはとてもいい響のするホールです。でも観光で来るのなら、マリインスキー劇場やフィルハーモニーのような古い建物に行ったほうが、ペテルブルグに来たという雰囲気は味わえると思います。

Q49. オーケストラの定期会員になってますか?または定期的に聴きに行くオケはありますか?どこのオケか、どれくらいの期間聴いているのか教えてください。
マリインスキー劇場のオケ、この1年間聞きまくり。札幌にいたころは札幌交響楽団。

Q50. 忘れられないコンサート(オペラ)ってありますか?あれば一つ二つ挙げてください。
ロシアで聞いたコンサートについてはこのブログに書いているので、日本で聞いたコンサートについて一つ。2008年の12月に札幌のキタラで聞いた、ロジェ・ミュラロ(ムラロ)によるメシアンの「幼子イエスに注ぐ20の眼差し」全曲は、自分の中にあったピアノの概念を根本から覆すほど鮮烈な体験でした。

Q51. 一回のコンサート(オペラ)に最高いくらまで出したことありますか?
詳しくは覚えていないけど2万円には達していないはず。そもそも1万円以上のチケットを買うことも滅多にない。

Q52. コンサート会場に何か物申すことあります?(一般的にでも、個別のホールに対してでも可)
なし。

Q53. では新国について、どう思いますか?
関東に住んだことないので、よく分かりません。オペラも苦手だし。

Q54. 会場でマナーの悪い人に遭遇したことありますか?こいつは生かしておけん!というのがいたら教えてください。
ロシア人のマナーの悪さに比べたら、日本人なんて大人しいものですよ。ロシアの聴衆は楽章間で盛大に拍手する、平気で携帯を鳴らしまくる。見方を変えれば、気軽に音楽を楽しんでいるともいえるのですが。

Q55. 演奏会にはどのようなファッションで行きますか?愛用ブランドとかあったら教えてください。
普段着。

Q56. 某オーケストラの事務局で働いているあなたは、来シーズン以下のようなビッグネーム指揮者を呼ぶことに成功しました。マエストロ達は次のような曲が振りた いと言っていますが、どれも意外な選曲で主催者としては困ってしまいました。   どれか1つしか認められないとすれば、どれを選びますか?それは 何故?
1、 リッカルド・ムーティが、シベリウス/交響曲第4番
  
2、 ゲンナジ・ロジェストヴェンスキーが、ワーグナー/ワルキューレ第一幕(演奏会形式)
  
3、 クリスティアン・ティーレマンが、ラヴェル/ダフニスとクロエ
  
4、 ニコラウス・アーノンクールが、ラフマニノフ/交響曲第2番
  
5、 マイケル・ティルソン・トーマスが、バッハ/マタイ受難曲

1.ムーティのシベリウス。ムーティは時々、全く予想外の名演をするので。

Q57. 外国でコンサート(オペラ)聴きにいったことはありますか?あれば少し聞かせてください。
今、外国に住んでいます(笑)。

Q58. コンサート帰りに寄れるような会場周辺のお薦め飲食店を教えてください。
日本でもロシアでも悩みの種です。

クラヲタに100の質問(CD編)

Q29. さて、CD(LP)何枚持ってますか?
1500枚以上は確実。

Q30. そのなかからお気に入りベスト3を挙げてください。
出来るだけ有名どころを避けてみます。
1.ボールト指揮ロンドン・フィルによるマーチ集(ソニー)
2.メッツマッハーとハンブルク国立フィルによるWho is afraid of 20th century music?のシリーズ(EMIと自主製作)
3.Sound of Sund (オルフェイ・ドレンガルによる合唱曲集)(BIS)
次点で、ネシュリング指揮サンパウロ交響楽団によるベートーヴェンの交響曲第5番と7番(Biscoito Classico)。あと、シッパーズ指揮コロンビア交響楽団のオペラ序曲集(ソニー)も。

Q31. 一番沢山の同曲異演盤を持っている曲と、その枚数を教えてください。
何だろう?ラヴェルの「ボレロ」「ラ・ヴァルス」、ショスタコーヴィチの交響曲第4番、5番あたりは10枚以上持っていることは確実ですが。

Q32. 月に何枚くらいCD買いますか?どんなジャンルが多いですか?
ロシアに来てからは、3枚ぐらいでしょうか。日本にいたころは、ボックスセットのせいで不明です。基本的に近代のオケもの。

Q33. 買って本当に後悔した糞CDは何ですか?
ある程度の当たり外れは覚悟の上なので、後悔しません。

Q34. あなたが持っている名珍盤を教えてください。
ロジェストヴェンスキーのブルックナー交響曲全集かな。珍演ですが、日本盤は解説が充実していることもあり、手放しがたいです。

Q35. 最近買って当りだったCDは何ですか?
ウィーンで買ったプレートル指揮ウィーン・フィルのシェーンブルン宮殿コンサート2008(デッカ。ただしオーストリアのローカル盤)。これは素晴らしいです。特にラヴェルのラ・ヴァルスが絶品。野外での収録の割には音もいいし。

Q36. 懐に優しいメジャー廉価盤・ナクソスのお薦めを挙げてください
日本作曲家選輯のシリーズ。

Q37. 日本のレーベルから出して欲しい曲を教えてください。
細川俊夫の「リアの物語」。でも売れないか…。

Q38, CD復刻・再発して欲しい名演奏を挙げてください。
1.上記のボールトによる、マーチ集。
2.T. トーマスによるバーンスタインの「オン・ザ・タウン」(グラモフォン)。
3.チョン・ミョンフンによるショスタコーヴィチの交響曲第14番(レーベルは失念)。

Q39. 実在しないけど、こんな演奏者によるこんな曲目のCDあったらなあ、というのを挙げてください。
1.ゲルギエフの指揮で、黛敏郎の涅槃交響曲。
2.T. トーマスの指揮で、バーンスタインの「ウェスト・サイド・ストーリー」(全曲)
3. ブーレーズの指揮で、メシアンのトゥランガリラ交響曲(若いころの暴言は水に流して)

Q40. 人生で初めて買ったクラシックCD、LPは何でした?それって、まだ持ってます?
カラヤン指揮ベルリン・フィルのシベリウス管弦楽曲集(80年代、デジタル録音盤)。まだ持ってます。

Q41. どこでCDを購入する事が多いですか?行きつけのショップはありますか?
大体どの街に住んでも、行きつけの店を作っています。日本時代はネットもよく利用。

Q42. クラシック売場で、変な人見かけたりしたことありませんか?
なし。

Q43. ヤフーオークションでCD(楽器も可)購入したことあります?
なし。

Q44. CD聴きながら何してますか?
仕事、読書、昼寝。たまに楽譜を(漠然と)眺めている。

Q45. 図書館などでクラシックCDを借りることはありますか?
大阪の豊中市に住んでいたときは、近所に便利な図書館があって、そこでよくCDを借りていました。

Q46. 通販でクラシックCD全集買ったことありますか?
なし。

クラヲタに100の質問(曲目編)

Q13. 「食わず嫌い選手権~クラシックヴァージョン~」が開催されます。大好きな曲4つと実は苦手な曲1つを教えてください。
【大好きな曲】
1.ストラヴィンスキー:春の祭典
2.バルトーク:中国の不思議な役人
3.三善晃:響紋
4.ベルク:ヴォツェック
【苦手な曲】
プッチーニ:蝶々夫人(イタリアオペラはすべて食わず嫌い。ただしモンテヴェルディの「ポッペアの戴冠」は除く)

Q14. お薦めの知られざる名曲ありませんか?
ヴェレシュ:パウル・クレーへのオマージュ、シュニトケ:ヴァイオリン協奏曲第1番、レーガー:ある悲劇への前奏曲、オルフ:アフロディーテの勝利、シチェドリン:魅せられた旅人、ポポフ:交響曲第3番、ペンデレツキ:ウートレニャ(朝拝)など

クラシックかどうかは微妙ですが、Der Kastanienball (the Chestnut Ball) "The Fall of Lucrezia Borgia"は、いつか「クラシック(古典)」として認識されてほしい作品。音楽監督はフランスのジャズ・ギタリスト、ノエル・アクショテ。他に、安田芙充央(ピアノ)、エルンスト・レイスグル(チェロ)などが参加。バッハ、ワーグナーからオーバー・ザ・レインボーまで、いろんな音楽を引用しながら、ジャンル不詳の不思議な世界が繰りひろげられます。いかにもWinter & Winter的なユニークな舞台作品。

Q15. あなたの知っている変なタイトルの曲を教えてください。
ジョリヴェの作品に「パチンコ」というのがあるとか。

Q16. 日本が世界に誇る名曲は何?
黛敏郎の涅槃交響曲と武満徹のノヴェンバー・ステップスは別格としても、湯浅譲二のクロノプラクティスⅠ、西村朗の2台のピアノと管弦楽のためのヘテロフォニー等々、たくさんあると思います。

Q17. 自分が死んだ時の葬式で流してほしい曲を教えてください。
悲劇的な死に方をしたら三善晃の響紋。そうでなければお任せ。

Q18. メンデルスゾーン『無言歌集』全48曲の中から3曲選んでください。
すみません、この曲全然知らない。

Q19. クラシックビギナーの彼(彼女)ができました。最初に聞かせたい曲、CDは何?
CDではなく、まずYouTubeあたりでC. クライバーとバーンスタインの指揮姿を見せる。

Q20. クラシック音楽が使われて印象的だったTVCMとその曲名を教えてください。
アリナミンEXのCMで、マーラーの交響曲第6番の冒頭が使われていませんでしたっけ?

Q21. 地図にも載らぬ小さな公国から御前演奏の依頼がありました、何の楽器で何の曲を演奏しますか?
琵琶で平家物語。

Q22. 春夏秋冬、あなた的な感覚でそれぞれの季節にふさわしい選曲をお願いします。
ヴィヴァルディの「四季」を一曲ずつ。
でも、もうちょっと頭をひねってみると、
<春> モーツァルト:ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲
<夏> ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲
<秋> メンデルスゾーン:交響曲第3番「スコットランド」
<冬> シベリウス:ヴァイオリン協奏曲
選んでみると、結構スタンダード路線だなあ。

Q23. あなたが朝の目覚めに聴きたいと思うクラシックの曲を教えてください。
目覚めはただの電子音のほうがいい。

Q24. あなたの知っているオペラの歌詞の一部を書いてください。
「しかして、その口に虚偽なかりき…」(「ヴォツェック」第3幕冒頭)

Q25. 三行程度でオペラのアリア(歌詞)を作ってみてください。
アリアは基本的に苦手。できない。

Q26. 自分のリサイタル・コンサートが開けることになりました。プログラムを作ってください。
前半、ロシアのアヴァンギャルドなジャズ・ミュージシャンを連れて来て、ハチャメチャな即興演奏をしてもらう。後半でシュニトケの交響曲第1番。

Q27. オペラで演じてみたい演目や役柄を教えてください。
「ヴォツェック」の大尉か医師になって、下品な根性を丸出しにする。

Q28. 最近どうしても耳から離れない曲って、何?
なし。

クラヲタに100の質問(プロフィール編)

遅ればせながら、今ごろ質問に答えます。

Q1. まずHN、職業と生息地を述べてください。
学生(に毛の生えたようなもの)、現在ロシアのペテルブルグ在住。

Q2. クラヲタ歴何年ですか?
20年弱。

Q3. クラヲタになったきっかけは?
母が時々クラシックを家でかけていたというのもあるでしょうが、決定的だったのは、中1の時に聞いた「ボレロ」。ジョルジュ・プレートル指揮、ベルリン・フィルによるヴァルトビューネの野外コンサートの映像を見たことがきっかけでした。

Q4. よく聴くジャンルはどのあたりですか?
以下の回答で明らかですが、近代管弦楽曲。

Q5. クラシック以外にどんな音楽を聴きますか?
ジャズ。特に好きなアーティストはユリ・ケイン、クリストフ・コメダ(Krzysztof Komeda、ポーランドのジャズ・ピアニスト。故人)、ウラジーミル・ヴォルコフ(ロシアのジャズ・ベーシスト)。マニアックなところに惹かれるのは、クラシックと同じ。

Q6. クラヲタであることは恥ずかしいですか?友人同僚にカミングアウトしてます?
カミングアウトする前にばれていることがほとんどです。

Q7. 最近はやりのライトクラシック系(ボチェッリやimage、Jクラ系など)をどう思う?
いいんじゃないでしょうか、別に(あまり深く考えていない)。

Q8. U野コーホー師についてどう思う?(知らない人はパスして下さい)
私は割と好きです。表現の仕方が特徴的なので毀誉褒貶の激しい人ですが、よく読むと、案外常識的なことを書いていることも多いと思います。

Q9. 携帯の着メロは何ですか?
ただの電子音。

Q10. クラシック音楽の雑誌を読んでいますか(有料無料不問)?よく読むものを挙げてください。
かつては『レコ芸』を読んでいましたが、日本を去る1年前ぐらいに、忙しくなったことをきっかけに買うのをやめました。

Q11. クラシック音楽関連の情報を主にどこから入手しますか?
インターネット。

Q12. あなたはCDリスナー派?コンサートゴーアー派?
日本ではCD派。ロシアではコンサート派。

2010年6月20日日曜日

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今まで同じようなことを何べんも聞かされてきたはずなのに、心に響いた。

2010年6月16日水曜日

ドゥダメル&シモン・ボリバル・ユースO in St. Petersburg

  1. イノセンテ・カレーニョ:マルガリテーニャ (交響的変奏曲)
  2. アルベルト・ヒナステラ:バレエ「エスタンシア」から舞曲 作品8
  3. ピョートル・チャイコフスキー:交響曲第4番ヘ短調 作品36
グスターボ・ドゥダメル指揮、シモン・ボリバル・ユース・オーケストラ・オブ・ベネズエラ
6月15日 マリインスキー・コンサートホール 20:00~


近年最も注目を浴びている指揮者、グスターボ・ドゥダメルと彼の手兵、SMYOV のペテルブルグ公演。この前に、モスクワでも演奏している。

実を言うと、ドゥダメルについては半信半疑だった。ラトル、アバド、バレンボイムという名だたる指揮者が彼のことを絶賛する割には、今一つ彼の演奏を聞いてピンとこなかったのである。具体的にはラジオで、デビュー盤であるベートーヴェンと、もう一つ「フィエスタ」というCDから数曲を耳にした程度なのだが、評判の割には、それほどいいとは思わなかった。特に「フィエスタ」に関しては、いかにも「ラテンの血」的なノリを聞かせてくれるかと思ったら、予想に反して意外と冷静な演奏だったような記憶がある。でも生で聞いたら感動するかもしれない。そのように期待半分、不安半分だった。

聞いた結果は「とても良かった」。これなら、なるほど、名だたる指揮者が誉めるのも分かる気がする。でもその魅力を言葉で伝えようとすると、なかなかいい表現が見つからず、困ってしまう。確かに若者らしい、元気のいい演奏なのだが、それだけではない。「ラテン」だとか「若さ」という言葉だけで片付けてしまうのはもったいないし、ラトルらが絶賛するのも、それだけではないからだろう。

私がふと思い出したのは、日本の高校における吹奏楽。中でも淀川工業高校とか天理とか、「お前ら本当に高校生か!!」と叫びたくなるような、高水準の演奏を聞かせてくれる学校がある。あの雰囲気に似ていないだろうか。いわばベネズエラの淀工吹奏楽部?

オーケストラは、率直に言ってそれほど上手いわけではない。グスタフ・マーラー・ユーゲント・オーケストラとかPMFのオケのような、名だたる一流オケに引けを取らないようなユース・オケとは違って、奏者一人一人の技量はそれほど大したことないのは、ソロを聞けば明らか。また弦楽器については、楽器の構え方や弓の使い方を見ていれば、大体見当がつく。でもだからと言って、、ソロに危なっかさしさは感じない。つまり、マリインスキーのようにワンフレーズ吹いただけで「うわ、上手 い!」と感嘆させるほどではないのだが、ちゃんと聞けるレベルには十分達している。

オケはかなりの大編成。チャイコフスキーで、チューバを除き完全な倍管。トランペット4はまだしも、ホルン8、トロンボーン6というのには驚いた。弦楽器もチェロだけで16人。普通、ここまで奏者を増やしてしまうと、誰かが足を引っ張って音が濁ってしまうのだが、トゥッティの部分でもとても見通しがいい。いろんなパートの音が聞こえてくる。ベルリン・フィルのような名手の集団ではないはずなのに。

思ったのは、ドゥダメルという指揮者、とにかく耳がいいということ。楽器間のバランスを取るのはものすごく上手いし、細かいフレーズもちゃんと弾かせている。特にラテンものの2曲で顕著なのだが、バティスのようにいかにも「ラテンのノリ」という演奏ではなく、むしろ色彩豊かな近代オーケストラの名曲として聞かせてくれる。これは前述のように、「フィエスタ」でも感じていたこと。

この「プロ未満、アマ以上」の技量、どこか「青い」のだけど、でも元気のいい演奏、それでいて洗練された響というのは、私には毎年普門館に来て金賞を持って帰る、恐ろしく上手い高校の吹奏楽部を想起させる。アンコールは彼らの十八番、「ウェストサイド・ストーリー」の「マンボ」と、再びヒナステラの「エスタンシア」より「マランボ」だったが、ここで見せてくれたスタンドプレイも吹奏楽ではそれほど珍しいものではない。

理屈はどうであれ、会場はもちろん熱狂して、最後はスタンディング・オベーション。先日のソウル・フィルの時の観客の拍手もすごかったけど、今日のはさらにその上を行く。わずか5日の間に、2つのオーケストラを通じて、世界の広さとクラシック音楽の普及ぶりを実感した。

<追記>
ベネズエラからの来たと思しきスタッフたちが、会場のあちこちでカメラを回していた。DVDでも作るの?休憩時間、そのうちの一人の女性がなにか珍しいものでも写すようにして、客席にレンズを向けて写真を一生懸命取っているので、何だろうと思って見てみると、何とスーツを着たゲルギエフが客席で老人と話している。スーツ姿のゲルギエフなんて初めて見た。相手の老人は誰だかわからないけど、どうもゲルギエフは、ホールの説明をしているらしい。確かにこのホール、いい音がするものなあ。先日のソウル・フィルのティンパニ奏者も素晴らしいホールだと言っていたし、チョン・ミョンフンもアンコールの前に、「素晴らしいホールだ」と言っていた。

帰宅後、もしやと思って調べてみると、あの老人はやっぱりこのオケの生みの親、ホセ・アントニオ・アブレウだった。それでゲルギエフはあんなにかしこまっていたのか。

2010年6月14日月曜日

ゲルギエフの「青ひげ」、再び

  • ベラ・バルトーク:歌劇「青ひげ公の城」
ワレリー・ゲルギエフ指揮、マリインスキー劇場管弦楽団、ウィラード・ホワイト(バス・バリトン)、エレーナ・ジドコワ(メゾ・ソプラノ)
6月14日 マリインスキー劇場 18:00~

