2010年12月24日金曜日

クレーメルの問い

  1. 楽器の技法~ヨハン・セバスチャン・バッハとグレン・グールドへのオマージュ
  2. 新譜「深き淵より」よりシャルクシュニーテ、ペルト、ナイマン、ペレシス、ピアソラの作品
ギドン・クレーメル&クレメラータ・バルティカ
12月23日 フィルハーモニー大ホール 20:00~

  • フィルハーモニー動物園、あるいはアンデルセンの童話「ナイチンゲール」に基づく音楽物語:9歳から99歳のお子様のためのコンサート
リカ・クレーメル(朗読)、ギドン・クレーメル(ヴァイオリン)、クレメラータ・バルティカのメンバー
12月24日 フィルハーモニー小ホール 17:00~

クリスマスの季節に、2日連続でクレーメル&クレメラータ・バルティカのコンサート。こういうコンサートを聞くと、プロデューサとしてのクレーメルの能力に舌を巻く。でもだからといって、ヴァイオリニストとしてのクレーメルがダメだと言っているのではない。確かに80年代、90年代の切れ味は衰えたかもしれないけど、相変わらず一流のプレイヤーだと思う。ただそれ以上に今回感じたのは、この人のクラシック音楽の聞き方、演奏の仕方、コンサートのあり方を不断に問い直そうとする姿勢である。そもそもこの人は、クラシック音楽というジャンルをどのように捉えているのだろう?

私がクレーメルという人に興味を覚えだしたのは、「ピアソラへのオマージュ」を聞いてからだった。あれでピアソラと同時にクレーメルにも興味を覚えて、クレーメルのCDを集めるようになった。10年前、クレーメルとクレメラータ・バルティカがピアソラとヴィヴァルディの四季を組みあわせたCDを出したときは、実家の近くに彼らが来たので聞きにいった。とっても楽しかったコンサートだった。さすがに、あの時チェロのトップに座っていたマルタ・スドラヴァなどはもういない。

ただピアソラにしても、ジャンルを超えるというよりは、あくまでもクラシックの音楽家がピアソラを取りあげるとこうなるという印象が強かった。だが今回、特に第1夜のコンサートを聞きながら、通常のクラシック音楽とも違うかもしれない、という思いを抱いた。

前半はバッハの平均律クラヴィーア曲集などの曲を、クレメラータ・バルティカの編成に合わせて編曲し、切れ目なく演奏したもの。最後の、グールドの演奏するゴールドベルク変奏曲(晩年の録音)に合わせてクレーメルらが演奏するのが、印象に残った。後半は先ごろノンサッチから発売された「深き淵より」から5曲を演奏。しかしこのCD、日本では「ミハイル・ホドルコフスキーらに捧ぐ」ということになっているのだが、いいのかロシアで演奏して、と思ってしまう。もちろん、クレーメル自身によるプログラム解説を読んでも、ホドルコフスキーのことなんてどこにも書いていない。尤もそんなことが書けたら、ホドルコフスキーに捧げる必要もなくなってしまうだろうけど。ただ、プーチンに目の敵にされているということで、ペルトやクレーメルからホドルコフスキーが自由の闘士のように扱われているのも皮肉な気がする。

さて、こんなことを言ったらクレーメルは不本意かもしれないが、初日は「ヒーリング・ミュージック」に近い印象を受けた。もちろん単なる癒し系ではない。時々クレーメル好みの「汚い音」が聞こえてきて、普通のアダージョ系のクラシックとも違う。実は、クレーメルらが作りだす音楽を捉える適当なアンテナが自分の中に見つからなくて、戸惑ってしまったというのが正直な感想。でもアンコール(おしゃべりのような合唱)は楽しかった。

だが2日目は文句なし。やっぱりこの人のプロデュース力は半端ではない。アンデルセンの童話「ナイチンゲール」をベースに、サン=サーンスの「動物の謝肉祭」、メシュヴィツの「動物の祈り」、リドーの「フェルディナンド」、R. コルサコフの「くまんばちの飛行」、バッハの「平均律クラヴィーア曲集」などを適宜織り込んでいく。リカ・クレーメル(クレーメルの娘?)以外にも、出演者全員がユーモアたっぷりにいろいろ喋って面白い。演奏は、いつものように特殊奏法を多用。もちろん会場の子どもは大喜びだったけど、大人が聞いても十分楽しかった。決して「子どもだまし」ではない、これぞ音楽!!ベートーヴェンの協奏曲などで聞かせてくれる過激なカデンツァも、子どもと一緒に音楽を楽しむ遊び心があってこそ、生まれてくるものなのかもしれない。

2日目の終演後、クレーメルのCDとエッセイを持って恐る恐る楽屋を訪ねてみたが、にこやかにサインしてくれた。他のファンとは一緒に写真に映ったりして、仕事のあとなのによくファンサービスをやるなあと思った次第。その後、楽屋を出たところで私の好きなロシアのジャズ・ベース奏者、ウラジーミル・ヴォルコフ氏とバッタリ鉢合わせ。彼も来ていたのか。ちょっとビックリした。

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