2010年4月29日木曜日

ショスタコーヴィチとブラームスを並べて聞くと

  1. ドミートリ・ショスタコーヴィチ:ピアノ協奏曲第2番ヘ長調作品102
  2. 同上:ピアノ協奏曲第1番ハ短調作品35
  3. ヨハネス・ブラームス:交響曲第4番ホ短調作品98
アレクサンドル・ティトフ指揮、サンクト・ペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団、アレクサンドル・マルコヴィチ(ピアノ)、ヴャチェスラフ・ドミトロフ(トランペット)
4月29日 フィルハーモニー大ホール 19:00~

ペテルブルグに住みはじめて、もうすぐ1年になるが、やっとブラームスの交響曲が聞けた。まったくないというわけではないが、ブラームスの交響曲をこの街で聞く機会は、本当に限られている。これだけオーケストラのコンサートが開かれているにもかかわらず。でも確かに、ロシアのオケと指揮者でブラームスの交響曲を聞きたいかと聞かれると、ちょっと返事に困るのだが。

当初はこのプログラム、ネーメ・ヤルヴィが来て振る予定だったのだが、2ヶ月ほど前にティトフに交代していた。確かに外見は似ているかも…て、関係ないか。それにしても誰だろう、ショスタコーヴィチのピアノ協奏曲2つにブラームスの交響曲という変わったプログラムを考案したのは。そして実際に聞いてみて、やっぱり変な組み合わせだと思った。

ピアニストのマルコヴィチは、全体的にやや荒く、勢いで弾いているようなところがある。まあそれはそれで面白かったけど。演奏そのものよりも、ニコニコと楽しそうに弾くピアニストの後ろで、コンマスが鋭い眼光を光らせていたのが印象的だった。あのコンマス、何を考えていたのだろう。

今日のトランペットは、いつもの太ったオジサンではなかったが、でも上手かった。ピアニストを押しやってしまうほど音量を出さなかった分、曲にはあっていたかも。

さて後半、ブラームスが始まったとたんに、ホッとすると同時に、突然異次元の世界につれこまれたような違和感を覚えた。1つのコンサートの中で、ショスタコーヴィチの世界からブラームスの世界に飛ぶのって、こんなに大変だったのか!?何この距離間は??ショスタコーヴィチとブラームスが、全くタイプの違う作曲家であるということは、十分承知しているつもりだったけど、実はまだよくわかっていなかったのかもしれない。

ブラームスの交響曲ってやっぱりいいなあと思いながら聞いていたが、でも時々炸裂するティンパニや金管にはたじろいだ。特に第4楽章、明らかに金管が出しすぎ。オーケストラの個性と言えばそれまでだが、ショスタコーヴィチやチャイコフスキーではピタリとはまる彼らの持ち味も、ブラームスだとそうはいかない。ロシアでなぜブラームスの交響曲が演奏されないのか、論より証拠を見せられた気分。でもやっぱり、もうちょっとブラームスの交響曲を聞く機会が増えてほしいなあ。

2010年4月28日水曜日

呼吸する音楽~レオンハルトのチェンバロ

  • クープラン、パーセル、J.S. バッハの作品
グスタフ・レオンハルト(チェンバロ)
4月28日 フィルハーモニー小ホール 19:00~


本当は4月18日に開かれるはずだったが、アイスランドの噴火の影響で10日後に移動。中止にならなかっただけでも、幸いとするべきだろう。

開始5分前についてみると、客席はほぼ満席。それどころか、臨時に席を増やしている。レオンハルトなんてロシアではそんなに知られていないのではないかと思ったが(ましてや曲目は、それほど知名度があるとは思えないバロック音楽)、その予想は外れ。かなりの人気だ。プログラムはすでに売り切れ。おかげで、詳細な曲目が分からない。

さて演奏内容だが、そもそもそれほど熱心なバロック音楽の聞き手ではなく、ましてやプログラムが手元にないとなれば、あれこれ細かく言うこともできない。ただ、ロシアに来てから味わったことのない体験をすることができた、と言うことはできる。

深くゆったりした呼吸で、聞き手を包み込むような演奏と言えばいいだろうか。音楽における呼吸の大切さをこれほど実感したのは、ひょっとしたら初めてかもしれない。時々派手なミスタッチが混じるものの、そんなものどうでもいいと感じさせるぐらい、音楽に「安心感」がある。聞いていて、とてもホッとするのだ。個人的には、バロック音楽はジャズすれすれの、ノリのいい演奏が好きなのだが、レオンハルトの演奏はそれとは全く違う。もっと落ち着いた演奏。でも、一音一音がとても生き生きしている。そして細かい装飾音の向こうに、大きな流れが感じられる。これが「大家」の演奏なのか。

