2009年6月5日金曜日

ティーレマンとミュンヘン・フィルのブルックナー

アントン・ブルックナー 交響曲第8番ハ短調

クリスティアン・ティーレマン指揮、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

6月1日、マリインスキー劇場コンサートホール 20:00~

5年ほど前まで、ブルックナーは意味不明な作曲家だった。なんであんな冗長な曲に、みんな熱狂できるのか、よくわからなかった。しばしば比較されるマーラーのほうが、ずっと好きだったし、マーラーのほうに親近感を覚えるという状況は、今に至るまで変わっていない。

それでもブルックナーが聞けるようになったのは、ロリン・マゼール指揮ベルリン・フィルによる、ブルックナーの交響曲第8番のCDを聞いてからだ。宇野功芳の言う「身を浸す」という感覚が、ようやくわかった気がした(もっとも宇野功芳は、マゼールのブルックナーなど認めないだろうけど)。新しい言語を取得したような感覚だった。今回のコンサートは、ブルックナーを聞けるようになって初めて聞く、生のブルックナーだった。そしてティーレマンの指揮も、初めて目にした。嬉々としてブルックナーのコンサートに出かけるなど、数年前まで考えられなかったことだ。

結果は、凄かった、としか言いようがない。圧倒的なパワーを誇る金管とティンパニ、3楽章で見せた、熱いチェロ。でもうこうして並べていっても、何も表現できていないと思う。むしろ、ティーレマンの曖昧な振り方(たぶん意図的なのだろうが)のせいもあって、ところどころアンサンブルが乱れていた。録音で聴くと、そうしたミスのほうが目立ってしまうかもしれない。にもかかわらず、当日は押し寄せる音の洪水に、すっかり心が満たされてしまった。

でももしかしたら、一番忘れがたいのは、演奏終了直後かもしれないと思う。一瞬間があって拍手が始まったが、ティーレマンが固まったまま動かないので、すぐに静かになった。そしてそのまま会場全体が、静まり返ってしまった。10秒ほど経ってからだろうか、誰かが「ブラボー」と言って、それをきっかけにどっと拍手が起こったが、あの間の静粛は忘れがたい。ブルックナーの8番のラスト、轟音をとどろかせた後だけに(1時間半も演奏してきて…。一体ミュンヘン・フィルの人たちは、どれだけパワーがあるのだろう)、あの沈黙、余韻は本当に深いものがあった。あの沈黙のために、1時間半の演奏があったのかもしれないとさえ思う。

0 件のコメント: