2009年12月31日木曜日

結婚、星の王、エディプス王

  1. イーゴリ・ストラヴィンスキー:バレエ音楽「結婚」
  2. 同上:カンタータ「星の王」
  3. 同上:オペラ=オラトリオ「エディプス王」
ワレリー・ゲルギエフ指揮、マリインスキー劇場管弦楽団&合唱団ほか
12月31日 マリインスキー・コンサートホール 16:00~

もともと行く予定はなかったが、直前にプログラムをチェックして見ると、一度生で接してみたいと思っていた「結婚」が追加されている!!これは行かねばと即チケットを購入(ただし、一番安い席)。

16時開始の案内だったが、16時を過ぎてもリハーサルの音が聞こえている。往生際が悪いなあと思いつつ会場に入れるのを待っていたが、実際に舞台を見て納得。何本も設置されたマイク。どうやら録音するつもりらしい。そういえば昔、『レコード芸術』かなんかのインタビューで、ゲルギエフは「ストラヴィンスキーの「結婚」は好きな作品なので録音したい」と言ってたっけ。どうも今日演奏された3曲は、すべて録音されたようだ。ゲルギエフは2月にも、「兵士の物語」「きつね」「ピアノと管楽器のための協奏曲」というストラヴィンスキー・プロを振るつもりらしいが、それも録音してCDにするのだろう か。

ともかく、さすがに録音するだけあって、今日の演奏は昨日より音楽を丁寧に作っている様子がうかがえた。特に「結婚」はロシア語の発音を活かしたアクセントをつけたりして、ネイティヴの強みを生かしていた。ただ独唱陣は、合唱と器楽アンサンブルに埋もれがち。生で聞くと、ゲルギエフの指示が十分活きていないような気がしたが、CDで聞くとどうなっているだろう。打楽器群は相変わらず上手い。ピアノはもっと自己主張が強いほうが好みだが、これは普段聞いている演奏がバーンスタイン盤だから、ということもあろうだろう。なにしろバーンスタイン盤は、ピアノがアリゲリッチ、ツィマーマン、カツァリス、フランセシュという豪華メンバーだから。ゲルギエフのテンポ設定はバーンスタインに比べて早目。ちょっと急いてるような気もした。とまあ、細かい不満はあるものの、生でピアノ奏者4人と打楽器奏者7人、それに独唱者、混声合唱という特異な編成のアンサンブルを見るのは楽しかった。

「星の王」はCDでも聞いたことがない、正真正銘、初めて聞く曲。4管編成のくせに、ほとんど静かで、すぐに終わってしまう不思議な曲。何も知らずに聞くと、ストラヴィンスキーとは分からないかも。でも面白い曲だと思った。「エディプス王」は、同じ独奏者で11月にも聞いたことがあるが、その時は舞台形式だった。今回はコンサート形式だけあって、独奏者も歌のほうに専念できたためか、全体的に11月より完成度が高かったように思う。といっても、(いつものことだが)聞いていて熱くなったとか、そういうわけではないのだが。

2009年12月30日水曜日

ゲルギエフとW.ホワイトの「ファウストの劫罰」

  • エクトル・ベルリオーズ:劇的物語「ファウストの劫罰」
ワレリー・ゲルギエフ指揮、マリインスキー劇場管弦楽団&合唱団、ウィラード・ホワイト(バス・バリトン)ほか
12月30日 マリンスキー・コンサートホール 19:00~

行こうかどうしようか迷ったけれど、年末はたぶん時間があるだろうし、「ファウストの劫罰」もそう簡単に実演では聞けないだろうから、というわけでチケットを買ってしまった。

年末年始のゲルギエフのスケジュールはほとんど異常で、12月19日から1月5日まで、12月21日、22日、1月1日を除いて、毎日マリインスキーのオケを指揮している。しかも曲目が大作ぞろいで、ムソルグスキーの「ホヴァンシチナ」を皮切りに、マーラーの交響曲の1~5番だとか、ベルリオーズの「トロイ人」「ファウストの劫罰」だとか、R.シュトラウスの「影のない女」「エレクトラ」だとか…。この人、影武者が(2人ぐらい)いるのじゃないだろうかと思いたくなる。少なくとも、十分なリハーサルをしている時間などないはずで、今日も練り上げられた演奏にはならないだろうと思っていたが、案の定、予想通りだった。

いくら団員数が多いとはいえ、これだけのハードスケジュールの中、ベルリオーズのスコアをちゃんと音にしてみせるゲルギエフとマリインスキーの技術力は見事だと思う。でもいつものことながら、そこで終わり。たとえば第3部の終わりなど、実に熱狂的というか、演奏次第によっては狂乱の音楽になるはずだが、今日は聞いていてまるで熱くなれなかった。あるいは第4部の地獄落ちの場面では迫力のあるサウンドを聞かせてくれたが、その前のファウストとメフィストフェレスの騎行の緊張感が今一つだったため、いくらパワーがあっても唐突感が否めない。最後の合唱も、もっと美しくできるのでは、という気がする。だってここは「天使の合唱」でしょ?

