2010年1月29日金曜日

ハ短調のベートーヴェンとモーツァルト

  1. ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン:「コリオラン」序曲
  2. 同上:ピアノ協奏曲第3番ハ短調
  3. ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト:幻想曲ハ短調
  4. 同上:ピアノ協奏曲第24番ハ短調

アンドラーシュ・シフ指揮&ピアノ、カペラ・アンドレア・バルカ

1月25日 ウィーン楽友協会大ホール 19:30~

とうとう足を踏みいれてしまった、ウィーン楽友協会の大ホール。さすがにホールに入るときは少し緊張。入るときのみならず、演奏の最中もずっと緊張していたような気がする。というのも、今回座ったのは舞台の端に設置された席。音響が多少劣るであろうことを承知の上でこの席を押さえたのは、ひとえにあの舞台に立ってみたかったから。会場を見渡しつつ、おのぼりさん気分で感慨に浸る。おかげで、演奏そのものよりもシフが頑張って弾き振りしている光景のほうが印象に残っているが、とりあえずコンサートの印象を記してみる。

今回のプログラム、かなり凝っている。演奏の最中に気がついたが(遅すぎ!?)、全部ハ短調で統一されているのだ。開演前から舞台の中央にピアノが置かれていたので、「あれ、最初は「コリオラン」のはずなのに。配置替えの時間がもったいないのかな」などと考えていたのだが、そんなお手軽な理由ではなくて、「コリオラン」からアタッカでピアノ協奏曲第3番に入ったのである。両曲ともハ短調なので、全く違和感はない。見事なアイディアである。楽章間もほとんど間髪入れず次に進む。後半も同じ。シフとしては、前半も後半もそれぞれ1つの曲として提示したかったようで、その意図はかなり成功していたように思う。

「コリオラン」はもう少し迫力が欲しいと思ったが、この点は別の席で聴けば、問題なかったかもしれない。続くピアノ協奏曲第3番では、さすがにピアニストとして多くの名指揮者と共演してきただけに、シフが曲をはっきりと把握している感じで、ピアノのみならずオーケストラのバランス感覚も見事だった。

ソリスト出身の指揮者って、割合きっちりと拍を出す傾向があるようなイメージが個人的にあるが、シフの場合、むしろその点は意外とアバウト。「コリオラン」冒頭の和音も、棒が振り下ろされてから音が出るまでに、独特の間が生じている。アンサンブルを整えることよりも、インスピレーションを与えることを重視しているというべきか。瞬間的には、ときどきアバドっぽい表情を見せる。ただしコンマス任せにしているわけでもなく、協奏曲で両手がふさがっている時も、一生懸命眼で指揮をしている。あるいは、右手でトリルをしながら、左手で指示を出したり。舞台上の席を選んだおかげで、シフの八面六臂の活躍ぶりを楽しめた。

それ以外に、コンサートに行って気がついたこと。

  • 観光シーズンとも思えないのに、日本人が多い。もちろん、東洋系の観客の中には中国人や韓国人も混じっているのだろうが(一度だけ韓国語の会話が聞こえてきた)、日本語が聞こえてくる頻度がマリインスキーでは考えられないくらい高い。ドイツ語圏在住の日本人が、ロシアに比べてずっと多いせいか。
  • 最後の音が鳴りひびいてから、拍手が鳴るまでに一瞬の絶妙の間がある。ロシアでは、こうした間が生じるコンサートが実に少ない。ロシアの聴衆にも見習ってほしいのだが、期待するだけ無駄か。
  • 演奏会終了後、クロークにみんな押しかけて、誰も並ぼうとせず、我先に番号札を差しだすのにはちょっと驚いた。ロシア人はソ連時代に鍛えられているせいか(?)、クロークでちゃんと並ぶ。拍手の問題とは逆に、この点はロシアのほうがマナーがいいのではないかと感じた。

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