世界はワールドカップに浮かれていて、本選出場を逃したロシアでもちゃんとテレビで中継している。もちろん日本‐カメルーン戦も見られるが、同じ時間帯にマリインスキーでやる「青ひげ」に興味があったので、サッカーの観戦は諦めた(帰ってきてネットでチェックしてみると、なんだかんだで日本勝っているじゃん)。

1年前にコンサートホールで聞いたゲルギエフの「青ひげ」は、この一年間に聞いたゲルギエフの演奏の中では、かなり上出来の部類に入るので、劇場のほうでやるとどうなるか興味があった。しかも歌手はLSO Liveから出ているCDと同じ組み合わせ。特にホワイトは、昨年末に「ファウストの劫罰」のメフィストフェレス役で聞いて、結構気に入った(あの時、オケは生気がなかったけど)。

今回、前口上はカット。いろいろと読み替えのできそうなホラーっぽい話だけど、それほど大きな読み替えはなくて、ホワイトがスーツを来ているとか、第五の扉で領地の代わりに7人ほど(だったけ?)の子どもが登場するとか(もしかして、領地の森や川などの要素を象徴しているとか?)いう以外は、割と筋書き通りの演出で、分かりやすい。7つの扉そのものは出てこないにしても、ユディトが目撃するものが、ちゃんと順を追って登場する。

ホワイトの歌唱は、「ファウストの劫罰」の時に比べると、やや硬いかなと思った。この人、ちょっとユーモアのセンスが求められる役のほうが、はまる気がする。そうはいっても、普段聞いているマリインスキーの歌手よりは明らかに上手い。ジドコワのほうは、十分役にはまっている。CDではどうなっているのだろう。

ゲルギエフ指揮のオケは、去年コンサートホールで聞いた時のほうがもっと洗練されていたように思う。ただしこれは、コンサートホールのほうがずっと音響がいいというのも、要因として大きいだろう。演奏の方向性としては不満なし。やっぱりこの人、響を整えることに関しては上手いのだ。ゲルギエフの心の中は冷めているのが分かるが、こういう曲の場合、突き放したアプローチを取ってもオーケストレイションが面白いので、十分楽しめる。

終演後、劇場前でバスを待っていたら、楽団員2人が楽器を担いで、いそいそとコンサートホールのほうへ向かっていくのが見えた。実はこの後20時から、コンサートホールのほうでウェーバー・プロ。もちろん指揮はゲルギエフ。よりによって、なんでウェーバー!?しかも前半で、「静かな森の乙女」とかいう、ものすごいマイナーな歌劇を抜粋で取りあげるし。普通なら「魔弾の射手」でしょう。そもそもロシアで、ウェーバーなんて一回も聞いたことがないのだけど。いつもながら、ここの楽団員は大変だなあと思う。さすがに私はパス。

2010年6月11日金曜日

音楽と社会~ソウル・フィルのコンサート

  1. オリヴィエ・メシアン:忘れられた捧げもの
  2. チン・ウンスク:ヴァイオリン協奏曲
  3. クロード・ドビュッシー:海
  4. モーリス・ラヴェル:ラ・ヴァルス
チョン・ミョンフン指揮、ソウル・フィルハーモニー管弦楽団(ソウル市立交響楽団)、ヴィヴィアン・ハーグナー(ヴァイオリン)
6月11日 マリインスキーコンサートホール 20:00~


昨日、ネフスキーにある行きつけの楽譜屋に寄ってみると、何やら英語でショスタコーヴィチの楽譜を買い求めている2人組がいる。会話の内容からプロの音楽家だと思われたので、ちょっと声をかけてみると、ソウル・フィルのティンパニ奏者とホルン奏者だという。でも2人ともチェコ出身。へえ、ソウル・フィルも国際化しているんだ。明日聞きにいきますよ、と言って、その場は別れた。

さて当日、会場に着いてまずビックリしたのが、ホールの中が韓国人だらけだったこと。ペテルブルグにこんなにたくさんの韓国人が住んでいたの!?、というぐらい。しかもほとんどの人は、おそらく普段はマリインスキーに来ない人たちで、何やら観光客のように写真を取っている。子どもも多い。結局、聴衆の半分は韓国人だったのではないだろうか(誇張ではなく)。特にStall(中央の席)は、3分の2がおそらく韓国人。

しかも普段は、簡単な曲目解説と奏者のプロフィールが載ったプログラムを30ルーブルで売っているのだが、この日は無料で配布。しかもカラーでいつもより立派。ただし、しっかりヒュンダイ自動車の広告が載っている。それもそのはず、ヒュンダイがツアーのスポンサーなのだから。

今日のソウル・フィルのコンサートは、5月の末からイタリア、ドイツ、チェコと回ってきたツアーの最終日。モスクワでもやっている。どうやらこのツアー、単なる一オーケストラのコンサート旅行ではなくて、韓国社会が総力挙げて応援すべき、一大イベントのようだ。もちろん、韓国のテレビカメラも同行している。ゲルギエフのある種のコンサートとか、ウィーン・フィルのコンサートとか、音楽と社会、あるいは政治とのかかわりを否応なしに実感させられることが今までもあったが、この日もそう。こんなところで、韓国社会の一側面を目の当たりにするとは思わなかった。

そんなことを考えていると奏者が入ってきたのだが、これまたビックリ。西洋人が多い。弦楽器は韓国人、それも女性が多いが、金管は半分以上が西洋人。最初のメシアンなんて、トランペット奏者が3人とも西洋人だった。これもチョン・ミョンフンの戦略か。

では、そのオーケストラからどんな音が出るかというと、さすがに韓国社会の強力なバックアップを受け、世界的な指揮者が率いているだけのことはある。メシアンの冒頭、弦楽器が鳴った瞬間、お、と思った。もしかしてマリインスキーのオケより上手くない!?聞いているうちに、それは確信に変わった。明らかに、マリインスキーの弦より、音に厚みがある。ソロは確かに、マリインスキーのオケのほうが上手いかもしれないが、オケとしてのまとまりはソウル・フィルのほうが数段上。金管に外国人を多く起用していることもあり、パワーも十分。

以前、チョン・ミョンフンが合併した東フィルのスペシャル・アーティスティック・アドヴァイザーを引き受けたとき、「なんでそんなのを引き受けたのだろう」と疑問に思っていたが、FMで聞いていると東フィルのレベルがどんどん上がっていったので、すっかり脱帽したことがある。その時の経験からソウル・フィルも期待していたのだが、期待通りの出来だった。4曲とも実に洗練された演奏。チョン・ミョンフンという人、たぶん野球の監督で言うと巨人みたいなスターチームではなく、万年Bクラスのチームを鍛え上げて優勝争いまで持っていくことに生きがいを見出すような人ではないだろうか(かつてのソウル・フィルが「Bクラス」だったかどうかは知らないけど)。あるいはプロ野球より、高校野球の名将タイプ。

贅沢を言えば、もう少しオーケストラの持ち味が明確になればさらにいいのだが。つまりティーレマンとミュンヘン・フィル(残念ながら分かれてしまったが)を聞いた時のような、「こんなブルックナー、この人たちにしかできまい」と感じさせる域には、あと一歩足りないということ。でもそれは容易なことではないので、今後の楽しみということで。

終演後はスタンディング・オベーション。決して韓国人だけでなく、ロシア人も拍手喝さいで、私の両脇に座っていたロシア人のおじさんとおばさんは、2人と もブラボーを叫んでいた。

今のソウル・フィルなら、ヨーロッパの一流オケとも互角に勝負できる。繰り返すが、マリインスキーより上。ただ終演後、楽屋を訪ねて件のティンパニ奏者に「マリインスキーよりソウル・フィルのほうがいいと思います」と告げたところ、どうもお世辞を言っていると思われたらしく、「君は優しいねえ」と言われてしまった。いや、本気なのですが…。彼が言うには、「マリインスキーのオケは忙しいから」。まあ確かに、それはある。マリインスキーももっとリハーサルすれば、おのずと結果は変わってくるのに(と、何回このブログに書いていることやら)。でも乾坤一擲のソウル・フィルとルーティンワークのマリインスキーでは、前者のほうが聞きごたえがあるのは当然かも。

もう一つ、今日気がついたこと。今日はチョン・ミョンフンの指揮姿を見たかったので、左側面の一番上(Belle-etage)の席を取ったのだが、この席に座るのは、ティーレマンとミュンヘン・フィルの時以来。これまた驚いたのは、オーケストラの音がダイレクトに飛んできたこと。この位置って、こんないい席だったの!?ティーレマンの時に一度聞いているのに、何たる不覚。今度からは、この席を狙おう。

<追記>
現代音楽好きとして、チン・ウンスク(陳銀淑)のヴァイオリン協奏曲に一言。チン・ウンスクの曲を聞くのはこれが初めて。あくまでも素人の印象論だが、なるほど、天下のグラモフォンからCDを出すのもうなずける、確かな作曲のテクニックを持っていることが窺える。冒頭から何か変わった音がすると思ったら、何とスチールドラムを使用。オーケストラにスチールドラムというのは、初めて耳にした。でも結構調和している。

音楽は明確な旋律線はほとんどないものの、心地よい色彩感にあふれている。ソロパートもオーケストラパートも、決して技巧的に簡単とは言えないだろうが、全く危なげない演奏だった。

でもこういう音楽、あんまり好きではないなあ。難解なものこそありがたいという気はさらさらないけど、でも聞いていて「え、何これ」と、こちらの音楽観を突きくずしてくれるような衝撃を、特に現代の音楽には求めたい気がする。最近耳にした例で言うと、シュニトケの交響曲第1番とかクルタークの「カフカ断章」とか。あるいはロシアの前衛ジャズとか。その衝撃がここにはない。別にチン・ウンスクに限らず、タン・ドゥンあたりにも同じような不満を感じるので、現代音楽全体の問題かもしれない。

