- ギヤ・カンチェリ:V&V
- 同上:Ex Contrario
- 同上:夜の祈り
- 同上:Chiaroscuro
ギドン・クレーメル(ヴァイオリン)、イーゴリ・ブートマン(ソプラノ・サックス)、クレメラータ・バルティカ
3月24日 フィルハーモニー大ホール 19:00~
ペテルブルグ滞在最後の夜。実はペテルブルグを離れるのを25日にしたのは、このコンサートに興味があったから。せっかくクレーメルを聞くチャンスを逃す手はない。チケットも幸い安かった。一番後ろの席で200ルーブル(約600円)。
もっともカンチェリが好きかと言われると、むしろ苦手な作曲家に属する。グバイドゥーリナとか、旧ソ連圏の現代作曲家の多くに言えることだが、彼(女)らの作るサウンドが、いかにも深刻ぶっているように聞こえてしまうのだ。しかもロシア正教の大斎期にちなんだコンサートであるため、入り口で正教関連の本が売られていたり、正教会が支援している難病の子どもを救うプロジェクトへの募金が呼びかけられていたり、全体に宗教色が強い。ある意味、今のロシアのあり方が垣間見えて興味深いが、通常のコンサートとは雰囲気が違うため、私のような不信心者はちょっと戸惑ってしまう。
クレメラータ・バルティカのアンサンブルの精度は、さすがにマリインスキーやフィルハーモニーのオケよりはるかに上だが、カンチェリの音楽そのものには最後までのめりこめなかった。4曲ともほとんどピアノやピアニッシモでできており、時折大きな音が鳴る。その静粛の世界は確かに美しいのだけど、どこかに「嘘っぽさ」を感じてしまう。ただ、それはなぜか、と言われても「直観」としか言いようがなく、しばらく考えてみたい。
そうした中では、皮肉にもクレーメルが出演しなかった「夜の祈り」が比較的気に入った。ジャズサックス奏者のヤン・ガルバレクに捧げられたというこの曲、この日はロシアのジャズ界を牽引しているイーゴリ・ブートマンがソリストを務めた(本当に豪華な演奏会である)。ガルバレクならもっと甘く切なく歌いそうなところを、ブートマンは直球勝負で吹き切ったが、私にはブートマンのほうが好みに合っている。
渋いプログラムだが、会場は立ち見が出るほどの超満員。拍手も盛大だったが、特にカンチェリご本人が姿を現すと、スタンディングオベーションが起こった(いや、作曲家の姿を拝みたかっただけか)。
ただねえ、こういう静粛が支配する音楽でも、携帯が鳴りまくるのはいかにもロシア的というべきか。一体お前らカンチェリの何を聞きに来たんだと言いたくなる。
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