- ヴャチェスラフ・クルグリク:交響曲(世界初演)
- セルゲイ・スロニムスキー:交響曲第21番「ゲートのファウストより」(世界初演)
- ボリス・ティシチェンコ:バレエ音楽「12」
ワレリー・ゲルギエフ指揮、マリインスキー劇場管弦楽団、オレシャ・ペトロヴァ(メゾ・ソプラノ)
1月17日 マリインスキー・コンサートホール 20:00~大学生の頃、大阪のいずみホールで聞いた細川俊夫の演奏会に行って「現代音楽」に開眼してしまった。あの「ギギギ」とか「ドカン」とか鳴るノイズのような世界にである。大阪に住んでいたころは、いずみホールで行われる現代音楽のシリーズによく通ったし、NHK-FMの「現代の音楽」もよく聞いていた。
もちろん、現代ロシアの作曲家の作品が細川俊夫とは全然違うことは承知しているが、それでも「世界初演」と聞くと、行きたくなってしまうのである。大体、現代ロシアの作曲家の作品って、こないだのシチェドリンを除けばあまり聞いていないので、ちゃんと耳を傾けるいい機会だと思った。確かに結論から言うと、全体として、技巧的には初期のルトスワフスキかリゲティを思わせるような作品だった。でも「前衛の終焉」ということはずいぶん前から言われており、日本でも吉松隆のような人が活躍していることを考えると、こうしたロシアの作曲家の作風を「時代遅れ」と断じるわけにもいかないだろう。
最初のクルグリクは、1977年生まれ。若い。しかも今日演奏された交響曲が書かれたのは2000年だそうなので、23歳ごろの作品ということになる。2楽章構成で、アレグロとラルゲットと書いてある。最初、トランペットとフルートの変な掛け合いから始まって、そのうちだんだん盛り上がってくる。第2楽章は静かな音楽で、途中から2台のハープに乗ってフルートの(時々クラリネットが絡まる)長いソロが始まる。古代ギリシアの音楽をイメージしているそうで、ドビュッシーのシランクスあたりに似た雰囲気。ここが全曲の白眉か。ただしその後、ヴァイオリンの静かなトレモロがあってすぐに終わってしまう。なんだか尻切れトンボな気が…。後続楽章を書きたす気はないのだろうか?未完の遺作ですと言われると、信じてしまいそうな気がする。
スロニムスキーは、1932年生まれというベテランだけあって、管弦楽の扱いが上手い。オーケストラの各パートがバランス良く鳴る。作曲されたのは昨年。3楽章構成で、第1楽章が「ファウスト」、第2楽章が「マルガリートの歌」、第3楽章が「ワルプルギスの夜」と名づけられており、第2楽章にはメゾ・ソプラノの独唱が入る。独唱者の顔、なんか見覚えがあるなあと思っていたら、神尾真由子がチャイコフスキー・コンクールで優勝した際、女声部門で第2位になった人だった。見た目そのままのふくよかな声を出す人である。しかし驚いたのは、音楽の「分かりやすさ」。第2楽章なんて、ラブ・ロマンス系の映画音楽に使えそうである。と言っても、安っぽいわけではない。その一歩手前でとどまっている。この第2楽章がいいと思った。
最後のティシチェンコは、ショスタコーヴィチの弟子にして、今やロシア作曲界の代表的人物。「12」というのは、ロシアの詩人アレクサンドル・ブロークの同名の詩をもとにしたバレエらしい。1963年に作曲されて、同年キーロフ劇場(現マリインスキー)で初演されたというから、マリインスキーゆかりの作品と言える。しかし、こんな巨大な編成のバレエ音楽を書いていいのかと思うぐらいの大オーケストラ。完全4管編成に加え、ホルン6、トランペット4、トロンボーン4、チューバ2、ピアノ、チェレスタ、パイプ・オルガン、打楽器奏者はティンパニを除いて6人。おまけに4台のバヤンまで入る。そのくせ、バヤンの出番はあまりないし。ただ師匠譲りというのか、音楽は起伏に富んでいて、作品としての完成度は今日演奏された3作の中で一番高いと思った。時々ショスタコーヴィチっぽいリズムや響きが出てくるけど、全体としてはより複雑。24歳ごろの作品のはずだが、そう考えると早熟な人だと言える。
ゲルギエフは、この手の作品を綺麗に整えて聞かせるのが上手い。でもさすがに今日は、客の入りが悪かった。この演奏会、実は「新しい地平線」という現代音楽シリーズの開幕である。どう考えても採算が合うシリーズだとは思えないが、未来への投資だと思って続けてほしい。こういう催しに関しては、マリインスキーを応援したくなる。普段、採算の合わない「研究」という世界に浸かっているだけに、余計そう思うのかも。