2010年3月26日金曜日

コパチンスカヤ in Helsinki

  1. ヨルグ・ウィドマン:コン・ブリオ(フィンランド初演)
  2. アーノルド・シェーンベルク:ヴァイオリン協奏曲
  3. クロード・ドビュッシー(コリン・マシューズ編):5つの前奏曲
  4. モーリス・ラヴェル:ボレロ
イラン・ヴォルコフ指揮、フィンランド放送交響楽団、パトリチア・コパチンスカヤ(ヴァイオリン)
3月24日 フィンランディアホール 19:00~


コパチンスカヤを聞きにヘルシンキへ。ペテルブルグからだと1時間のフライトで着いてしまう。パスポート・コントロールがあるとはいえ、時間的には国内線の感覚。

1曲目はヨルグ・ウィドマンという、1973年生まれのドイツの作曲家(兼クラリネット奏者)の作品。「コン・ブリオ」というのはベートーヴェンの作品によくある表記だけれども、ミュンヘン・フィルからの委嘱で、ベートーヴェンの交響曲第7番、8番と並べて演奏するために書かれたそうだ。初演は2008年9月、マリス・ヤンソンスの指揮で。

冒頭から、なんか聞き覚えのある響が頻出する。ベリオのシンフォニアに似た感覚で、混沌とした中にベートーヴェンからの引用がちりばめられている、全部で15分ほどの作品。でも実を言うと、それほど好きなタイプの曲ではない(ベリオのシンフォニアは好きだが)。ただし演奏は見事で、ヴォルコフは明晰なタクトで曲をさばいていた。まるで斎藤秀雄の門下生のよう。

次のシェーンベルクでもヴォルコフは見事に指示を出していく。この人は、複雑な曲ほど持ち味を発揮する人のようだ。お目当てのコパチンスカヤともども、シェーンベルクが「音楽」になっている。最近よく指摘されるように、シェーンベルクの頭の中って実は結構保守的な部分があるのだというのが、よくわかった。

そうは言っても難曲であることには変わりはなく(コパチンスカヤがいうにはmiraculous difficult)、特になんですか、あのヴァイオリンのソロパートは!!聞いていて何度かのけぞってしまい、演奏が終わった時には思わずフ~と息を吐いた。別にソロが危うかったとか、そういうことではなく、逆に余裕を持って楽譜を「音楽」にしていく様に圧倒されっぱなしだったのだ。

休憩時間にコパチンスカヤの楽屋にお邪魔したら、彼女はピンピンしていて、何人かの人と談笑していた。元気だ、この人。彼女の父親も見えている。彼女からコンサート後のディナーに誘われたので、「はい」と即答。

後半はまず、ドビュッシーの有名な2つの前奏曲集から、「ヴィーノの門」「月の光が降りそそぐテラス」「野を渡る風」「沈める寺」「花火」をオーケストラ用に編曲したもの。だがドビュッシーらしい響になるには、もう一歩というのが正直な感想。おそらく編曲よりは、演奏する側がまだ消化しきれていないのではないかという印象を持った。楽器と楽器の音色がぶつかった際の「化学反応」から生まれる独特の「香り」が、まだ足りない。「海」や「牧神」のように慣れている曲なら、結果は違っただろうが、とにかくドビュッシーは難しい。

最後は「ボレロ」だが、ドビュッシーの延長で、熱狂よりは色彩感を大切にした演奏。ソロも多少のミスはあったが、全体的に危なげない。14分か15分ほどの中庸のテンポだったが、明らかに熱を帯びてきたのは10分過ぎほどからではなかっただろうか。よく考えてみれば、「ボレロ」を生で聴くのはこれが初めてだったかも。

終演は9時10分ごろ。その後ディナーに同席させてもらったが、11時過ぎまでコパチンスカヤとヴォルコフは元気よく談笑していた。コパチンスカヤは翌朝9時の飛行機、ヴォルコフに至っては7時半の飛行機で発つだとか。音楽的才能は無理でも、せめてこのヴァイタリティだけでも見習いたいものだが…。

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