独唱者の中では、ウィーランド・ホワイトが見事。もともと、ホワイトが歌うというのがウリのコンサートだったが、その宣伝はうそではなかった。まさしく板についた海千山千のメフィストフェレスで、聞いていて楽しかった。これだったら、27日にあった彼のソロ・リサイタルに行ったほうが良かったかも。それに比べると、ファウスト(ダニール・シュトダ)は声量がイマイチで、完全にメフィストフェレスに圧され気味。メフィストフェレスの手玉に取られたあげく、地獄に落とされるのもむべなるかなという感じである。むしろマルグリート役のエカチェリーナ・セメンチュークのほうが、立派な歌声を披露していた。歌い方が、いささかオペラチックにすぎるような気がしたが、ここら辺は好き好きだろう。

2009年12月25日金曜日

ボロディン四重奏団の現在

  1. ニコライ・ミャスコフスキー:弦楽四重奏曲第13番イ短調
  2. ヨーゼフ・ハイドン:弦楽四重奏曲第42番ニ長調
  3. ピョートル・チャイコフスキー:弦楽四重奏曲第2番ヘ長調
  4. 同上:アンダンテ・カンタービレ(アンコール)
ボロディン四重奏団
12月24日 フィルハーモニー小ホール 19:00~


ボロディン四重奏団と言えばソ連時代にロシアものの演奏でその名を世界に轟かせた団体であり、中でもショスタコーヴィチの全集の録音は、今やほとんど聖書扱いのような気がする。ただ今では古参のチェリスト、ベルリンスキーも亡くなってしまった。全盛期の勢いを取りもどすのは無理かもしれない。そうは言っても、聞いてもいないのに「ボロディン四重奏団は落ちたよね」などとしたり顔で話すのもおかしな話である。チケットも安かったし(200ルーブル)、聞きにいくことに。

よくある話だが、大して期待もせずに聞きにいくと、これが意外と良かったりする。今回もそう。往年の峻厳な雰囲気は求められないかもしれないが、でもやっぱりこの人たち上手い。特に面白かったのが、最初のミャスコフスキー。ミャスコフスキーについては、コンドラシン指揮の交響曲第6番のCDを持っているが、あまりピンとこなくて、他の曲は聞いていなかった。だが最後の弦楽四重奏曲は、もちろん初めて聞く曲だが、隠れた名曲ではないか思った。晩年のブラームスをモダンな感じにしたらこうなる、と言えばいいだろうか。もう一度聞きたいと思い、演奏会終了後、ソ連時代に録音されたタネーエフ四重奏団のCDを買ってかえったが、ボロディン四重奏団のほうが曲の20世紀的な側面というか、立体感を上手く描いていたと思う。ボロディン四重奏団の演奏で聞けば、この曲が好きになる人も増えるのではないだろうか。

残りのハイドンとチャイコフスキーも悪くはなかったが、やはりミャスコフスキーが大きな発見だった。あとは、アンコールのアンダンテ・カンタービレが、早めのテンポで一見あっさりしているようながら、でも実はしっかり歌っていて気にいった。

驚いたのは、小ホールなのに客が半分も入っていなかったこと。確かにプログラムはかなり渋いが…。ロシアでも、ボロディン四重奏団は過去のものなのだろうか。

2009年12月20日日曜日

ムソルグスキーの美しさ~オペラ「ホヴァンシチナ」

  • モデスト・ムソルグスキー:歌劇「ホヴァンシチナ」
ワレリー・ゲルギエフ指揮、マリインスキー劇場管弦楽団&合唱団、オリガ・ボロディナほか
12月19日 マリンスキー劇場 18:00~


ゲルギエフの指揮ってもうあんまり期待できないなあ、でも「ホヴァンシチナ」は興味あるなあと迷った末、知人のロシア人(彼もあまりゲルギエフのことを評価していない)に意見を求めたところ、「『ホヴァンシチナ』は美しいオペラだからぜひ聞きなさい」と強く勧められた。別のロシア人もやはり、「ホヴァンシチナ」はとても美しいオペラよ、と言っていた。じゃあ、聞かないわけにはいかない。