休憩時間、一生懸命チェンバロの調律をしていたレオンハルトの姿も目に焼き付いている。

2010年4月24日土曜日

季節外れの(?)チャイコフスキー

  1. ドミートリ・ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調作品77
  2. ピョートル・チャイコフスキー:交響曲第1番ト短調作品13「冬の日の幻想」
ミハイル・タタールニコフ指揮、マリインスキー劇場管弦楽団、Yuri Zagorodnyuk(ヴァイオリン)
4月24日 マリインスキーコンサートホール 19:00~


Yuri Zagorodnyukという、マリインスキーの元コンマスの75歳記念演奏会。ショスタコーヴィチは、ご本人が希望したものだろうか。だが正直なところ、技巧の衰えは隠せない。しかも結構初歩的なところで音を外している。とはいっても、音楽が崩壊するほどではないし、音色や歌い方は悪くないので、ベートーヴェンとかメンデルスゾーンとか、もう少し技術的に簡単な曲にしておけば良かったのではないだろうか。

なんだか野暮ったい(聞き様によっては味があるとも言えるが)ソリストとは対照的に、タタールニコフが指揮するオーケストラは洗練されている。しかも元コンマスに敬意を表したのか、今日は「一軍」なので、こちらは技術的に問題なし。このコンビで、ショスタコーヴィチの交響曲も聞いてみたい。

後半のチャイコフスキーになると、ソリストに気を使う必要がないせいか、オーケストラはますます快調。ちょうど春がやってきた今の季節に「冬の日の幻想」を何で取りあげるのだろうと思うけど(でも第4楽章の雰囲気は、今の季節にピッタリか)、久々にチャイコフスキーを堪能できた。はっきりいって、ゲルギエフが指揮している時より爽快だ。

やっぱりタタールニコフは、期待していい若手だと思う。これからの理想は、タタールニコフの指揮で「一軍」の演奏を聴くこと。

2010年4月15日木曜日

未知との遭遇~カレトニコフのオペラ「使徒パウロの神秘劇」

  • ニコライ・カレトニコフ:歌劇「使徒パウロの神秘劇」
パーヴェル・ペトレンコ指揮、マリインスキー劇場管弦楽団&合唱団ほか
4月14日 マリインスキー・コンサートホール 19:00~

名前すら全く知らなかった作曲家の、(当然)初めて聞くオペラ。ウィキペディアで調べてみると、新ウィーン楽派の影響を受けたカレトニコフの作風は、ソ連当局の意向にそぐわなかったため、生前はずいぶんと冷遇されたらしい。マニアの性として、こういう知られざる作品はどうしても聞きたくなる。ポスターには、ウルトラマンに出てくる怪獣(あるいは、ゲゲゲの鬼太郎に出てくる妖怪)みたいな奇妙なコスチュームがたくさん描かれていて、これも興味を引いた。

こんなオペラ、誰も見に来るまいと高を括っていたら、なぜかチケットの売れ行きが非常にいい。当日も、満席とはいかないまでも、かなりそれに近い状態。

しかも、演出がまた力が入っている。でも残念ながら、それを表す筆力は今の私にはない。ストーリーの概要は、古代ローマにおける使徒パウロとネロの物語であり、ローマの大火を口実にしてパウロを死罪にしたネロも、最後は帝国全土の反乱のために自害に追いこまれる。パウロがモノローグで、キリストの愛を説いたりして(コリント人への手紙からの引用らしい)、要は信仰の重要性を説く内容であり、ソ連時代にこの作品を書いた意図をあれこれ推測してしまう(おそらく誰もが抱くのが、ローマ帝国ってソ連の隠喩?という疑問)。

演出に話を戻すと、ものすごくモダンで派手な演出であり、バルタン星人が舞台に出てきても、違和感がなかったと思う。そういえば、「21世紀少年」(原作も映画も読んでいないし、見ていませんが)の目玉みたいなのも舞台上にあった。今日の演出家は、きっと日本の映画や漫画が好きに違いないと、勝手に思っていた。これに比べれば、こないだ見た「トリスタンとイゾルデ」の舞台など、実にシンプル。

でもどこか、今年の初めに見た「魅せられた旅人」の舞台に似ているなあと思ったら、実は同じ演出家だった。「魅せられた旅人」の舞台は簡素、今回はド派手と、一見対照的だが、合唱を舞台後方の客席に置いたり(しかもこれまた奇妙な衣装を着ている)、あるいはダンサーの使い方などが、よく似ていたりする。

