2010年3月5日金曜日

C. フリードリヒの「帆船にて」を見にいく

1月のオーストリア旅行の際に読んだ吉田秀和『音楽の旅・絵の旅』(中公文庫、1979年)の中でもひときわ印象深かったのが、カスパール・フリードリヒの絵画「帆船にて」をめぐる考察だったが、こないだ本屋で何気なく観光ガイドを見ていたら、この絵が現在エルミタージュにあることに気がついた。早速、見にいく。

一見すると、何の変哲もない絵である。エルミタージュは展示している絵画の数が膨大なので、最初からこの絵に目標を定めておかないと、うっかり通りすぎてしまうかもしれない。ついでに言うと、これはロシアの美術館ではよくある話だが、光の当て方にもう少し工夫が欲しい。夕方に行ったせいもあるかもしれないが、思いっきり日差しがさしこんでいて、他のフリードリヒの絵ともども陰影が浮かびあがってこない。しかし何がともあれ、絵の前にしばらく立ちつくしてしまった。

吉田秀和が指摘するように、船の微妙な傾きがこちらに船酔いの感覚を呼びおこすのも確かだが、もう一つ印象に残ったのは(そして吉田秀和が触れていないのは)、空が実に陰影に富んでいるということである。ある意味、人や船よりもよく描けていないだろうか。私の場合、この立体感に富んだ夕焼け(?)の雲に、なぜか不安を呼びおこされた。それこそ、展示室の光の加減の問題かもしれないが。

フリードリヒの絵は、大自然の中に人がポツンとたたずんでいる構図が多いが、この人の場合、本当に描きたかったのは、自然そのものよりも、ここに描かれていないもの、可視化できないものではないだろうか。つまり形而下のものを通じて、形而上のものを描いた画家…。ただし信仰心を持たない私には、形而上のものとは、すなわち宗教的なものより、むしろ己のちっぽさから来るさまざまな俗っぽい「不安」と結びつく。

帰宅後、フリードリヒの絵に合う音楽って、どんなのだろうと考えてみた。フリードリヒの絵は、しばしばCDのジャケットに使われている。いま思いついたのは、第一にメンデルスゾーンの交響曲第3番「スコットランド」、第二にシューベルトの短調系の作品(いわゆる未完成交響曲とか)が似合うのではないかということ。

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