ピョートル・チャイコフスキー ヴァイオリン協奏曲ニ長調
同上 交響曲第6番ロ短調「悲愴」
同上 組曲「くるみ割り人形」より「花のワルツ」(アンコール)
宮城敬雄指揮 サンクト・ペテルブルグ交響楽団、マリーナ・ヤコヴレヴァ(ヴァイオリン)
6月20日 フィルハーモニー大ホール 19:00~
最初、プログラムを見たときは「ユキ・ミヤギ」と書いてあり、「はて、そんな女性指揮者いたかな?」と思ってしまったが、宮城敬雄(ユキオ)氏のことだった。会社社長という立場から、50歳を過ぎて夢を実現させたということで有名な宮城氏。演奏を聞くのはこれが初めて。オーケストラは「もうひとつの」サンクト・ペテルブルグ交響楽団(ムラヴィンスキーやテミルカーノフで有名なほうは、「サンクト・ペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団」と訳すらしい。こちらに来て初めて知った)で、オール・チャイコフスキー・プロ。どんな演奏を聞かせてくれるのだろうかと思ったが、一言で言うと非常に「まじめな演奏」。
最初はヴァイオリン協奏曲。ソリストの要求か指揮者の要求か分からないが、序奏部からしてゆっくり。オーケストラもソリストも、一音一音を丁寧に鳴らそうとする。それはいいのだが、ソリストの音程の不安定さがいささか目立ってしまう。こういうのを聞くと、2週間前に聞いた諏訪内晶子は上手かったなと思ってしまう。ただ時々、歌い方がつぼにはまる時があり、カデンツァなどは面白かった。音程も、曲が進むにつれて安定してきたように思う。
次の「悲愴」も、一音一音を生真面目なほど丁寧に鳴らしていこうとする姿勢は変わらない。チャイコフスキーを弾きなれているであろうロシアのオケから、こうした姿勢を引きだすのは案外難しいのではないか。素人くさい朴訥さはあるが、それがまた魅力でもある。指揮者がどうしたいのか、はっきりと伝わってくる。これはこれでいいのではないか…、などと考えていたら、第一楽章の中間部で金管が思いっきり他とずれて、崩壊寸前!なんとか立てなおしたものの、肝を冷やした。その後も同じ感じで演奏が進むが、第3楽章の最後が決まらず、崩壊気味。でもその直後に拍手が…。
全体の終了後も拍手喝さいで、ご丁寧にもアンコールで「花のワルツ」を演奏。こちらは気楽な感じ。「悲愴」の前からハープが用意されていたので、最初から演奏するつもりだったのだろう。
宮城氏の指揮は打点を明確に出すもので、素人の目には分かりやすい指揮に見える。一方、今月聞いてきたゲルギエフ、テミルカーノフ、ティーレマンの指揮は、必ずしもそうではない。特にティーレマンは、斜め上からその指揮姿を眺めていたが、よくあれでアンサンブルが揃うなあと思う指揮ぶりだった。もちろん、時々少し乱れるのだが、今回のように致命的になる可能性は感じられない。ブルックナーの交響曲第8番、第3楽章の頂点でシンバルが鳴るが、私がシンバル奏者でティーレマンの指揮だったら、絶対に叩きそこなうと思った。実際にはもちろん見事なシンバルが鳴ったのだが、オーケストラのアンサンブルの妙を感じた。
それ以外にも、フルトヴェングラー、カラヤン、朝比奈隆等々、有名な指揮者の「分かりにくい」例はキリがない。「良い指揮」とは一体何なのか?指揮者の役割やアンサンブルの作り方、名演の条件について、いろいろ考えさせられた演奏会だった。
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