2009年10月16日金曜日

マリインスキー劇場で聞くブリテンのオペラ―「ねじの回転」

ベンジャミン・ブリテン 歌劇「ねじの回転」
パヴェル・スメルコフ指揮、マリインスキー劇場管弦楽団ほか
10月13日 マリインスキー劇場 19:00~


私の好きな曲に、三善晃作曲の「響紋~オーケストラと児童合唱のための」というのがある。12分ほどの曲で、「かごめかごめ」を歌う児童合唱の上に、不協和音をかき鳴らすオーケストラがかぶさる曲だ。ここで歌われる「かごめかごめ」は、あたかも幽霊の歌声のように聞こえる。曲のテーマが「死者の呼びかけに対する生者の応答」だけれども、そこで「かごめかごめ」を使うという発想が炯眼だと思う。

なんでこんなことを書いているのかというと、子どもというのは、実は「あの世」に近い存在なのかなと思うことがあるからだ。今回見た、ブリテンのオペラ「ねじの回転」も、やっぱり「あの世」と交信する子どもの話ではなかったか。

原作はヘンリー・ジェイムズの有名な小説だけれども、恥ずかしながら未読(原作についてはこちら)。原作では出たかどうかはっきりしない幽霊は、オペラでは明確に登場する。むしろ、幽霊2人と生きている大人2人が、姉と弟の子ども2人を取りあう話だと言っていい。ブリテンが、原作と違って、幽霊2人をはっきりと登場させたのは、舞台化の都合上というより、生と死のあいだで引きさかれる子どもを描きたかったからではないか。もちろん大した根拠があるわけではないけれど、今回初めて「ねじの回転」を見て思ったのは、そういうこと。

歌手も全部で上記の6人しか登場しないが、その中では姉役のラリサ・エリーナが秀逸だった。まだティーンエージャ―だと思われるが、実によく通る声で見事だった。後半など、長女の出番はまだかなと楽しみにしていたほど。今後の成長が楽しみ。ほかには、執事の幽霊役のアンドレイ・イリュシニコフがピーター・ピアーズを思わせる声で、ブリテンの世界にピッタリであり良かった。歌手は総じて、いささか発音の明晰さは欠いていたかもしれないが、ブリテンの世界は上手く描けていたのではないかと思う。

このオペラ、室内オペラと言われるぐらい演奏者が少なくて、オーケストラの奏者が17人+指揮者。当然ソロが多いわけだけど、さすがにここのオケは上手い。

問題は観客。空席が目立ったのはしょうがないにしても、全曲の最後で最後のピチカートが鳴る前に拍手が始まってしまい、最後の音が聞こえなかった。指揮者が振りおわるまで待とうよ…。

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