何年前だったか、ブーレーズがルツェルンの音楽祭で、前半、藤倉大などの新進の作曲家の作品を3つか4つほど演奏し、最後にヴァレーズの「アメリカ」を取りあげた演奏会をFMで放送していたが、私には最近の若手作曲家の作品よりも、ヴァレーズのほうがはるかにエネルギーがあり、刺激的で「現代的」だった。ブーレーズは若手作曲家に活を入れたかったのではないかと、疑ったほど。チン・ウンスクの作品を聞いて思い出したのは、その時のこと。現代音楽って、やっぱり袋小路にはまりこんでいないだろうか。

2010年6月4日金曜日

テミルカーノフのマーラー

  1. グスタフ・マーラー:亡き子をしのぶ歌
  2. 同上:交響曲第4番ト長調
ユーリ・テミルカーノフ指揮、サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団、トーマス・ハンプソン(バリトン)、イリーナ・マタエヴァ(ソプラノ)
6月4日 フィルハーモニー大ホール 19:00~


テミルカーノフを聞くのは、ペテルブルグに来てから2回目。最初に聞いたのは、ちょうど1年前だった。別に彼のことを嫌っているわけではなく、単純に接する機会がなかったのである。スケジュールが合わなかったり、有名なソリストと一緒にやるためにチケットが(こちらの感覚だと)バカみたいに高かったり。それにゲルギエフみたいに、しょっちゅうコンサートをやってくれるわけでもない。まあ、ゲルギエフの仕事量が多すぎるのだが。それでもテミルカーノフは人気があるのか、会場は立ち見も出るほどの超満員。

今回のコンサートのチケットも、決して安くはなかった。1番後ろの席で300ルーブル。目玉はもちろんトーマス・ハンプソンがマーラーを歌うということ。彼はもうすぐ55歳になるはずで、声のほうはどうかなと思っていたけど、声質自体には全く問題なし。ただ若いころからバーンスタインとウィーン・フィルをバックに歌ったりして、マーラーの歌曲に精通しているはずの割には、聞いていて今一つピンとこない。「そうか、マーラーはこういう風に歌うんだ!!」という目から鱗の感覚に襲われないのである。意外と淡白だなあというのが、正直な感想。

たぶん一つには、テミルカーノフ指揮のオーケストラが足を引っ張ったのではないかと思う。「亡き子をしのぶ歌」1曲目の冒頭、木管のアンサンブルがなんか変。旋律の受渡しが上手くいっていない。楽器のバランスも変。結局、オーケストラが曲に慣れていないのではないかという疑念は、最後まで払拭できなかった。

交響曲第4番も同様の傾向。部分的にはとても美しいのだけど(特に弦楽器が歌いだすと)、全体的にどこかアンバランスで、「天上」だとか「幸福」の雰囲気はあんまり出ていない。皮肉が効いているわけでもない。これだったら、ゲルギエフとマリインスキーの4番のほうがいい。

1月にワシーリー・ペトレンコの指揮で交響曲第3番を同じオケで聞いた時は、オケの個性が決してマーラーの音楽の妨げになっていなかったが、今回は違った。テミルカーノフが悪いのか、4番の特性なのかよく分からないが、とにかく今回もテミルカーノフの株は自分の中で上がらず。

2010年6月2日水曜日

「楽音の詩」

  1. クロード・ドビュッシー:雪の上の足跡
  2. アレクサンドル・スクリャービン:前奏曲第2番 作品74 (アントナン・アルトーの詩)
  3. オリヴィエ・メシアン:前奏曲第2番 (ゼノ・ビアヌ)
  4. スクリャービン:前奏曲第4番 作品11 (アルトー)
  5. ピョートル・チャイコフスキー:感傷的なワルツ (アルチュール・ランボー)
  6. ドミートリ・ショスタコーヴィチ:子守歌 (シャルル・ボードレール)
  7. セルゲイ・ラフマニノフ:前奏曲作品23-1 (ステファン・マラルメ)
  8. セルゲイ・プロコフィエフ:風刺第4番 (ボードレール)
  9. モデスト・ムソルグスキー:ビドロ (アルトー。ピエール・ジャン・ジューヴ)
  10. ショスタコーヴィチ:カノン (ジュール・シュペルヴィエル)
  11. 同上:エレジー (同上)
  12. ニコライ・ロスラヴェツ:前奏曲第4番 (アルトー)
  13. プロコフィエフ:風刺第1番 (同上)
  14. ロスラヴェツ:前奏曲第5番 (アラン・ボスケ)
  15. アレクサンドル・ラスカトフ:鎮静 (イヴ・ナミュール)
イリーナ・カタエヴァ=エマール(ピアノ)、ピエール・ラムレ(踊り、朗読)
6月2日 マリインスキーコンサートホール 19:00~


2010年はロシア‐フランス年ということで、フランスの音楽家がよくペテルブルグに来ているが、このコンサートもその一環。上記のピアノの小品に合わせて、フランスの俳優が詩を朗読しつつ、同時に踊り(パントマイムといったほうがいいかもしれないが)を見せてくれた。また舞台の背景には大きなスクリーンが設置され、淡い模様が浮かび上がる。舞台上手に設置された台では影絵も。全部で1時間ほどの上演。

こういう文学と音楽のコラボレーションって好きだが、いかんせん、フランス語が分からないことにはどうしようもない。ロシア語の字幕ぐらい出てくるかなと思ったが、それもなし(あったとしても、字幕をちゃんと追えたかどうか、はなはだ疑問だけれど)。静謐な雰囲気を味わうしかなかった。そのせいかお客さんもまばら。せっかくフランスから来たのに。言葉の壁さえ何とかすれば、かなり楽しめると思うのだが。

こういう演劇的要素が濃い試みは、、小さな劇場、それもちょっとうらぶれた感じのところでやると、いろいろと想像力をかきたてられて面白い気がする。

2010年6月1日火曜日

たまにはゲルギエフを誉めてみる

昨日、マリインスキーで働いている日本語のできる友人から電話があった。日本から来たゲルギエフへのファンレター(誕生日カードのもの。ゲルギエフは5月生まれ)を訳しているのだが、分からない個所があるという。

「4人の交響曲って何の事だか分りますか?」

当初は「?」だったのだが、あれこれ話しているうちに「マーラーの交響曲に『千人の交響曲』というのがありますけど」と私がぼそっと呟くと、「それだ!!」ということに。確かに手書きの日本語の場合、「4」と「千」は似ている。しかし作曲者の名前くらい書いておいてほしかった(笑)。

手紙の内容は、ゲルギエフの指揮する「千人の交響曲」を聞いて感激し、自分でも合唱に参加したくなって、今では東京の合唱団で歌っていますというもの。ゲルギエフとしても嬉しい話だろうが、でも彼はファンレターにわざわざ目を通している時間などあるのだろうか?そう思って、件の友人に聞いてみると、どうもゲルギエフはちゃんと目を通しているらしい。だからわざわざ訳させているのだとか。

おお、ゲルギエフもなかなかいいところあるじゃん。ひょっとしたら、日本が好きだから、ということも考えられるけど、でも素直に偉いと思う。

ところで最近、マリインスキーのコンサートホールに行くと、いつも録音用のマイクが立っている。あんなに毎回録音してどうするのだろうと思っていたが、なんでもゲルギエフの指示でフォンドを作っているらしい。しかもどうやって時間を作っているのか知らないが、ゲルギエフは結構それをチェックしているという話も。こうした超人的な働きぶりが、彼が世界的な名声を博することになった要因なのだろうと思う。

2010年5月30日日曜日

J.フランツのカルミナ・ブラーナ

  • カール・オルフ:カルミナ・ブラーナ
ユストゥス・フランツ指揮、マリインスキー劇場管弦楽団&合唱団、アナスタシア・カラギナ(ソプラノ)、アンドレイ・ポポフ(テノール)、ウラジーミル・モロズ(バリトン)
5月30日 マリインスキーコンサートホール 19:00~

終演時にはこちらがヘトヘトになってしまうような長時間のプログラムを組むことが多いマリインスキーには珍しく、カルミナ・ブラーナ一曲のみ。いや、長時間のプログラムはゲルギエフが何でもかんでも振りたがるからか。

なぜだかわからないけど、今日は客が多かった。席からあふれて、階段に座っている人も多数。こんな光景、あまり目にしたことがない。

曲が始まった瞬間「お、今日は期待できるかも」と思った。オケが鳴っている。合唱も上手い。このオケ、ゲルギエフがいないときのほうが持ち味を発揮するような…。でもこのオケと合唱団をここまで育てたのは、ゲルギエフなのだよなあ。そのことを考えると、なんだか複雑な気分である。

しかし聞いていくうちに、詰めの甘さもところどころ気になった。決まってほしいところでアンサンブルがずれたり、響が混濁したり。特に静かな部分では、もうちょっと緊迫感が欲しい。

でも全体的に見れば、十分に水準以上の演奏だった。3人の独唱者、特に男声は芝居がかっていたが、曲想とそれほどずれていなかったので、OK。フランツの指揮は初めて見たけど(そもそもピアニストとしても、接したことがないのだが)、指揮姿が結構カッコイイ。曲の解釈も、ところどころ思い切ってテンポを揺らしたりして面白い。他の作品ではどういう指揮をするのか聞いてみたい。

2010年5月29日土曜日

マリインスキーの大失態

(直接見聞きしたわけではないにしろ、かなり確かな情報なので、書いておきます)

