2011年1月29日土曜日

タタールニコフのマーラー

  • グスタフ・マーラー:交響曲第7番ホ短調「夜の歌」
ミハイル・タタールニコフ指揮、サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団
1月29日 フィルハーモニー大ホール 19:00~

最近、あまり「これは!」という演奏会がなくて、おかげで本業に専念できたのだけど、久々に見つけた行きたいコンサート。実は同じ日に、カペラのほうでジャズ・ホルン奏者シルクローパーの演奏会もあって(なぜかぶる)、そちらも行きたかったのだけど、迷った末、タタールニコフに賭けることに。それぐらい、タタールニコフには期待している。マーラーの7番という難曲を振るだけに、余計期待した。

本当はこの演奏会、ニコライ・アレクセーエフが振るはずだったのだが、病気のため交代。でも1週間前には交代のアナウンスが出ていたような気がする。予習することを考えてだろうか。

アレクセーエフが振ったらどうなっていたか分からないけど、タタールニコフのマーラー、予想通りなかなか良かった。ところどころ事故が起こっていたし、今の時代、魅力的なマーラーがあふれているので、100点とはいかないが、80点はあげてもいい。全体としてはさっそうとしたテンポですっきりまとめたマーラーだった。フィルハーモニーのオケ、時々マーラーに慣れていないんじゃないかと思われるときもあるが、今日は違った。ちょっとファースト・トランペットが張り切りすぎていたような気がするけど、バリバリ鳴る金管や打楽器も、鋭い音色の木管も、マーラーにフィットしていた。指揮者がちゃんとスコアを読んできたからだと思う。

ほぼ1年前に聞いたゲルギエフの同曲の演奏も、それなりに満足したが、個人的にはタタールニコフのほうを推したいなあ。確かにゲルギエフのほうがベテランらしい器用さを感じるが、タタールニコフ&ペテルブルグ・フィルのほうが、よりストレートで新鮮だ。

2011年1月14日金曜日

テミルカーノフのブラームス

  1. ヨハネス・ブラームス:ピアノ協奏曲第2番変ロ長調 作品83
  2. 同上:交響曲第4番ホ短調 作品98
ユーリ・テミルカーノフ指揮、サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団、ネルソン・フレイレ(ピアノ)
1月11日 フィルハーモニー大ホール 19:00~

フレイレは昨年の4月にもゲルギエフと同じ曲をやっているので、聞きくらべになる。結果的には、4月のほうが印象がよかった。だがそれは、ホールの違いによるところが大きいかもしれないと思う(こないだも同じことを書いたような気がする…)。4月はホールの真中で、ピアノの音がよく聞こえる位置だったが、今回は端のほうで、オケやピアノの音がダイレクトに飛んでこないもどかしさを感じた。気のせいかもしれないけど。ただし3楽章のチェロソロは、今回も見事だった。

後半のブラ4は、やはり昨年4月に、同じオケで聞いている。指揮はティトフだった。その時は、なかなかロシアでは聞けないブラームスの交響曲をやっと聞けたという安心感を味わっていたら、時々ブラームスらしからぬ金管やティンパニが炸裂して夢から覚めてしまうということを繰り返していた。

今回は、より一層ブラームスらしさが後退。古楽奏法でもないのに、フレーズを短めにして歌わない。そこへティンパニがドッカンドッカン鳴り響く。何だこれは!? 思わず、宇野功芳が広めた有名なフレーズをもじって「テミルカーノフのブラームスなど聞きにいくほうが悪い」という文句が浮かんでくる。ロシアでまともなブラームスの交響曲の演奏を聞くことを望むのは、無理なのだろうか。

もう一回オネーギン

  • ピョートル・チャイコフスキー:歌劇「エフゲーニ・オネーギン」
ボリス・グルジン指揮、マリインスキー劇場管弦楽団&合唱団、アレクセイ・マルコフ(バリトン)ほか
1月10日 マリインスキー劇場 19:00~

「オネーギン」は1年半前に聞いているけど、その時は疲れていて、前半寝てしまった。というわけで再度見にいったが、う~ん、何というか。

チャイコフスキーのメロディーは素晴らしいし、物語としても、何といってもプーシキンの(つまりロシア文学の)最高峰だから、オペラとしては最高だと思うのだが、今回は演奏がダメ。まずオケのピッチがまるで揃っていない。マリインスキー劇場管弦楽団といっても、実態は様々だ。

歌手も、レンスキー役のセルゲイ・スコロホドフが風邪をひいていたらしく、第2幕の決闘前のアリアを、咳をしながら歌う始末。誰か代役はいなかったのだろうか?おかげで、何やら同情を誘うアリアになったが(この直後に死ぬし)。他の歌手はまあまあだったかな。

いつか「まともな」演奏で「オネーギン」を聞いてみたい。

2011年1月5日水曜日

コパチンスカヤ+モスクワ・アート・トリオ+ボレイコ+ベルンSO

  1. ゲオールギ・スヴィリドフ:「吹雪」よりトロイカ
  2. エフレム・ジンバリスト:オペラ「金鶏」に基づく幻想曲
  3. ピョートル・チャイコフスキー:組曲「くるみ割り人形」より花のワルツ
  4. 同上:ワルツ=スケルツォ
  5. ミハイル・アルぺリン:忘れられた客人のアリア
  6. 同上:序奏とウィーン変奏曲
  7. ニコライ・リムスキー=コルサコフ:交響組曲「シェヘラザード」
アンドレイ・ボレイコ指揮、ベルン交響楽団、パトリチア・コパチンスカヤ(ヴァイオリン)、モスクワ・アート・トリオ(ミハイル・アルぺリン、セルゲイ・スタロスチン、アルカージ・シルクローパー)
1月2日 カルチャー・カジノ(ベルン) 17:00~

正月休みを利用して聞きたかったのは、このコンサート。ロシアを去る前にもう一度コパチンスカヤに会いに行こうとは決めていたが、何と彼女に加えてモスクワ・アート・トリオまで出演する。これぞ夢の共演!!誰だ、こんな嬉しい企画を考えてくれたのは!?