でも実は、もともとムソルグスキーってそんなに得意な作曲家ではなく、代表作の「展覧会の絵」と「はげ山の一夜」を時々聞く程度だった。したがってムソルグスキーの曲が「美しい」と言われても、ピンとこなかった。この人はむしろ、ストラヴィンスキーを先取りしたような破天荒さがウリだと思っていたのである。

実際に聞いてみて、確かに美しいと思った。でもチャイコフスキーのような甘い美しさではなく、むしろ対照的なぐらい、純朴な感じである。これはこれで、「ロシア的」と言えるかもしれない。また衣装がとても綺麗だったうえ、第1幕では本物の白馬まで登場。視覚的にも楽しめた。

しかしストーリーをちゃんと予習せずに、この長丁場のオペラにつきあうのはきつかったなあ。午後6時過ぎに始まって、2回の休憩をはさみ、終わったのが11時頃だから。美しい部分が多いのは確かだが、逆に言うと「はげ山」よろしく劇的に盛りあがる個所が少ないのである。ストーリーをちゃんと追わないと、単調に聞こえる。おまけにまだ時差ボケが残っていたらしく、17日に続き客席で激しい睡魔に襲われた。もっといい体調で臨めば、もっといろいろな発見があったかも。

演奏は、いつもの通りちゃんと鳴っていたものの、それ以上のものではない。トランペット奏者とか、ピットで退屈そうに出番を待っているのが丸見えだった。歌手や合唱は総じて上出来だったように思う。

2009年12月19日土曜日

シュペリング&ヘルシンキ・フィルのメサイア

  • G.F.ヘンデル(W.A.モーツァルト編):オラトリオ「メサイア」
アンドレアス・シュペリング指揮、ヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団、ドミナンテ合唱団ほか
12月17日 フィンランディア・ホール(ヘルシンキ) 19:00~

日本に一時帰国してロシアに戻る際、せっかくなのでヘルシンキに寄ってコンサートを聞きにいった。シュペリングの指揮で、モーツァルト編のメサイアを聞けるというのがポイント。この指揮者、メンデルスゾーン版のマタイ受難曲とか、補筆前の未完の断片をそのまま収録したモーツァルトのレクイエムとか、マニアックなCDをいろいろ出している人である。

会場に入ってみると、録音でもするのかマイクが多く立っている。メサイアは2年前に札幌で、鈴木雅明指揮のBCJで聞いたことがあるけど、あの時はオーケストラも合唱団も、驚くほど小編成。チェロなんて2人しかいな かった。でも今回はチェロだけで3プルトあったし、合唱団は両翼に目一杯広がっている。編成は、通常のオーケストラと変わらない。でも案の定、ビブラートはほとんどかけず、響はとてもスッキリ。合唱団はベーレンライターと思しき楽譜を手にしていた。シュペリングの指揮は結構明快で、分かりやすい。前のほうの席に座っていたが、時々シュペリングが合唱団と一緒に歌っているのが聞こえた。

正直なところ、クラリネットの響きにちょっと違和感を覚えたものの(ストラヴィンスキーが新古典主義期に、しばしばクラリネットを除いた作品を書いたのが分かる気がした。バロックにクラリネットはやはり違和感がある)、全体的にはとてもいい明るい演奏だった。現代オーケストラならではの迫力もあって、BCJの時より楽しめた。残念だったのは、長旅と時差ボケのせいで、途中から睡魔との闘いになってしまったこと。ああ、せっかくの名演がもったいない…。今回の演奏会、CDにしてくれないかなあ。シュペリングが実力のある指揮者らしいというのは分かったので、今度は万全の体調で臨みたい。

2009年12月9日水曜日

リュビモフのシューベルト~教え子とのピアノ・デュオ

  1. フランツ・シューベルト:性格的行進曲第2番 ハ長調
  2. 同上:即興曲第2番変 イ長調、同第4番 ヘ短調(リュビモフのソロ)
  3. 同上:アレグロ イ短調「人生の嵐」
  4. 同上:華麗なるロンド イ長調
  5. 同上:舞曲集(グロツのソロ)
  6. 同上:ハンガリー風ディヴェルティメント ト短調
  7. 同上:性格的行進曲第2番 ハ長調
アレクセイ・リュビモフ、アレクセイ・グロツ(ピアノ)
12月8日 フィルハーモニー小ホール 19:00~