5月23日(日)にマリインスキー劇場でカルメンが上演された。ドン・ホセ役にイタリアからマッシモ・ジョルダーノが呼ばれ、アンナ・ネトレプコがミカエラを歌うという、かなり豪華な顔ぶれ(カルメンはナターリャ・エフスタフィエファ。指揮はトゥガン・ソフィエフだったが、マリインスキーでカルメンをやる時は彼が振ることが多いのである)。おかげで一番安い席でも1500ルーブルだったにも関わらず、チケットは完売。ところがこの日の公演、実は舞台裏でとんでもないことが起こっていたのである。

カルメンには複数の版があることはオペラファンにはよく知られた話だが、本番前日になって、ジョルダーノが練習してきた版と、マリインスキーが使っている版がまるで別物だということが分かったのである(それぞれがどういう版を使っていたのかは知らない)。もちろんジョルダーノに、一日でマリインスキーの版を身につけることなど不可能である。慌ててその場でつぎはぎのバージョンを作りあげ、演出もやり直す羽目に。劇場関係者は、本番の最中に演奏が止まるのではないかと真面目に心配していたらしい。幸い(?)止まらなかったそうだけど、客から最低でも1500ルーブル取って、そんなレベルの公演ってありだろうか。

おまけにゲルギエフが前日になって、「カルメンはオレが振る」と言い出す始末。別に「この窮地をオレが救ってやる」というわけではなく(だとしたら、ちょっとカッコいいけど)、単にネトレプコやジョルダーノの出るカルメンを振りたかっただけらしい。しかしこの騒動を知って、さすがにソヒエフに任せただとか。この話を聞いた時、ゲルギエフはどんな顔をしたのだろう。

ちなみにゲルギエフは、前日にエルガーのヴァイオリン協奏曲とドビュッシーの海を振っており、この日も昼間はラヴェルとマーラーを振っている。その上にカルメンまで振りたがるとは、何と言っていいのやら…。

閑話休題。いくら外部からのゲスト出演に慣れていないとはいえ(コンサートホールのほうはともかく、オペラのほうはほとんど身内だけでやっている)、版の違いを確認していないなんて、世界的なオペラハウスとして、あまりにもお粗末なミスではないだろうか。ジョルダーノのほうも確認しなかったのか不思議である。もしメトロポリタンあたりでこんなミスが起こったら、大騒動になるだろう。ところがこちらでは、特に大きな問題にはなっていない。これでも良しとするのがロシア??

とにかく、高い金を払って有名なアーティストの出演するオペラやコンサートに行っても、それに見合うものが得られるという保証はどこにもないという、典型的な話でした。

2010年5月28日金曜日

ピンチヒッターの楽しみ

  1. ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第1番ニ長調 作品12
  2. セルゲイ・プロコフィエフ:ヴァイオリン・ソナタ第1番ヘ短調 作品80
  3. ヨハネス・ブラームス:ヴァイオリン協奏曲ニ長調 作品77
アリョーナ・バーエワ(ヴァイオリン)、ワジム・ホロデンコ(ピアノ)、ザウルベク・ググカエフ指揮、マリインスキー劇場管弦楽団
5月27日 マリンスキー・コンサートホール 19:00~


本当は今日、グリモーのソロ・リサイタルがあるはずだったのに、キャンセル。代わりに行われたのが、このコンサート。そのため、前半がソナタで後半が協奏曲という、ちょっと変わった組み合わせ。

バーエワ(バーエヴァ)が舞台に姿を見せた途端に、驚いた。ものすごく大きなお腹。もしかして、すでに産休に入っていたのに、マリインスキーから呼び出されたとか!?

ベートーヴェンの出だしの、べた~とした歌い方を聞いた時には、今日はハズレかなと思ったけど、徐々に調子が出てきた模様。ただ若いベートーヴェンの魅力を引き出すには、もうちょっと軽やかさが欲しい。むしろピアニストのほうが、曲想にマッチしている感じがする。

しかしプロコフィエフでは、曲の個性とバーエワの個性がマッチして、かなり楽しめた。正直に告白すると、ベートーヴェンのソナタも、プロコフィエフのソナタも、今までちゃんと聞いたことがなかった。しかし特にプロコフィエフのソナタは、かなりの傑作ではないだろうかと思った。ものすごく情熱的でスケールの大きな曲。そう思ったのはもちろん、バーエワの演奏がそうだったからなのだろう。ひょっとしたら第3楽章など、もっと怪奇な表現が可能かもしれないが、それは他の演奏も聞いてみなければわからない。

ブラームスはどうなるだろうと思っていたら、これも良かった。特に第1楽章が熱演!!1年前に聞いた諏訪内晶子とテミルカーノフの同曲の演奏が、どこか煮え切らなかったのに対し、バーエワは完全に吹っ切れていた。

意外だったのはオーケストラの健闘。メンバーは一軍と二軍の混合と言ったところか。どうせ「俺たち伴奏だし~」みたいな演奏をするのだろうと高をくくっていたら、さにあらず。バーエワに対抗してか、頑張ってブラームスっぽい音を出す。ヴァイオリンはいささか音の薄さを感じさせたが、木管は大健闘。無名の若手指揮者なのに、ゲルギ○フのブラームスよりいいんじゃないの?

グリモーのキャンセルは残念だったけど、代わりにいろいろ収穫はあった。特にバーエワには、無事出産して舞台に戻ってきてほしいと思う。

しかしそれにしても、バーエワが85年生まれ。個人的に特別な存在であるコパチンスカヤが77年生まれ。こうやって次から次と新しい才能が出てくるのだ。この世界で活躍を続けるのも楽じゃないということを、今さらながら改めて感じた。

2010年5月23日日曜日

ゲルギエフのラヴェルとマーラー

  1. モーリス・ラヴェル:「ダフニスとクロエ」第2組曲
  2. 同上:ピアノ協奏曲ト長調
  3. グスタフ・マーラー:交響曲第10番嬰ヘ長調~アダージョ
ワレリー・ゲルギエフ指揮、マリインスキー劇場管弦楽団、アレクセイ・ヴォロジン(ピアノ)
5月23日 マリインスキーコンサートホール 12:00~


本当は今日、エレーヌ・グリモーがマリインスキーに来てラヴェルのピアノ協奏曲を弾くはずだったのに、一週間前になり急病のためキャンセル。さすがにそれを知った時は、ガクッときた。楽しみにしていたのに…。でも気を取り直して、マリインスキーへ。

一曲目は「ダフニスとクロエ」の第2組曲。ゲルギエフはこういう曲は上手い。大きな編成だが、楽器の鳴らし方のバランスがとても良く、色彩感が豊かだ。彼の指揮で全曲を聞きたくなった。先月のラ・ヴァルスも名演だったし、チャイコフスキーだのショスタコーヴィチだのという「お国もの」はフィルハーモニーのほうに任せて、ゲルギエフはもっと近代フランスものを振ってはどうか。でも世界のファンが彼に期待するのは、ロシア音楽なのだろうなあ。世の中の人にもっと目覚めてほしいと思うけど、でもひょっとしたら私の耳がおかしいのか?

続いてピアノ協奏曲ト長調。ヴォロジン、出てくるときの歩き方が何となくぎこちなく、大丈夫かなと思ったけど、演奏自体はオケともども無難にこなしていた。第2楽章はもっと歌ってほしかったけど、第3楽章は音が飛び跳ねるようで良かった。これがグリモーだったら、ということを想像するのはよそう(ネームヴァリューと生演奏の感銘度がまるでかみ合わないことは、この一年間いやというほど思い知らされたし)。

後半はメインのマーラーだが、実はこれがアダージョのみか、全曲やるのか、はっきりと告知されていなかった。全曲聞いてみたいけれど、この人たちはどうせちゃんとリハーサルしていないだろうし…。結局、アダージョのみ。賢明な判断だと思う。生で舞台を見て初めて気がついたのだけど、このアダージョ、実は打楽器が登場しないのだ。

肝心の演奏だが、ところどころゲルギエフのこだわりを感じさせる部分があったが、曲の全体像がつかみづらく、散漫な印象。もともと複雑な構造の曲なので、しょうがないと言えばしょうがないのだが。もっとリハーサルをすればおのずと結果は違ってこようが、それを今のゲルギエフに求めることはできない。

2010年5月18日火曜日

「本物」のショスタコーヴィチ

  • ドミートリ・ショスタコーヴィチ:交響曲第4番ハ短調 作品43
ニコライ・アレクセーエフ指揮、サンクト・ペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団
4月18日 フィルハーモニー大ホール 19:00~

こないだのブラームスでは、オケの個性と作曲者の個性がかみ合っていないような印象を受けたが、今日のはまさしく十八番。管楽器の硬く鋭い音が、この交響曲にピッタリ。ショスタコーヴィチはきっとこういうサウンドを想定して曲を書いたに違いないと思わせる、説得力がある。その意味では、つぼにはまった時のオリジナル楽器の演奏と似ている。というか、これも広い意味でのオリジナル楽器の演奏と言えるだろう。このオケ、ブラムースが下手なのは残念だけれど、でもショスタコーヴィチ・ファンとしては、この個性は失ってほしくない。アレクセーエフはさすがに副指揮者だけあって、オケの持ち味をよく理解している。

とはいっても、リハーサルの時間が足りなかったのか、第一楽章の有名なプレスト(練習番号63)は割と弾けていた代わりに、意外なところでアンサンブルが乱れたり、リズムの詰めが甘かったりしたのは残念。それでも、全体的に見れば十分満足できる出来。咆哮するオーケストラを聞いて、「いや~ショスタコーヴィチを堪能した」という気になれた。ゲルギエフでは、なかなかこうならない。