前半は、コパチンスカヤとモスクワ・アート・トリオが主役。金鶏幻想曲はワックスマンやサラ=サーテのカルメン幻想曲をそのまま金鶏に置き換えたような曲で、超絶技巧で遊んでみせる曲。チャイコフスキーのワルツ=スケルツォでもそうだったが、コパチンスカヤはゲネラルパウゼでわざと音楽を止め、表情で遊んでみせる。この人、シリアスなパフォーマンスだけでなく、大道芸的な芝居もできる人だ。

前半最後の2曲は、モスクワ・アート・トリオのリーダー、アルペリンが書いた曲。単純なオーケストレーションと活躍するソリストの対比は、ショパンの協奏曲を聞いているようでもあり、執拗なワンパターンのリズムから民族色がにじみ出てくるあたりは、伊福部昭を思わせる。

しかし圧巻だったのはアンコール。シルクローパーの吹くアルペンホルンに合わせてコパチンスカヤが舞台裏から登場し(ベルン交響楽団の首席ベース奏者が後ろからついてきた)、みんなで丁々発止のやり取り。出た、夢の共演!!そう、コパチンスカヤは即興演奏もできるんだ。最初はモスクワ・アート・トリオに戸惑っていたようだった客席も、最後は湧いていた。

さて、前半を聞いた段階では、ボレイコとベルン交響楽団は伴奏という感じで、あまり冴えなかった。ところが休息後の「シェヘラザード」になると、「今度はおれたちが主役だ」とばかりに、さっきとは打って変わって目の覚めるのような音楽を奏でる。コンマス・ソロはそれほど上手くなかったが(というか、コパチンスカヤの後に弾くなんて…)、オーケストラとしての一体感は素晴らしい。第4楽章の難破の場面におけるカタルシスなど、オーケストラを聞く醍醐味だと思う。前半だけだと、ボレイコもベルン交響楽団も見くびるところだったが、後半で見なおした。それにしてもネルソンスといいボレイコといい、次々と「期待の新人」が出てくるから、この業界も大変だなと思う。

<余談>
日本人かどうかは分からないけど、チューリヒ・トーンハレといいベルン交響楽団といい、東アジア系の顔が多い。そういう時代なんだ。

2011年1月4日火曜日

チューリヒのジスベスターコンサート

  1. リヒャルト・シュトラウス:交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」
  2. 同上:Morgen!
  3. 同上:Zueignung
  4. 同上:歌劇「ばらの騎士」よりワルツ
  5. 同上:Ruhe, meine Seele
  6. 同上:Cacilie
  7. ヨハン・シュトラウス(息子):喜歌劇「こうもり」序曲
  8. 同上:ワルツ「美しく青きドナウ」
  9. ヨーゼフ・シュトラウス:ポルカ・フランセーズ「鍛冶屋のポルカ」
  10. ヨハン・シュトラウス(息子)ポルカ「雷鳴と電光」
  11. 同上:加速度円舞曲
  12. 同上:ポルカ「クラップフェンの森で」
  13. 同上:「こうもり」よりチャールダーシュ
  14. 同上:皇帝円舞曲
アンドリス・ネルソンス指揮、チューリヒ・トーンハレ管弦楽団、Kristine Opolais(ソプラノ)
12月31日 トーンハレ(チューリヒ) 19:00~

正月休みを利用して、スイスへ。ロシア国外に出るのは、もうこれが最後だろうけど。

指揮はバーミンガム市響の音楽監督に就任して注目を集めるネルソンス。1978年生まれというから、私とほとんど変わらない。

ジルベスターコンサートらしく、シュトラウスつながりで組まれたプログラムだけど、圧倒的によかったのは前半。特に「ティル」は、この指揮者の統率力が見事に発揮されていた。

ネルソンスはニコニコと笑顔を振りまきながら、指揮台の上で踊りまくるが、右手の指揮棒は常に明白に拍を出している。これで出てくる音がしょぼかったら白けるけど、彼の表情そのままのような音をオケも出す。リヒャルト・シュトラウスだから、これといって何か変わったことをしているわけではないが、オーケストラが気持ちいいぐらい鳴っていた。特に弦の音の厚みは、絶対にマリインスキーより上。

それに対して、ヨハン&ヨーゼフ・シュトラウスは、ウィンナ・ワルツの難しさを感じさせた。どうしてもウィーン・フィルの呪縛がちらつく(「こうもり」と「雷鳴と電光」では、クライバーの呪縛も)。「ばらの騎士」でも、これがウィーン・フィルだったという思いが頭をよぎったが、すぐに、そんなことをここで言ってもしょうがないよなあと思いなおした。だがヨハン・シュトラウスの一族となると、ウィーン・フィルの影を払しょくするのが大変だ。

そうはいっても、楽しい演奏だったことには違いない。ネルソンス、確かにいいかも。

<余談>
ネルソンスが使っていた「ティル」のスコアは確かにDoverだった。Doverってやっぱりバカにしてはいけないのかも。