かなりお金をかけた演出であり、マリインスキーが力を入れていることが窺われる。面白かったが、でも、なんでこんなに力を入れているのだろうと、疑問が残った。一番高い席で400ルーブルだったが、それでは元手が取れるわけがない。どこからか補助金が出ているはずだが…。

さて音楽のほうだが、これがまたびっくり。シェーンベルクそっくりの響きがする。たぶん12音技法ではないだろうか。しかし70年代から80年代に、こんなにシェーンベルクの技法を忠実になぞった音楽を書いていたのは、世界中でもカレトニコフぐらいでは?生前、ソ連で受け入れられなかったのは分かるが、同時に、西側ではアナクロニズムの音楽だったのではないだろうか。

ただ、いつどこで書かれたという問題をいったん脇に置いて耳を澄ませば、これはこれで聞きごたえのある力作ではないかと思った。1時間半、起伏に富んでいて面白い。残念ながら、オーケストラがまだ作曲者の語法を消化しきれておらず、その点では不満が残ったが。今後、さらに質の高い演奏で聞く機会があればいいと思う。

2010年4月14日水曜日

ゲルギエフの謎、謎、謎…

  1. ドミートリ・ショスタコーヴィチ:交響曲第3番変ホ長調作品20「5月1日」
  2. ヴィトルト・ルトスワフスキ:ピアノ協奏曲
  3. アントン・ドヴォルザーク:チェロ協奏曲ロ短調作品104
  4. モーリス・ラヴェル:ラ・ヴァルス
ワレリー・ゲルギエフ指揮、マリインスキー劇場管弦楽団&合唱団、セルゲイ・ババヤン(ピアノ)、マリオ・ブルネロ(チェロ)
4月13日 マリインスキーコンサートホール 20:00~


このコンサート、当初はブルネロのソロによるドヴォルザークのチェロ協奏曲しか告知されていなかった。そのうち何か追加するだろうと思っていたら、一週間ほど前になってショスタコーヴィチとラヴェルが追加。これで終わりだと思っていたら、なぜか2日ほど前になってルトスワフスキ(!)も追加。また無茶な。案の定、いつまでもリハーサルをしていて、お客が会場に入れたのは20時20分ごろ。開始は、その10分後だった。いつものことながら、ゲルギエフの頭の中を覗いてみたい。

おそらく交響曲全集録音の一環として取りあげたショスタコーヴィチの3番。この曲、私はあんまり好きではない。同じ体制翼賛でも第2番は刺激的だけれど、第3番は平明すぎるというのか。この日のゲルギエフの演奏を聴いても、ピンとこなかった。

続いて、なぜか急きょ追加されたルトスワフスキ。ピアニストは初めて聞く名前で、若手だが、リゲティやペルトなどの現代曲を得意としているそうだ。この日も暗譜。初めて聞く曲なのであれこれ細かい指摘はできないが、しっかりと曲を把握している感じで、安心して聞くことができた。対照的なのがゲルギエフ。最初から最後まで、すごい形相で譜面にかじりついていて、予習が足りていないのが見え見え。それでも何とかなってしまうのが、このコンビの凄いところなのだが(というか、間違ってもこちらは気がつかない)、こんな状態で人に聞かせることに疑問を感じざるを得ない。

休憩の後は、もともとメインだったはずのドヴォルザーク。ところがさっきのルトスワフスキで力を使い果たしたのか、オーケストラの音に生気がない。おかげでブルネロの音はよく聞こえたが、要するにソリストの一人舞台になってしまったということ。こうした演奏は、ブルネロに対して失礼では?

ブルネロが引っ込んだ時点ですでに23時近く。帰っていくお客さんも多い。お腹もすいたし私も帰ろうかな、でもラ・ヴァルスは12分程度だし聞いていくかと残ってみたら、驚いた。さっきまでとはまるで別のオケのように、豪快に鳴りまくる。編成が大きくなっているとはいえ、それだけでは説明できない活きのよさ。これまでの経験から、ドヴォルザークよりラヴェルのほうがゲルギエフに合うというのは理解できるが、それにしても…。

とにかく、やろうと思えばできるじゃないか!!