一曲のみの一時間強のコンサートだったが、最近長時間のコンサートに疲れ気味だったので、ちょうど良かった。これぐらいの短いコンサートを、もっと増やしてほしい。

<追記>
演奏の最中に携帯が鳴らず、演奏が終わってから拍手が起こるまで間があった点でも、今回のコンサートは良かった。

2010年5月17日月曜日

この1年間を振り返って

ペテルブルグに来てから、早くも1年が過ぎた。この1年間、コンサートに行きまくって(というか、行きすぎ)、いろんな演奏に出会うことができたけれど、中でもインパクトのあったコンサートを挙げておくと、次のようになるかなと(ヘルシンキやザルツブルグで聞いたものは除く)。
  1. ティーレマン指揮、ミュンヘン・フィルによるブルックナーの交響曲第8番(2009年6月1日、マリインスキーコンサートホール)
  2. スペイン国立バレエ団(2009年7月18日、マリインスキー劇場)
  3. ティトフ指揮、サンクトペテルブルグ交響楽団によるシュニトケの交響曲第1番(2009年11月29日、フィルハーモニー大ホール)
  4. ゲルギエフ指揮、マリインスキー劇場管弦楽団によるシチェドリンの歌劇「魅せられた旅人」(2010年1月2日、マリインスキーコンサートホール)
  5. V. ペトレンコ指揮、サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団によるマーラーの交響曲第3番(2010年1月10日、フィルハーモニー大ホール)
  6. モスクワ・アート・トリオ(2010年2月21日、サンクトペテルブルグ・カペラ)
1→来て早々にこんなものを聞いてしまったので、すっかりヨーロッパ(ロシアを除く)かぶれになってしまった。
2→とにかくカッコいい!!ついでにヨーロッパかぶれを加速させる。
3→シュニトケの交響曲第1番はサン・ラーもアイヴスも真っ青の怪作。やっとロシアのクラシックに熱狂することができた。
4→やっとゲルギエフの演奏で満足するものに出会えた。この日の演奏だけは文句なし。
5→今のところV. ペトレンコは、ロシアの若手指揮者の中で一番期待できる。タタールニコフも好きだけど。
6→ロシアのジャズは面白い。中でも楽しかったのがこの日の演奏会。もっと日本の人にも聞いてほしい。

2010年5月16日日曜日

リャードフのバレエ

  1. アナトーリ・リャードフ:春の予感
  2. モーリス・ラヴェル:ボレロ・ファクトリー
ワシーリー・カン、アレクセイ・レプニコフ指揮、マリインスキー劇場管弦楽団
踊り:イリーナ・ゴルブ、ヴィクトリア・テレシュキナほか、振付:ユーリ・スメカロフ

5月16日 マリインスキー劇場 19:00~


リャードフと言えば、バレエ「火の鳥」の仕事をストラヴィンスキーに取られ、それをきっかけにストラヴィンスキーは一気にブレイクするという、損な引き立て役で有名な人。実を言うと、私も彼のことはそんなによく知らない。

別にリャードフが「春の予感предчувствие весны」という曲を書いたわけではなく、「魔法にかけられた湖」「バーバ・ヤガー」「キキモラ」「8つのロシア民謡」という彼の代表作を伴奏にしたバレエ。魔法にかけられた湖で、豊穣の精(?)がヤリーラ神の助けをかりて冬の精、死の精を追い払い、春をもたらすという分かりやすいストーリー。舞台装置も衣装もシンプルだったが、その分ダンサーの演技力が活きていたように思う。

リャードフの音楽は、編成が大きく響は美しいのだけれど、確かに盛り上がりに欠ける。それを反映して、あのような振付にしたのか。ヤリーラ神と冬の精の勝負も、あっさりついてしまう。普通のバレエだったら、派手な対決になりそうなのに。

一方、さすがにボレロは対照的。こちらは大いに盛り上がった。ただしストーリーは完全に変えられていて、人間の魂を象徴する女性ダンサーと7つの大罪を象徴する7人の男性ダンサーの共演。詳しくは知らないけど、ヒントになった原作があるらしい。

たぶん、人間の無垢な魂が汚れていく過程を表しているのではないかと思って見ていたが、とにかくその危なっかしさが、魅力だった。客席も随分と興奮して、長いカーテンコール。ダンサーが何度も舞台に呼び出されていた。

これでオケが上手かったら私も大興奮だっただろうけど、さすがにボレロとなると、オケの技量がはっきりと出る。さすがに、ソロが落っこちるということはなかったものの、あまり上手くなかった。それでも最後は盛り上がったのだから、ラヴェルは偉大だと改めて痛感した次第。

2010年5月14日金曜日

ロシア+日本+ジャズ

鈴木史子(ヴォーカル)、田中裕士(ピアノ)、三好芫山(尺八)、ダヴィド・ゴロショーキン(フリューゲルホルン、ヴィブラフォン、電子ヴァイオリン)ほか

4月13日 ジャズ・フィルハーモニック・ホール 19:00~

とにかく物珍しい組みあわせのコンサートがあると、出かけていきたくなる。この日はジャズのフィルハーモニック・ホールで、日本のミュージシャンとロシアジャズ界の大御所ゴロショーキン(ガラショーキン)+ベースとドラムスの協演。それだけならまだしも、尺八でジャズというのに惹かれた。どんな曲を演奏するのだろうと思っていたけど、このホールらしく、My favorite Things, Over the Rainbow, C Jam Blues, What a Wonderful Worldなど、スタンダードナンバーが中心。ペテルブルグの日本総領事館がサポートしていて、会場に行くと日本人がいっぱい。総領事の姿も。ただそのほとんどは、明らかに総領事館や出演者の関係者で、もしかしして「純粋な」日本人の観客は私一人?ロシア人はいつも通りたくさん来ていたけど、ちょっと寂しい。

肝心の演奏だが、日本の3人のミュージシャンも悪くなかったものの、やっぱり一番貫禄があったのはゴロショーキンだという気がする。曲目もスタンダードなだけに、なおのこと安定感がある。

尺八だが、「鶴の巣籠り」という曲をピアノと演奏した以外は、大人しく(?)ジャズのメロディーを吹いていた。ただ曲が曲だけにしょうがないのだろうが、和風テイストのフルートかリコーダーのような音で、尺八の持ち味をロシア人に知らしめることができたかどうかは、正直疑問。まあ、西洋の美学からいけばノイズにしか聞こえないような尺八の音(それがいいのだけど)を、ロシアジャズの殿堂で鳴らすわけにもいかないだろうが。

それでもロシア人は嬉しかったのか、奏者が舞台裏に引っ込んだ後でも、ずいぶんと長いこと拍手をしていて、日本の3人を再び舞台に引っ張り出していた。「尺八の持ち味云々」と書いたが、何であれ触れないことには始まらないのだから、これをきっかけに尺八に興味を持つロシア人がいればいいと思う。

2010年5月12日水曜日

期待の(?)若手ソヒエフの「炎の天使」

  • セルゲイ・プロコフィエフ:歌劇「炎の天使」
トゥガン・ソヒエフ指揮、マリインスキー劇場管弦楽団&合唱団ほか
4月11日 マリインスキー劇場 19:00~

ゲルギエフを除けば、今マリンスキー劇場の指揮者で最も国際的に活躍しているのが、ソヒエフ(ソキエフ)だろう。まだ32歳であるにもかかわらず、とうとうベルリン・フィルにデビュー!!だが国際的に活躍しているせいか、案外ペテルブルグで聞く機会が少ない。2月に彼の指揮でヴェルディのレクイエムを聞いたけれど、前半と後半で明らかに演奏の充実度に差があり、「これは確かにすごいやつだ!!」ということにはならなかった。

でも出世しそうなので(笑)、今のうちにもうちょっと聞いておきたいなと思っていたら、今度はプロコフィエフの歌劇「炎の天使」を振るのを見つけた。「炎の天使」は聞いたことがなかったけれど、それを改作した交響曲第3番は結構好きである。分かりやすいメロディーと派手な不協和音の組みあわせがツボにはまる。というわけでソヒエフに再挑戦してみたのだが、結果は…。

正直な感想を言うと、ソヒエフという人は、かなりムラのある指揮者ではないかという気がした。調子のいい時と悪い時があるというよりは、1つの曲の中での、いい部分と悪い部分の差が激しい。2時間かかるオペラなので、ある程度のムラはしょうがないけど、でも時々「オッ!」と耳をそばだてたくなる繊細な響きを聞かせてくれたかと思うと、あくびが出てくるぐらいテンションの低い部分や力任せの部分もあったりして、この人、名指揮者なのかどうかよく分からない。「この指揮者、確かにすごいかも」と思っても、それが長続きしないのである。確かに潜在的な能力は高いとは思うのだが…。彼はすでに何回かここで「炎の天使」を振っているはずなので、リハーサルの時間が足りなかったということはないはず。ソヒエフは同郷のゲルギエフに気に入られているらしいけれど、ゲルギエフの悪い面(時々あからさまに手を抜く)まで受けついで欲しくない。

もちろん「炎の天使」は難曲で、オーケストラピットに入ったオケと歌手のバランスが難しい。プロコフィエフの凝ったオーケストレーションを聞かせようとすると、歌手が聞こえなくなる。逆もまたしかり。オケを取りたければ交響曲第3番にするか、演奏会形式にするべきなのだろう。

演出は、日本でも話題になった山海塾のようなダンサーたちが活躍する、インパクトのあるもの。最後はしっかり「乱交」を見せてくれた(発売された映像は見ていないので、全く同一かどうかは分からない)。でも実は結構シンプルな舞台装置だなと思う。先月見た「使徒パウロの神秘劇」のお金の掛けようを、改めて思い知った次第。

2010年5月6日木曜日

タカーチ in マリインスキー

  1. ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第6番変ロ長調作品18-6
  2. 同上:弦楽四重奏曲第16番ヘ長調作品135
  3. 同上:弦楽四重奏曲第9番ハ長調作品59-3「ラズモフスキー第3番」
タカーチ弦楽四重奏団
5月6日 マリインスキー・コンサートホール 19:00~


