- ヨーゼフ・ハイドン:交響曲第45番嬰ヘ短調「告別」
- アルフレード・シュニトケ:交響曲第1番
11月29日 フィルハーモニー大ホール 19:00~
ものすごくマニア受けしそうなプログラムである。もしこの2曲の共通点を即座に理解した人がいたら、相当なマニア。実は両曲とも、演奏家が演奏の最中に退場する。シュニトケの場合はそれにとどまらないが、まあそれはまた後で。指揮したのは、最近Northern FlowersからWartime Musicというシリーズを出しているアレクサンドル・ティトフ(これで何の事だか分かる人も、相当なマニア)。Wartime Musicといい今回のプログラムといい、この人、マニアックなプログラムが好きらしい。オケはフィルハーモニーの「第2オケ」である。
1曲目のハイドン。第一ヴァイオリン10人という大きめの編成で、一昔前のスタイルでの演奏。古楽奏法ほうが「疾風怒濤」という雰囲気が出て好きだが、中途半端にまねするよりはいいかも。それにこの曲はやっぱり終楽章で、演奏の最中なのに、団員が少しずつ去っていくのを目で確認するのが何よりも面白い。しかも今回はご丁寧にもロウソクを用意して、各団員の横で火を灯していた。奏法はともかく、この部分だけは忠実に再現したわけだ。ロウソクを吹きけすのは面白かったけど、ちょっと危ない「火遊び」ではなかろうか。フィルハーモニーは客席の出口が一つしかなく、いざ火事となれば大惨事は必至だからだ。
衝撃的だったのは、後半のシュニトケ。CDで聞いたことはあったけど、1時間切れ目なく続くノイズと無秩序な引用の嵐に耐えられなかった。しかし生で「見ると」面白い。
まず舞台上にオーケストラがいないのに、鐘が乱打され(鐘は要所要所で鳴らされる)、団員たちが駆けこんできて、てんでバラバラに弾きはじめる。最後に指揮者が登場し、曲が本格的に(?)スタート。あとは混沌の1時間。ベートーヴェンの引用があったり、ショスタコーヴィチ風のマーチになったり、ジャズを始めたり、壮麗にパイプ・オルガンが鳴りひびいたり。これらが猛烈な不協和音の中から浮かびあがってくる。オーケストラでやるノイズミュージックと言えばいいだろうか。視覚的にも面白く、途中で管楽器群が演奏しながら退場し、しばらくすると戻ってきた。そういえばシュニトケって、ヴァイオリン協奏曲第4番でも「視覚的カデンツァ」というのをソリストに要求してたっけ。最後のほうも、団員が次々と退場し、指揮者も出ていって、残ったヴァイオリニスト2人が、ハイドンの「告別」の引用を奏でる。これで終わりかというと、そうではなく、また鐘が乱打され、冒頭の再現。指揮者が再登場し、全オーケストラで和音を奏でたところで終わり。最後まで何が起こるか分からない。いや~凄い1時間だった。
こんなマニアックなプログラムなのに、客席はなぜかほぼ満席。なんで?ただやっぱりシュニトケはきつかったらしく、今回は演奏の最中に退席する人の姿が目立っ た。でも演奏終了直後に大きな拍手が起こったことを考えると、シュニトケのことを知っていて来た人も結構いるということか。シュニトケって、ロシア人の あいだでどの程度知られているのだろう。
「第2オケ」って、こちらに来てからあまりいい演奏を聞いたことがなかったので、期待していなかったのだが、今日は突然別のオケになったように生気があった。今日に限っては「第1オケ」よりもマリインスキーよりも良かったと言っていい。つまり、この街に住むようになってから聞いたロシアのオケのコンサートの中で、今日が一番楽しかったのだ。いつもの癖のある金管の音色も、シュニトケに関してはそんなに問題にならない。オケ全体の荒々しいパワーが、シュニトケと見事にマッチしていたし、それを統率していたティトフも見事だった。
シュニトケの交響曲第1番は、名作とは言えないかもしれないけど、「音楽とは何か?」と問いかけてくる問題作であることは確か。ソ連が生みだした音楽の極北だと思う。この曲に生で(しかも高い水準の演奏で)接することが出来たのは、一生ものの収穫。
「ロシアのクラシックはちょっと期待外れだった」と書いた翌日に、これだけ絶賛するのはおかしいかもしれないが、でも良いものは良いのだから、しょうがない。
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