2010年4月10日土曜日

ブルネロ in St. Petersburg

  1. アントニオ・ヴィヴァルディ(ヨハン・セバスチャン・バッハ編):協奏曲ニ長調BWV972
  2. アントニオ・ヴィヴァルディ:チェロ・ソナタト短調RV42、イ短調RV43、変ロ長調RV46、イ短調RV44
  3. ジョヴァンニ・ソッリマ:スパシモ
マリオ・ブルネロ(チェロ)ほか
4月6日 マリインスキー・コンサートホール 19:00~

  1. ヨハン・セバスチャン・バッハ:無伴奏チェロ組曲第3番ハ長調BVW1009
  2. マックス・レーガー:無伴奏チェロ・ソナタ第2番ニ短調作品131
  3. ジュディス・ウィアー: Unlocked
  4. ヨハン・セバスチャン・バッハ:無伴奏チェロ組曲第6番ニ長調BWV1012
  5. ジョヴァンニ・ソッリマ:アローン
マリオ・ブルネロ(チェロ)
4月10日 マリインスキー・コンサートホール 19:00~


今、マリオ・ブルネロがペテルブルグに来ている。6日にアンサンブル、10日に無伴奏のコンサートを開き、13日にはゲルギエフ指揮のマリインスキー劇場管弦楽団をバックに、ドヴォルザークを演奏する予定。今そんなに時間的余裕がないので、2回のコンサートの感想をまとめて。

まず演奏とは基本的に関係ないことだが、観客の入りがあんまりよくない。半分強といったところか?彼のCDはロシアでは入手困難ので仕方ないかもしれないが、一番高くても400ルーブルの演奏会、東京だったら完売するのではないだろうか。

もう一つ演奏とは関係のない感想を書いておくと、舞台の真中にチェロ用の椅子が一つだけという光景は、絵になる。これだけで、何かこちらの感性に訴えかけるものがある。

さて肝心の演奏。レーガーを除けば、バロックと現代もの(ただしとても聞きやすい)から構成されている意欲的なプログラムだが、私は現代もののほうがいいと感じた。バロックものも、古楽奏法を上手く取り入れて洗練された演奏を聞かせてくれるが、今一つインパクトが弱い。その点、レーガーと現代ものでは、水を得た魚のように音楽が動きだす。ウィアーは、名前自体初めて知った作曲家だが、途中楽器の胴体を叩いたり、足踏みをしたりしながら、それだけにとどまらず、チェロを十分歌わせてくれる。レーガーも、単なるバッハの模倣にとどまらない音楽として聞かせてくれた。ソッリマについては、6日は自家薬籠中という感じだったが、10日の演奏はCDのに比べると、いささか荒削りだと思った。ライブとスタジオ録音の差だろうか?

13日のドヴォルザークは、どうなるだろうか。

マリインスキーの「トリスタンとイゾルデ」

  • リヒャルト・ワーグナー「トリスタンとイゾルデ」
ミハイル・タタールニコフ指揮、マリインスキー劇場管弦楽団&合唱団、レオニード・ザホジャエフ、オリガ・セルゲーエヴァほか
4月9日 マリインスキー劇場 18:00~


「トリスタンとイゾルデ」はとても思い入れのある作品。でも今ちょっと忙しいし、マリインスキー劇場のワーグナーてあまり期待できないので、パスしようかと思っていたら、マリインスキーの知人がなぜかチケットを押さえてくれた。好きな作品なので、せっかくなので行くか、面白くなかったら途中で帰ればいいしと、また不届きなことを考えながら、足を運んだ。

その結果だが、う~ん、なかなか言葉にするのは難しい。今週はゲルギエフを中心とした主力部隊がモスクワに行っているので、ペテルブルグに残っているオーケストラは(はっきりいって)「二軍」。ソロもアンサンブルも、結構音程があやしい。やっぱりこの曲、音程を正しく取るのが難しいのね。それにワーグナー特有のうねりに身を任せるには、もっと音に厚みが欲しい。歌手も、声量はそこそこあるものの(前のほうに座っていたのでそう感じたのかもしれないが)、ドイツ語の発音は怪しい。

と、いくらでも欠点を挙げられるにもかかわらず、なぜかそれほど退屈しなかった。音楽の緊張感が確保されていたから?結局、11時半の終演まで残ることに。音はちゃんと鳴っているはずなのに、しばしばうんざりさせられるゲルギエフとは対照的。もちろん一流の公演だったとは思わないし、疲れたけれど、その疲労感も含めワーグナーを聞いたという気にはなった。これが音楽の不思議なところ。

演出は、設定を現代に変えた以外は、(部分的に理解できなかったけど)それほど台本を大きく読みかえているわけではなかった。マルケ王は、現代の資本家か政治家といったところか?黒いスーツで身を固めた、不気味な一団を率いている。第二幕と第三幕の舞台は、おそらくホテルの一室。第二幕の有名な二重唱で、ひょっとしてと期待したが(笑)、特に肌を見せるということもなし。第一幕の船内も含め、内装がどことなくロシア風なのはご愛敬。意図したものか、図らずもそうなったのか。