タカーチがベートーヴェンの初期、中期、後期から一曲ずつ選んで構成した演奏会。東京だったらともかく、やっぱりロシアではなかなか客が入らない。そのおかげで、無料で聞くことができたけど。前も書いたように、実は私も弦楽四重奏が苦手なので、ぜひ聞きたいというわけではなかったが(バルトークだったら、嬉々として行っただろうけど)、この機会に聞いておいて損はないだろうと、軽い気持ちで。

一曲目は、昼間の疲れが出てすっかり寝てしまった。二曲目から聞きだしたわけだが、前半はなんでベートーヴェンは人生の最後にこんな曲を書いたのだろうと、不思議に思いながら聞いていた。「最後」ということを意識しすぎかもしれないけど、何かピンとこない。しかし第3楽章は寂しさがにじみ出るようで、素晴らしかった。演奏自体、ここから乗ってきたような気がする。そして終楽章導入部の有名な掛け合いの部分が、実に斬新な音として響いていた。

休憩後のラズモフスキー第3番は、曲自体がよくできているので、素直に楽しめた。若干、第1ヴァイオリンの音程が怪しかった気がするが。

演奏とは関係ないが、ロシアだなあと思う出来事について。会場で買ったプログラムには、最初6番だけやって休憩をはさみ、16番と9番をやると書いていたのだが、開始直前に、6番と16番をやった後、休憩に入りますというアナウンスがあった。ところがこのアナウンスを聞いていない人が結構いたらしく、6番の終了後、演奏者が一度舞台袖に引っ込むと、(会場は暗いままなのに)休憩と勘違いした人たちがぞろぞろと席を離れはじめて、演奏者が入ってくると、慌てて席に戻りはじめたという一幕があった。人の話を聞いていないというか、ロシア人って実は結構周りに流されるよなあと思う。拍手にしても、楽章間にするのはやめてほしいのだが、これは諦めざるをえない。

2010年5月3日月曜日

ショスタコーヴィチの交響曲第8番の第2楽章

DSCH 社から、ショスタコーヴィチの交響曲第8番の楽譜が新たに刊行された。本当は昨年の夏ごろに刊行されているはずだったが、どうもこのシリーズ、刊行が遅れているらしい。しかも238ページで2020ルーブルって。274ページの10番ですら1500ルーブル前後だったのだから、なんか割高感が…。

と言っても、好きな曲なので、買わずにはいられなかった。それに今回の注目は、第2楽章の初稿が収められていること。もしかして、刊行が遅れたり価格が高めなのは、このせいだろうか。

第2楽章の初稿の特徴は、ピアノが入っていること。しかもここに載っている125小節のうち、ほとんど弾きっぱなしである。解説によると、ショスタコーヴィチは当初、リストのピアノ協奏曲第1番のアレグレットの部分に触発されて、この楽章を書いたそうだ。ショスタコーヴィチがリストと交響曲第8番で結びつくなんて、とても意外。

この楽譜を実際に音にしたら、どうなるだろう。ピアノ協奏曲風に聞こえるのだろうか?残念ながら楽譜を見ただけでは、頭の中に音は鳴り響かない(そんな能力があれば、今頃別の職業についている)。でも最近、こういう断章が見つかると、誰かが音にしてくれるから(ショスタコーヴィチの場合、交響曲第4番や9番の例がある)、この断章も誰かが音にしてくれることを期待したい。しょせんは、マニアックな要望だけれども。

2010年4月29日木曜日

ショスタコーヴィチとブラームスを並べて聞くと

  1. ドミートリ・ショスタコーヴィチ:ピアノ協奏曲第2番ヘ長調作品102
  2. 同上:ピアノ協奏曲第1番ハ短調作品35
  3. ヨハネス・ブラームス:交響曲第4番ホ短調作品98
アレクサンドル・ティトフ指揮、サンクト・ペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団、アレクサンドル・マルコヴィチ(ピアノ)、ヴャチェスラフ・ドミトロフ(トランペット)
4月29日 フィルハーモニー大ホール 19:00~

ペテルブルグに住みはじめて、もうすぐ1年になるが、やっとブラームスの交響曲が聞けた。まったくないというわけではないが、ブラームスの交響曲をこの街で聞く機会は、本当に限られている。これだけオーケストラのコンサートが開かれているにもかかわらず。でも確かに、ロシアのオケと指揮者でブラームスの交響曲を聞きたいかと聞かれると、ちょっと返事に困るのだが。

当初はこのプログラム、ネーメ・ヤルヴィが来て振る予定だったのだが、2ヶ月ほど前にティトフに交代していた。確かに外見は似ているかも…て、関係ないか。それにしても誰だろう、ショスタコーヴィチのピアノ協奏曲2つにブラームスの交響曲という変わったプログラムを考案したのは。そして実際に聞いてみて、やっぱり変な組み合わせだと思った。

ピアニストのマルコヴィチは、全体的にやや荒く、勢いで弾いているようなところがある。まあそれはそれで面白かったけど。演奏そのものよりも、ニコニコと楽しそうに弾くピアニストの後ろで、コンマスが鋭い眼光を光らせていたのが印象的だった。あのコンマス、何を考えていたのだろう。

今日のトランペットは、いつもの太ったオジサンではなかったが、でも上手かった。ピアニストを押しやってしまうほど音量を出さなかった分、曲にはあっていたかも。

さて後半、ブラームスが始まったとたんに、ホッとすると同時に、突然異次元の世界につれこまれたような違和感を覚えた。1つのコンサートの中で、ショスタコーヴィチの世界からブラームスの世界に飛ぶのって、こんなに大変だったのか!?何この距離間は??ショスタコーヴィチとブラームスが、全くタイプの違う作曲家であるということは、十分承知しているつもりだったけど、実はまだよくわかっていなかったのかもしれない。

ブラームスの交響曲ってやっぱりいいなあと思いながら聞いていたが、でも時々炸裂するティンパニや金管にはたじろいだ。特に第4楽章、明らかに金管が出しすぎ。オーケストラの個性と言えばそれまでだが、ショスタコーヴィチやチャイコフスキーではピタリとはまる彼らの持ち味も、ブラームスだとそうはいかない。ロシアでなぜブラームスの交響曲が演奏されないのか、論より証拠を見せられた気分。でもやっぱり、もうちょっとブラームスの交響曲を聞く機会が増えてほしいなあ。

2010年4月28日水曜日

呼吸する音楽~レオンハルトのチェンバロ

  • クープラン、パーセル、J.S. バッハの作品
グスタフ・レオンハルト(チェンバロ)
4月28日 フィルハーモニー小ホール 19:00~


本当は4月18日に開かれるはずだったが、アイスランドの噴火の影響で10日後に移動。中止にならなかっただけでも、幸いとするべきだろう。

開始5分前についてみると、客席はほぼ満席。それどころか、臨時に席を増やしている。レオンハルトなんてロシアではそんなに知られていないのではないかと思ったが(ましてや曲目は、それほど知名度があるとは思えないバロック音楽)、その予想は外れ。かなりの人気だ。プログラムはすでに売り切れ。おかげで、詳細な曲目が分からない。

さて演奏内容だが、そもそもそれほど熱心なバロック音楽の聞き手ではなく、ましてやプログラムが手元にないとなれば、あれこれ細かく言うこともできない。ただ、ロシアに来てから味わったことのない体験をすることができた、と言うことはできる。

深くゆったりした呼吸で、聞き手を包み込むような演奏と言えばいいだろうか。音楽における呼吸の大切さをこれほど実感したのは、ひょっとしたら初めてかもしれない。時々派手なミスタッチが混じるものの、そんなものどうでもいいと感じさせるぐらい、音楽に「安心感」がある。聞いていて、とてもホッとするのだ。個人的には、バロック音楽はジャズすれすれの、ノリのいい演奏が好きなのだが、レオンハルトの演奏はそれとは全く違う。もっと落ち着いた演奏。でも、一音一音がとても生き生きしている。そして細かい装飾音の向こうに、大きな流れが感じられる。これが「大家」の演奏なのか。

休憩時間、一生懸命チェンバロの調律をしていたレオンハルトの姿も目に焼き付いている。

2010年4月24日土曜日

季節外れの(?)チャイコフスキー

  1. ドミートリ・ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調作品77
  2. ピョートル・チャイコフスキー:交響曲第1番ト短調作品13「冬の日の幻想」
ミハイル・タタールニコフ指揮、マリインスキー劇場管弦楽団、Yuri Zagorodnyuk(ヴァイオリン)
4月24日 マリインスキーコンサートホール 19:00~


Yuri Zagorodnyukという、マリインスキーの元コンマスの75歳記念演奏会。ショスタコーヴィチは、ご本人が希望したものだろうか。だが正直なところ、技巧の衰えは隠せない。しかも結構初歩的なところで音を外している。とはいっても、音楽が崩壊するほどではないし、音色や歌い方は悪くないので、ベートーヴェンとかメンデルスゾーンとか、もう少し技術的に簡単な曲にしておけば良かったのではないだろうか。

なんだか野暮ったい(聞き様によっては味があるとも言えるが)ソリストとは対照的に、タタールニコフが指揮するオーケストラは洗練されている。しかも元コンマスに敬意を表したのか、今日は「一軍」なので、こちらは技術的に問題なし。このコンビで、ショスタコーヴィチの交響曲も聞いてみたい。

後半のチャイコフスキーになると、ソリストに気を使う必要がないせいか、オーケストラはますます快調。ちょうど春がやってきた今の季節に「冬の日の幻想」を何で取りあげるのだろうと思うけど(でも第4楽章の雰囲気は、今の季節にピッタリか)、久々にチャイコフスキーを堪能できた。はっきりいって、ゲルギエフが指揮している時より爽快だ。