シューベルトって気にはなるのだが、今のところやや縁遠い存在である。彼が書きまくったリートという形式に、あまり馴染んでいないせいだと思う。でもこの人が晩年の弦楽四重奏とかで見せる暗さは気になる。それに、ベリオ、ツェエンダーといった現代の作曲家たちがシューベルトの作品を基にした作品を残している。また以前、前衛ピアニスト向井山朋子のコンサートを聞きに行った時、彼女もシューベルトの即興曲と街の「ノイズ」を組みあわせるというパフォーマンスを行っていた。最先端の実験を行っている音楽家を惹きつける何かが、シューベルトにはあるらしい。

今日の演奏家、アレクセイ・リュビモフも、ロシアで最も早くシェーンベルクを手掛けた人。70年代に彼が録音したシェーンベルクのCDを持っているが、切れ味のいい名演だと思う。ただそれだけでなく、この人はちゃんとモーツァルトのピアノ・ソナタ全集とかも録音している。もう一人のグロツという人は知らなかったが、まだ21歳という若手。モスクワ音楽院で、リュビモフにも師事しているらしい。いわば師弟の協演といったところか。グロツがリュビモフに位負けするかと思ったが、決してそんなことはなく、結構渡りあっていた。

どれもこれも聞いたことのない曲ばかりなので、曲と演奏に対する感想がごちゃ混ぜになっているが(シューベルトをほとんど聞いていないということが、よく分かる)、印象に残ったのは「人生の嵐」とディヴェルティメント。「人生の嵐」って、何かの交響曲の楽章ではないかと思うほど、響がシンフォニック。誰か管弦楽に編曲してほしい。でも演奏が一番充実していたのはディヴェルティメント。明らかに演奏者の集中力が最高潮。ディヴェルティメントとはいえ、哀愁を感じさせる曲であり、演奏だった。

最後に、アンコールのリストの曲を聞いていた際、ふと「次はドビュッシーのピアノ曲を生で聞きたいな」と思った。最近やっと、生のピアノの音の魅力が分かりだしたような気がする。

2009年12月4日金曜日

チェロで聞くヴァイオリン・ソナタ~クニャーゼフのリサイタル

  1. ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第4番イ短調
  2. 同上:ヴァイオリン・ソナタ第5番ヘ長調「春」
  3. セザール・フランク:ヴァイオリン・ソナタイ長調
アレクサンドル・クニャーゼフ(チェロ)、エカチェリーナ・スカナヴィ(ピアノ)
12月4日 フィルハーモニー小ホール 19:00~


アレクサンドル・クニャーゼフと言えば、日本では、緩急の差を極端につけたバッハの無伴奏組曲全曲のCDを出したことで、有名になった人である。ロシア出身の中堅若手のチェリストの中では、最も世界的に活躍しているのではないだろうか。しかし今回のプログラムには少し驚いた。全部ヴァイオリン・ソナタの編曲で固めているのだから。フランクはまだしも、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタのチェロ版なんて、あること自体初めて知った。ベートーヴェンは立派なチェロ・ソナタを5曲も書いているのに。

でも今回聞いてみて、何も知らなければ、最初からチェロのために書かれた曲だと思ってしまうだろうという感想をもった。「春」の出だしの有名な主題を除けば原曲を全く聞いていないということもあるだろうけど、チェロの曲として違和感は全くない。確かに、チェロには難しそうな早いパッセージが時々出てくるが、むしろそういうところこそ腕の見せ所とばかりに、クニャーゼフは見事に弾ききる。こんな編曲があるのなら、もっと演奏されてもいいのに。でも確かに、CDにしても売れないかも。

しかし、そうやって新たな発見をもたらしてくれた割には、クニャーゼフの演奏にいまひとつのめりこめなかった。以前同じ会場で聞いたマイスキーの場合は、「美音」「歌心」という実に分かりやすい長所をもっていて、聞き惚れることができたのだが、クニャーゼフの場合、特徴がつかみにくい。せっかくヴァイオリン・ソナタをチェロで弾くのだから、ヴァイオリンに出来ないぐらい、思いっきり朗々と歌ってほしいと思ったのだが、そこまで徹底しているわけでもない。ただそういう誘惑を感じさせる瞬間が、時々訪れたのである。

プログラムが変わっているからなのか、クニャーゼフの名はロシア国内ではあまり知られていないのか、400席ほどの小さい会場にも関わらず、客席はあまり埋まっていなかった。半分強と言ったところで、(日本での感覚からすれば)このクラスの演奏家としては明らかに少ないと思う。