2009年6月8日月曜日

ゲルギエフによるロシアオペラ二本立て―「アレコ」と「イオランタ」

セルゲイ・ラフマニノフ 歌劇「アレコ」

ピョートル・チャイコフスキー 歌劇「イオランタ」

ワレリー・ゲルギエフ指揮 マリインスキー劇場管弦楽団&合唱団

6月7日 マリインスキー劇場 19:00~

どちらも初めて聞くロシアのオペラ2本。そもそもこの二作品、(たぶん世界的に見ても)めったに上演されない。というのも、両方ともオペラとして短すぎるからだ。「アレコ」のほうは1時間、「イオランタ」のほうは1時間40分である。ただプログラムによると、この二作品を同時に取り上げたのには単に短いということ以上に、対照的な女性像を浮かび上がらせる狙いもあったらしい。

「アレコ」のあらすじは、ロマの集団で暮らすアレコという男性(彼自身はロマではない)が、前から付き合っていたロマの恋人ゼムフィーラに捨てられ、怒ってゼムフィーラとその恋人を殺してしまうというもの。いわば、「カルメン」の後半だけを取り上げたような感じ。ただしこちらのほうは、「カルメン」と違って、最後はロマたちにも捨てられる男の孤独が浮かび上がるようになっている。モスクワ音楽院の卒業作品で、なんと19歳だか20歳のときに書いたらしい。音楽は、見せ場となるアリアもちゃんと用意されているものの、後年のラフマニノフ特有の、ねっとりした濃厚なロマンティシズムはまだそれほど顔を見せていない。むしろ中間部の踊りの音楽など、グリーグの「ペール・ギュント」のように響く。ゲルギエフの指揮ですら、そうなのだ。

逆に「イオランタ」は、盲目の王女様が愛に目覚めて目が見えるようになるという話であり、「くるみ割り人形」と同時上演されることを想定して書かれたというだけあって、チャイコフスキー節満載、聴きどころのアリアも多い。序奏ではまず管楽合奏、そのあとは弦楽とハープのみのアンサンブルに移り、そこから徐々に楽器が増えていくなど、オーケストレーションも冴えている。以前ゲルギエフが振った「イオランタ」のCDが出た時、『レコード芸術』で「この素晴らしい作品が演奏されないのは、中途半端な演奏時間のためだとしか考えられない」という評が載っていたのを、今でも覚えているが(10年以上も前のことだ)、確かにそのような評価も納得である。いつか、「くるみ割り人形」と一緒に見てみたい。演奏時間だけで3時間ぐらいかかるけど、ワーグナーに比べれば大したことではない。きっとその間、チャイコフスキーのメルヘンの世界に遊べるはずだ。

「イオランタ」に比べると、さすがに「アレコ」は分が悪いが、事実上の処女作と円熟期の作品なのだから、しょうがない。むしろラフマニノフが、その後ちゃんと自分の個性を確立していったことを、評価するべきだろう。

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