- ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第4番イ短調
- 同上:ヴァイオリン・ソナタ第5番ヘ長調「春」
- セザール・フランク:ヴァイオリン・ソナタイ長調
12月4日 フィルハーモニー小ホール 19:00~
アレクサンドル・クニャーゼフと言えば、日本では、緩急の差を極端につけたバッハの無伴奏組曲全曲のCDを出したことで、有名になった人である。ロシア出身の中堅若手のチェリストの中では、最も世界的に活躍しているのではないだろうか。しかし今回のプログラムには少し驚いた。全部ヴァイオリン・ソナタの編曲で固めているのだから。フランクはまだしも、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタのチェロ版なんて、あること自体初めて知った。ベートーヴェンは立派なチェロ・ソナタを5曲も書いているのに。
でも今回聞いてみて、何も知らなければ、最初からチェロのために書かれた曲だと思ってしまうだろうという感想をもった。「春」の出だしの有名な主題を除けば原曲を全く聞いていないということもあるだろうけど、チェロの曲として違和感は全くない。確かに、チェロには難しそうな早いパッセージが時々出てくるが、むしろそういうところこそ腕の見せ所とばかりに、クニャーゼフは見事に弾ききる。こんな編曲があるのなら、もっと演奏されてもいいのに。でも確かに、CDにしても売れないかも。
しかし、そうやって新たな発見をもたらしてくれた割には、クニャーゼフの演奏にいまひとつのめりこめなかった。以前同じ会場で聞いたマイスキーの場合は、「美音」「歌心」という実に分かりやすい長所をもっていて、聞き惚れることができたのだが、クニャーゼフの場合、特徴がつかみにくい。せっかくヴァイオリン・ソナタをチェロで弾くのだから、ヴァイオリンに出来ないぐらい、思いっきり朗々と歌ってほしいと思ったのだが、そこまで徹底しているわけでもない。ただそういう誘惑を感じさせる瞬間が、時々訪れたのである。
プログラムが変わっているからなのか、クニャーゼフの名はロシア国内ではあまり知られていないのか、400席ほどの小さい会場にも関わらず、客席はあまり埋まっていなかった。半分強と言ったところで、(日本での感覚からすれば)このクラスの演奏家としては明らかに少ないと思う。
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