やっぱりタタールニコフは、期待していい若手だと思う。これからの理想は、タタールニコフの指揮で「一軍」の演奏を聴くこと。

2010年4月15日木曜日

未知との遭遇~カレトニコフのオペラ「使徒パウロの神秘劇」

  • ニコライ・カレトニコフ:歌劇「使徒パウロの神秘劇」
パーヴェル・ペトレンコ指揮、マリインスキー劇場管弦楽団&合唱団ほか
4月14日 マリインスキー・コンサートホール 19:00~

名前すら全く知らなかった作曲家の、(当然)初めて聞くオペラ。ウィキペディアで調べてみると、新ウィーン楽派の影響を受けたカレトニコフの作風は、ソ連当局の意向にそぐわなかったため、生前はずいぶんと冷遇されたらしい。マニアの性として、こういう知られざる作品はどうしても聞きたくなる。ポスターには、ウルトラマンに出てくる怪獣(あるいは、ゲゲゲの鬼太郎に出てくる妖怪)みたいな奇妙なコスチュームがたくさん描かれていて、これも興味を引いた。

こんなオペラ、誰も見に来るまいと高を括っていたら、なぜかチケットの売れ行きが非常にいい。当日も、満席とはいかないまでも、かなりそれに近い状態。

しかも、演出がまた力が入っている。でも残念ながら、それを表す筆力は今の私にはない。ストーリーの概要は、古代ローマにおける使徒パウロとネロの物語であり、ローマの大火を口実にしてパウロを死罪にしたネロも、最後は帝国全土の反乱のために自害に追いこまれる。パウロがモノローグで、キリストの愛を説いたりして(コリント人への手紙からの引用らしい)、要は信仰の重要性を説く内容であり、ソ連時代にこの作品を書いた意図をあれこれ推測してしまう(おそらく誰もが抱くのが、ローマ帝国ってソ連の隠喩?という疑問)。

演出に話を戻すと、ものすごくモダンで派手な演出であり、バルタン星人が舞台に出てきても、違和感がなかったと思う。そういえば、「21世紀少年」(原作も映画も読んでいないし、見ていませんが)の目玉みたいなのも舞台上にあった。今日の演出家は、きっと日本の映画や漫画が好きに違いないと、勝手に思っていた。これに比べれば、こないだ見た「トリスタンとイゾルデ」の舞台など、実にシンプル。

でもどこか、今年の初めに見た「魅せられた旅人」の舞台に似ているなあと思ったら、実は同じ演出家だった。「魅せられた旅人」の舞台は簡素、今回はド派手と、一見対照的だが、合唱を舞台後方の客席に置いたり(しかもこれまた奇妙な衣装を着ている)、あるいはダンサーの使い方などが、よく似ていたりする。

かなりお金をかけた演出であり、マリインスキーが力を入れていることが窺われる。面白かったが、でも、なんでこんなに力を入れているのだろうと、疑問が残った。一番高い席で400ルーブルだったが、それでは元手が取れるわけがない。どこからか補助金が出ているはずだが…。

さて音楽のほうだが、これがまたびっくり。シェーンベルクそっくりの響きがする。たぶん12音技法ではないだろうか。しかし70年代から80年代に、こんなにシェーンベルクの技法を忠実になぞった音楽を書いていたのは、世界中でもカレトニコフぐらいでは?生前、ソ連で受け入れられなかったのは分かるが、同時に、西側ではアナクロニズムの音楽だったのではないだろうか。

ただ、いつどこで書かれたという問題をいったん脇に置いて耳を澄ませば、これはこれで聞きごたえのある力作ではないかと思った。1時間半、起伏に富んでいて面白い。残念ながら、オーケストラがまだ作曲者の語法を消化しきれておらず、その点では不満が残ったが。今後、さらに質の高い演奏で聞く機会があればいいと思う。

2010年4月14日水曜日

ゲルギエフの謎、謎、謎…

  1. ドミートリ・ショスタコーヴィチ:交響曲第3番変ホ長調作品20「5月1日」
  2. ヴィトルト・ルトスワフスキ:ピアノ協奏曲
  3. アントン・ドヴォルザーク:チェロ協奏曲ロ短調作品104
  4. モーリス・ラヴェル:ラ・ヴァルス
ワレリー・ゲルギエフ指揮、マリインスキー劇場管弦楽団&合唱団、セルゲイ・ババヤン(ピアノ)、マリオ・ブルネロ(チェロ)
4月13日 マリインスキーコンサートホール 20:00~


このコンサート、当初はブルネロのソロによるドヴォルザークのチェロ協奏曲しか告知されていなかった。そのうち何か追加するだろうと思っていたら、一週間ほど前になってショスタコーヴィチとラヴェルが追加。これで終わりだと思っていたら、なぜか2日ほど前になってルトスワフスキ(!)も追加。また無茶な。案の定、いつまでもリハーサルをしていて、お客が会場に入れたのは20時20分ごろ。開始は、その10分後だった。いつものことながら、ゲルギエフの頭の中を覗いてみたい。

おそらく交響曲全集録音の一環として取りあげたショスタコーヴィチの3番。この曲、私はあんまり好きではない。同じ体制翼賛でも第2番は刺激的だけれど、第3番は平明すぎるというのか。この日のゲルギエフの演奏を聴いても、ピンとこなかった。

続いて、なぜか急きょ追加されたルトスワフスキ。ピアニストは初めて聞く名前で、若手だが、リゲティやペルトなどの現代曲を得意としているそうだ。この日も暗譜。初めて聞く曲なのであれこれ細かい指摘はできないが、しっかりと曲を把握している感じで、安心して聞くことができた。対照的なのがゲルギエフ。最初から最後まで、すごい形相で譜面にかじりついていて、予習が足りていないのが見え見え。それでも何とかなってしまうのが、このコンビの凄いところなのだが(というか、間違ってもこちらは気がつかない)、こんな状態で人に聞かせることに疑問を感じざるを得ない。

休憩の後は、もともとメインだったはずのドヴォルザーク。ところがさっきのルトスワフスキで力を使い果たしたのか、オーケストラの音に生気がない。おかげでブルネロの音はよく聞こえたが、要するにソリストの一人舞台になってしまったということ。こうした演奏は、ブルネロに対して失礼では?

ブルネロが引っ込んだ時点ですでに23時近く。帰っていくお客さんも多い。お腹もすいたし私も帰ろうかな、でもラ・ヴァルスは12分程度だし聞いていくかと残ってみたら、驚いた。さっきまでとはまるで別のオケのように、豪快に鳴りまくる。編成が大きくなっているとはいえ、それだけでは説明できない活きのよさ。これまでの経験から、ドヴォルザークよりラヴェルのほうがゲルギエフに合うというのは理解できるが、それにしても…。

とにかく、やろうと思えばできるじゃないか!!

2010年4月10日土曜日

ブルネロ in St. Petersburg

  1. アントニオ・ヴィヴァルディ(ヨハン・セバスチャン・バッハ編):協奏曲ニ長調BWV972
  2. アントニオ・ヴィヴァルディ:チェロ・ソナタト短調RV42、イ短調RV43、変ロ長調RV46、イ短調RV44
  3. ジョヴァンニ・ソッリマ:スパシモ
マリオ・ブルネロ(チェロ)ほか
4月6日 マリインスキー・コンサートホール 19:00~

  1. ヨハン・セバスチャン・バッハ:無伴奏チェロ組曲第3番ハ長調BVW1009
  2. マックス・レーガー:無伴奏チェロ・ソナタ第2番ニ短調作品131
  3. ジュディス・ウィアー: Unlocked
  4. ヨハン・セバスチャン・バッハ:無伴奏チェロ組曲第6番ニ長調BWV1012
  5. ジョヴァンニ・ソッリマ:アローン
マリオ・ブルネロ(チェロ)
4月10日 マリインスキー・コンサートホール 19:00~


今、マリオ・ブルネロがペテルブルグに来ている。6日にアンサンブル、10日に無伴奏のコンサートを開き、13日にはゲルギエフ指揮のマリインスキー劇場管弦楽団をバックに、ドヴォルザークを演奏する予定。今そんなに時間的余裕がないので、2回のコンサートの感想をまとめて。

まず演奏とは基本的に関係ないことだが、観客の入りがあんまりよくない。半分強といったところか?彼のCDはロシアでは入手困難ので仕方ないかもしれないが、一番高くても400ルーブルの演奏会、東京だったら完売するのではないだろうか。

もう一つ演奏とは関係のない感想を書いておくと、舞台の真中にチェロ用の椅子が一つだけという光景は、絵になる。これだけで、何かこちらの感性に訴えかけるものがある。

さて肝心の演奏。レーガーを除けば、バロックと現代もの(ただしとても聞きやすい)から構成されている意欲的なプログラムだが、私は現代もののほうがいいと感じた。バロックものも、古楽奏法を上手く取り入れて洗練された演奏を聞かせてくれるが、今一つインパクトが弱い。その点、レーガーと現代ものでは、水を得た魚のように音楽が動きだす。ウィアーは、名前自体初めて知った作曲家だが、途中楽器の胴体を叩いたり、足踏みをしたりしながら、それだけにとどまらず、チェロを十分歌わせてくれる。レーガーも、単なるバッハの模倣にとどまらない音楽として聞かせてくれた。ソッリマについては、6日は自家薬籠中という感じだったが、10日の演奏はCDのに比べると、いささか荒削りだと思った。ライブとスタジオ録音の差だろうか?

13日のドヴォルザークは、どうなるだろうか。