2010年12月27日月曜日

「美女と野獣の対話」

  1. エクトル・ベルリオーズ:幻想交響曲 作品14
  2. モーリス・ラヴェル:ピアノ協奏曲ト長調
  3. 同上:ラ・ヴァルス
ワレリー・ゲルギエフ指揮、マリインスキー劇場管弦楽団、エレーヌ・グリモー(ピアノ)
12月26日 マリンスキー・コンサートホール 20:00~

本当は5月に来るはずだったエレーヌ・グリモーだが、その時は急病でキャンセル。ガックリきたのだが、何と年末に来てくれることに。エライ!!今度こそキャンセルしませんようにと願いつつ、チケットを購入した。

ところがグリモーがラヴェルの協奏曲を弾くということ以外、いつまで経ってもプログラムが発表されない。そして当日の昼になって、やっと上記のプログラムが発表された。オイオイ、いきなりベルリオーズの幻想かよと思いつつ、会場に足を運んで(ゲルギエフの演奏会ではよくあることだが)またビックリ。前半で幻想をやって後半にピアノ協奏曲とラ・ヴァルス。だんだん曲が短くなっていくなんて、聞いたことない。ゲルギエフは何を考えているのだろう?でも聞き終わってみると、確かにこの曲順は正解だったと思う。

まずは幻想。ゲルギエフのベルリオーズというと、1年前に聞いた「ファウストの劫罰」があまり良くなかったので、大して期待していなかったのだが、意外にも名演だった。第1楽章、第2楽章は特に良くもなく悪くもなくという感じだったが、第3楽章の中間部からエンジンがかかりはじめて、第4楽章、第5楽章は迫力ある演奏を聞かせてくれた。今までのこのコンビだと、音は鳴っていてもそれだけで、どこか白けてしまうのだが、今日の演奏に関してはゲルギエフの頭の中に明確な曲のイメージがあり、それがオーケストラを通じてこちらに伝わってきた。こないだのチョン・ミョンフンよりも良かった気がする。私の中で、ゲルギエフの株が少し上昇。

しかし今日の主役は、やっぱりグリモーだった。半分ミーハーなノリで、あの美貌を生で拝みたくて行ったのだが、見た目だけでなく(もちろん生で見ても大変な美人でしたが)、演奏そのものに完全にノックアウトされてしまった。

彼女の生演奏の感想を一言で述べると「怖い」。CDを聞いているときは気がつかなかったけど、彼女は演奏中、かなりハァハァ息を切らしながら演奏する。その没入度たるや、凄まじいの一言(そうやって曲に没入している様が、また絵になるのだが)。この人、演奏が終わったら倒れこんでしまうのだはないかと思ったほど。

そしてピアノがよく鳴る。出だしから一気に引きつけられた。単に音がでかいのではなく、ものすごい集中力で自分の世界を構築し、聴衆をそこに引きづり込んでしまう。その点では、6月に聞いたユンディ・リと同じである。しかも時々演奏中に、何かが閃いたのではないかと思える瞬間があった。ジャズのようなノリで、音がきらめく。彼女はこの曲を数えきれないくらい弾いているはずなのに、まったくマンネリ化していない。

白眉は第2楽章前半のソロ。ラヴェル屈指の美しいメロディーで個人的に大好きだけど、グリモーの演奏で聞くととても悲しく、不安になった。そうだ、この曲は見た目の華麗さとは裏腹に、とても寂しい音楽なのだと思う。グリモーの読みは眼光紙背に徹しすぎるぐらい徹して、ラヴェルが華やかさの背後に隠した孤独感を暴きだしたのだ。

おかげで、ゲルギエフとオケがどんな音を出していたのか、よく覚えていない。ソリストがこんなにオケを圧倒してしまうのも珍しい。何と怖いピアニストだろう!!それにグリモーは、本番中のインスピレーションを大切にして、リハーサルでの約束はあまり守らなさそうな気がする。聞いていてそんな印象を受けた。指揮者としては、やりづらい相手ではないだろうか。でもその分、聞いているほうはスリリングだ。

熱烈な聴衆の拍手にこたえて、2曲もアンコールを弾いてくれた。何の曲か分からないけど(ショパン?)、それもとても良かった。彼女が舞台裏に引っ込んだときは、こっちまでヘトヘト。もうお腹いっぱい。今日、ゲルギエフが幻想を前半に回したのは、グリモーの存在感を恐れたからではないかと邪推してしまった。

しかしまだラ・ヴァルスが残っていた。さすがにグリモーのあとだと分が悪いのだが、決して悪くはなかった。オケの鳴りっぷりが気持ちいい。4月に聞いた時も良かったし、やっぱりラ・ヴァルスはゲルギエフに合っていると思う。でもこの意見に賛同する人、日本にどの程度いるだろう。

何がともあれゲルギエフのコンサートとしては、今年の初めに聞いたシチェドリンの「魅せられた旅人」と並んで、満足度が高かった。

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