2010年4月3日土曜日

ゲルギエフのブラームス特集

  1. ヨハネス・ブラームス:ピアノ協奏曲第2番変ロ長調
  2. 同上:ドイツ・レクイエム
ワレリー・ゲルギエフ指揮、マリインスキー劇場管弦楽団、ネルソン・フレイレ(ピアノ)、スウェーデン放送合唱団、エリック・エリクソン室内合唱団
4月3日 マリインスキーコンサートホール 15:00


一昨日はマーラーの8番、昨日はワーグナーの「ローエングリン」を演奏会形式で全曲、今日は15時からブラームスを2曲やった後、19時からマーラーの9番(+ストラヴィンスキー)。明日からはモスクワで演奏会。売れっ子アーティストのスケジュールというのは、当然ぎっしり詰まっているものだが、その中でもゲルギエフのスケジュールはちょっと異常。しかもこの人の場合、おそらく自分で望んでこの異常なスケジュールを組みたてている。

当初はマーラーのほうに行こうかと思っていのだが、フレイレやスウェーデン放送合唱団という普段お目にかかれない人たちが来ると分かって、こちらを選んだ(さすがに両方聞きにいく体力は…)。同じ組み合わせで、明後日モスクワでもやるらしい。しかしマリインスキーの合唱団も結構レベルが高いのに、わざわざスウェーデン放送合唱団とエリック・エリクソン室内合唱団を呼ぶとは贅沢な。

私は2曲あるブラームスのピアノ協奏曲のうち、不器用だけれども熱く燃えあがる1番のほうが好きのだが、今回聞いてみて、2番もやっぱりいいなあと思った。実に輝かしいピアノの音色。ちょうど真ん中の席に座っていて、フレイレの手の動きがよく見える位置だったので、彼の美しい手の動きの印象と重なって、余計そう聞こえたのかもしれない。出だしのホルンソロがちょっと躓いたものの、全体的にはオーケストラも悪くない。特に第3楽章のチェロのソロは、ビブラートのかけ方、抑揚の付け方がベストで、ピアノソロと同じくらい聞きごたえがあった。

後半は合唱が期待通りの出来で、発音の明晰さ、ハーモニーの美しさが見事だった。フォルテッシモになっても、決して絶叫調にならない。ただこちらは、オーケストラの出来がイマイチ。緊張感が足りず、クライマックスとなる第6曲も盛りあがりに欠ける。ドラマチックな演奏をゲルギエフに期待してはいけないことはもう分かっているが、ドイツ・レクイエムのような曲となると、やっぱりどこかで劇的なものを期待せずにはいられない。

図らずも、ゲルギエフの得手不得手が出た演奏会だったような気がする。それとも単純に、無茶なスケジュールの影響か。

2010年4月2日金曜日

スウィングル・シンガーズ in St. Petersburg

3月31日 ミュージックホール 19:00~

スウィングル・シンガーズのコンサートのチケットが、日本円にして3000円弱。しかも結構前のほう。特にファンというわけではないが、でも行かない手はあるまい。会場は、10月に平原綾香が歌ったのと同じホール。

コンサートの数日前にモスクワの地下鉄でテロが起きたが、コンサートのほうには何の影響もなし。そういえば昨年、ネフスキー・エクスプレスでテロが起きた当日も、ダイアナ・クラールのコンサートに行ったが、テロなどどこ吹く風といった感じだった。なぜか、外国からの大物アーティストのコンサートに行こうとすると、テロが起きる(いやなジンクス)。

肝心のコンサートだが、舞台に出てきた瞬間、「あれ、こんなオジサン、オバサンのグループだったかな」と思ったけど、音楽自体はフレッシュ。美しいハーモニー、「本物」と聞き間違えそうなボイスパーカッション。また音楽のみならず、歌っている最中の振付が面白くて、「見る」楽しさも十分あった(ここら辺は、YouTube で確認可能)。

でも個人的に印象に残っているのは、後半の途中で、観客にボイスパーカッションの練習をさせたこと。ユーモアを交えつつ、「ドム」「カ」「チ」と客席全体に発音させる。客席もノリよくそれに反応。そうやって遊んだ後、自分たちでボイスパーカッションを実演して見せて、プロの凄さを見せつけるという趣向。とにかく、客席を沸かせるコツを心得ているなという印象だった。