2010年6月16日水曜日

ドゥダメル&シモン・ボリバル・ユースO in St. Petersburg

  1. イノセンテ・カレーニョ:マルガリテーニャ (交響的変奏曲)
  2. アルベルト・ヒナステラ:バレエ「エスタンシア」から舞曲 作品8
  3. ピョートル・チャイコフスキー:交響曲第4番ヘ短調 作品36
グスターボ・ドゥダメル指揮、シモン・ボリバル・ユース・オーケストラ・オブ・ベネズエラ
6月15日 マリインスキー・コンサートホール 20:00~


近年最も注目を浴びている指揮者、グスターボ・ドゥダメルと彼の手兵、SMYOV のペテルブルグ公演。この前に、モスクワでも演奏している。

実を言うと、ドゥダメルについては半信半疑だった。ラトル、アバド、バレンボイムという名だたる指揮者が彼のことを絶賛する割には、今一つ彼の演奏を聞いてピンとこなかったのである。具体的にはラジオで、デビュー盤であるベートーヴェンと、もう一つ「フィエスタ」というCDから数曲を耳にした程度なのだが、評判の割には、それほどいいとは思わなかった。特に「フィエスタ」に関しては、いかにも「ラテンの血」的なノリを聞かせてくれるかと思ったら、予想に反して意外と冷静な演奏だったような記憶がある。でも生で聞いたら感動するかもしれない。そのように期待半分、不安半分だった。

聞いた結果は「とても良かった」。これなら、なるほど、名だたる指揮者が誉めるのも分かる気がする。でもその魅力を言葉で伝えようとすると、なかなかいい表現が見つからず、困ってしまう。確かに若者らしい、元気のいい演奏なのだが、それだけではない。「ラテン」だとか「若さ」という言葉だけで片付けてしまうのはもったいないし、ラトルらが絶賛するのも、それだけではないからだろう。

私がふと思い出したのは、日本の高校における吹奏楽。中でも淀川工業高校とか天理とか、「お前ら本当に高校生か!!」と叫びたくなるような、高水準の演奏を聞かせてくれる学校がある。あの雰囲気に似ていないだろうか。いわばベネズエラの淀工吹奏楽部?

オーケストラは、率直に言ってそれほど上手いわけではない。グスタフ・マーラー・ユーゲント・オーケストラとかPMFのオケのような、名だたる一流オケに引けを取らないようなユース・オケとは違って、奏者一人一人の技量はそれほど大したことないのは、ソロを聞けば明らか。また弦楽器については、楽器の構え方や弓の使い方を見ていれば、大体見当がつく。でもだからと言って、、ソロに危なっかさしさは感じない。つまり、マリインスキーのようにワンフレーズ吹いただけで「うわ、上手 い!」と感嘆させるほどではないのだが、ちゃんと聞けるレベルには十分達している。

オケはかなりの大編成。チャイコフスキーで、チューバを除き完全な倍管。トランペット4はまだしも、ホルン8、トロンボーン6というのには驚いた。弦楽器もチェロだけで16人。普通、ここまで奏者を増やしてしまうと、誰かが足を引っ張って音が濁ってしまうのだが、トゥッティの部分でもとても見通しがいい。いろんなパートの音が聞こえてくる。ベルリン・フィルのような名手の集団ではないはずなのに。

思ったのは、ドゥダメルという指揮者、とにかく耳がいいということ。楽器間のバランスを取るのはものすごく上手いし、細かいフレーズもちゃんと弾かせている。特にラテンものの2曲で顕著なのだが、バティスのようにいかにも「ラテンのノリ」という演奏ではなく、むしろ色彩豊かな近代オーケストラの名曲として聞かせてくれる。これは前述のように、「フィエスタ」でも感じていたこと。

この「プロ未満、アマ以上」の技量、どこか「青い」のだけど、でも元気のいい演奏、それでいて洗練された響というのは、私には毎年普門館に来て金賞を持って帰る、恐ろしく上手い高校の吹奏楽部を想起させる。アンコールは彼らの十八番、「ウェストサイド・ストーリー」の「マンボ」と、再びヒナステラの「エスタンシア」より「マランボ」だったが、ここで見せてくれたスタンドプレイも吹奏楽ではそれほど珍しいものではない。

理屈はどうであれ、会場はもちろん熱狂して、最後はスタンディング・オベーション。先日のソウル・フィルの時の観客の拍手もすごかったけど、今日のはさらにその上を行く。わずか5日の間に、2つのオーケストラを通じて、世界の広さとクラシック音楽の普及ぶりを実感した。

<追記>
ベネズエラからの来たと思しきスタッフたちが、会場のあちこちでカメラを回していた。DVDでも作るの?休憩時間、そのうちの一人の女性がなにか珍しいものでも写すようにして、客席にレンズを向けて写真を一生懸命取っているので、何だろうと思って見てみると、何とスーツを着たゲルギエフが客席で老人と話している。スーツ姿のゲルギエフなんて初めて見た。相手の老人は誰だかわからないけど、どうもゲルギエフは、ホールの説明をしているらしい。確かにこのホール、いい音がするものなあ。先日のソウル・フィルのティンパニ奏者も素晴らしいホールだと言っていたし、チョン・ミョンフンもアンコールの前に、「素晴らしいホールだ」と言っていた。

帰宅後、もしやと思って調べてみると、あの老人はやっぱりこのオケの生みの親、ホセ・アントニオ・アブレウだった。それでゲルギエフはあんなにかしこまっていたのか。

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