2010年12月19日日曜日

ペテルブルグでトゥランガリラ

  • オリヴィエ・メシアン:トゥランガリラ交響曲
ニコライ・アレクセーエフ指揮 サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団、フランソワ・ワイゲル(ピアノ)、トマ・ブロック(オンド・マルトノ)
12月19日 フィルハーモニー大ホール 20:00~

高校の時に出会って以来、愛聴している交響曲。そもそもこの曲を機に、本格的に「現代音楽」の世界へ足を踏み入れたような気がする。若きブーレーズから「売春宿の音楽」とけなされたらしいけど、メシアンの作品の中では抜群の親しみやすさ、カッコよさをほこっている。もともとロックバンドでキーボードを弾いていた原田節が、この曲に出会ってオンド・マルトノに開眼し、転向したように、この曲はプログレ系の人にインスピレーションを与える力も持っている。クラシックという枠にとらわれずに聞いたほうがいいかもしれない。

最近ではこの曲もだいぶ取りあげられる機会も増え、録音数も増えてきた。私自身、生で聞くのは2回目。前回は、2008年にPMFで取りあげられた際に聞きにいった。指揮は準メルクル、ピエール・ローラン・エマールのピアノに原田節のオンド・マルトノ、コンマスにライナー・キュッヒルという豪華メンバー。しかもこの日は、前半に細川俊夫をやるというハードなプログラム。臨時編成のユースオケにもかかわらず、ここまで仕上げてくるかという見事なアンサンブルの整いようだったが、楽しめたかというと、ちょっと微妙。アンサンブルを整えるのに精いっぱいで、その先を表現できていないという感じだった。余談だが、後日、北海道新聞に載ったコンサート評の書き手が、この曲のことを何も理解していなくて、ムッとした記憶がある。

さて、ペテルブルグ・フィルは得手不得手がはっきりしているオーケストラだ。ショスタコーヴィチなどでは日本のオーケストラが及びもつかないようなパワーを見せつけるが、慣れていない曲ではボロボロになる。メシアンなんて、もちろん慣れていない。開演前に譜面台を覗いてみたが、ピカピカの楽譜が置いてあった。そして出だしから金管と弦がずれ気味で、大丈夫かなと思いつつ聞いていたが、確かに結構危なかった。第5楽章の中間部でトランペットが思いっきり脱落したり、終楽章の前半で危うく崩壊しかけたり。CDにしたら、おそらく聞くに堪えないだろう。演奏の完成度は、かつてラジオで聞いたデュトワ&N響やチョン・ミョンフン&東フィルのほうが、絶対に上。

おまけにピアノのワイゲルが、風邪を引いているらしく、しきりに咳をする、鼻水が出てくる。見ていて、大丈夫かこの人と思った。気難しいアーティストなら、キャンセルしたのではないだろうか(ちなみに今日のピアノとオンド・マルトノのコンビは、NAXOSから出ている同曲のCDで演奏している)。

と書くと、なんかとんでもない演奏会だったみたいだけど、これが結構楽しかったのだから、音楽って不思議。少なくとも、PMFの時よりは楽しめた。ワイゲルも、遠くから見ていれば、おそらく風邪を引いていることに気がつかなかっただろう。見ている分には危うかったけど、音はきっちり出していた。

そして今日のMVPは、指揮者のアレクセーエフ。眉間にしわを寄せながら弾いているオーケストラに、一生懸命指示を出しまくって必死にまとめていた。複雑極まりない80分間の大曲を、よく勉強していた。立派だ。彼のおかげで、聞きごたえのある演奏になったような気がする。

確かにリズムが入り組んでくると、オーケストラが混乱してくるが、逆にある程度リズムが整理されてくると、オーケストラの持っている底力が生きてきた。このオケの得手不得手がはっきり見えたような気がした。

第5楽章の後、いったん休息。私の隣に座っていたお兄ちゃんは退屈したらしく、休憩時間に帰ってしまったが、一方でその時間に「気にいった」と話している人たちの声も聞こえた。そしてもちろん、オンド・マルトノを見るために前のほうへ人が群がっていた。しかし今日のオンド・マルトノには、ハイワットの普通のスピーカーがつながれていたが、あれでもいいのだろうか?

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