2010年4月15日木曜日

未知との遭遇~カレトニコフのオペラ「使徒パウロの神秘劇」

  • ニコライ・カレトニコフ:歌劇「使徒パウロの神秘劇」
パーヴェル・ペトレンコ指揮、マリインスキー劇場管弦楽団&合唱団ほか
4月14日 マリインスキー・コンサートホール 19:00~

名前すら全く知らなかった作曲家の、(当然)初めて聞くオペラ。ウィキペディアで調べてみると、新ウィーン楽派の影響を受けたカレトニコフの作風は、ソ連当局の意向にそぐわなかったため、生前はずいぶんと冷遇されたらしい。マニアの性として、こういう知られざる作品はどうしても聞きたくなる。ポスターには、ウルトラマンに出てくる怪獣(あるいは、ゲゲゲの鬼太郎に出てくる妖怪)みたいな奇妙なコスチュームがたくさん描かれていて、これも興味を引いた。

こんなオペラ、誰も見に来るまいと高を括っていたら、なぜかチケットの売れ行きが非常にいい。当日も、満席とはいかないまでも、かなりそれに近い状態。

しかも、演出がまた力が入っている。でも残念ながら、それを表す筆力は今の私にはない。ストーリーの概要は、古代ローマにおける使徒パウロとネロの物語であり、ローマの大火を口実にしてパウロを死罪にしたネロも、最後は帝国全土の反乱のために自害に追いこまれる。パウロがモノローグで、キリストの愛を説いたりして(コリント人への手紙からの引用らしい)、要は信仰の重要性を説く内容であり、ソ連時代にこの作品を書いた意図をあれこれ推測してしまう(おそらく誰もが抱くのが、ローマ帝国ってソ連の隠喩?という疑問)。

演出に話を戻すと、ものすごくモダンで派手な演出であり、バルタン星人が舞台に出てきても、違和感がなかったと思う。そういえば、「21世紀少年」(原作も映画も読んでいないし、見ていませんが)の目玉みたいなのも舞台上にあった。今日の演出家は、きっと日本の映画や漫画が好きに違いないと、勝手に思っていた。これに比べれば、こないだ見た「トリスタンとイゾルデ」の舞台など、実にシンプル。

でもどこか、今年の初めに見た「魅せられた旅人」の舞台に似ているなあと思ったら、実は同じ演出家だった。「魅せられた旅人」の舞台は簡素、今回はド派手と、一見対照的だが、合唱を舞台後方の客席に置いたり(しかもこれまた奇妙な衣装を着ている)、あるいはダンサーの使い方などが、よく似ていたりする。

かなりお金をかけた演出であり、マリインスキーが力を入れていることが窺われる。面白かったが、でも、なんでこんなに力を入れているのだろうと、疑問が残った。一番高い席で400ルーブルだったが、それでは元手が取れるわけがない。どこからか補助金が出ているはずだが…。

さて音楽のほうだが、これがまたびっくり。シェーンベルクそっくりの響きがする。たぶん12音技法ではないだろうか。しかし70年代から80年代に、こんなにシェーンベルクの技法を忠実になぞった音楽を書いていたのは、世界中でもカレトニコフぐらいでは?生前、ソ連で受け入れられなかったのは分かるが、同時に、西側ではアナクロニズムの音楽だったのではないだろうか。

ただ、いつどこで書かれたという問題をいったん脇に置いて耳を澄ませば、これはこれで聞きごたえのある力作ではないかと思った。1時間半、起伏に富んでいて面白い。残念ながら、オーケストラがまだ作曲者の語法を消化しきれておらず、その点では不満が残ったが。今後、さらに質の高い演奏で聞く機会があればいいと思う。

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