- オレ・オルセン:トロンボーン協奏曲 作品42(世界初演)
- エドワルド・グリーグ:ピアノ協奏曲イ短調 作品16
- クリスチャン・リンドバーグ:コンドルの峡谷(トロンボーンと金管五重奏のための)
- ピョートル・チャイコフスキー:交響曲第5番ホ短調 作品64
11月26日 マリインスキー・コンサートホール 20:00~
アークティックとは「北極の」ということ。要は「北極フィルハーモニー管弦楽団」。ウラジオストクには「太平洋交響楽団」という大層な名前のオーケストラがあるが(ただし技量は日本のアマオケ以下)、負けず劣らず凄い名前だ。しかも指揮者に「トロンボーンのパガニーニ」の異名を取るクリスチャン・リンドバーグを迎えている。
このオケ、2009年にできたばかりの新しいオーケストラ。もちろん一から作ったわけではなく、いくつかの室内管弦楽団や、軍楽隊のメンバーから成り立っている。面白いことに、管楽器の奏者の半分近くは軍楽隊の制服を着ていた。
このコンサート、お目当てはリンドバーグだったものの、終わってみればなんだか視覚的印象が強くて、音そのものは実のところあまり覚えていない。
オケの団員はみんな黒っぽい服を着ているのに対し、リンドバーグは一人だけ、アロハシャツの一歩手前のような派手なシャツに、足のラインがよく分かるぴっちりした黒いズボンをはいて出てきた。しかも笑いながら走って出てくるものだから、今からクラシックではなく、ラテンジャズでも始めるのかというような雰囲気。
トロンボーンに革命をもたらしただけのことはあって、細かいパッセージもきっちり吹きこなすが、最初のうちは、高音域がやや詰まり気味。全盛期は過ぎたか?彼の本領が発揮されていたのは、オルセンの協奏曲(この曲、1886年に書かれて埋もれていたのを、今になって初演したらしい)よりも、自作自演のほうだと思う。さすがに自分の名人芸を誇示するために作っただけのことはあって、よい意味での曲芸的な愉しさがあった。マリインスキーの金管五重奏も見事。パガニーニもショパンもリストも、もともと自分の名人芸を聞かせるために作曲していたのであって、こういう作曲のあり方こそ「正しい」のかもしれない。
しかし「吹き振り」の最中も、グリーグの伴奏を振っている最中も、なんか変だなあと思っていたのだが、休憩時間に気がついた。何のことはない、リンドバーグは左利きなのだ。それでトロンボーンを右手に持って、左手で指示を出す。あるいは指揮棒を左手で持つ。それでなんだか違和感があったのだ。ちなみにその振り方は、なんだか手旗信号みたいで、ちょっとおかしかった。自分でもまだまだ研究したいらしく、自分で舞台の後ろにビデオカメラを設置して、自分の指揮姿を映していた。
演奏そのものは、奇をてらうことのない、正攻法なものかなあと。逆に言うと、ちょっとインパクトに欠けるきらいがある。オーケストラともども、今後どこまで成長するか未知数。
コンサートのプログラムの中に、The Northern Lights Festival という、ノルウェーのトロムセー(トロムソ)で1月末から2月初めにかけて開かれる音楽祭のチラシが入っていた。真冬の北極圏で行われる音楽祭というのに、ちょっと惹かれるのだが。