2011年3月30日水曜日

エマーソン弦楽四重奏団 in St. Petersburg

  1. フェリックス・メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲第5番変ホ長調 作品44-3
  2. ドミートリ・ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第8番ハ短調 作品110
  3. ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第4番ハ短調 作品131
エマーソン弦楽四重奏団
3月30日 マリインスキー・コンサートホール 19:00~

何度も書いているように、私は弦楽四重奏が苦手である。それでもこんな世界的な団体が、わずか1000円程度で聞けてしまうとなれば、行かないわけにはいかない。弦楽四重奏のコンサートはあまり客の入りがよくないのが常だが、今日は後方に空席が目立った以外は、かなり客が入っていた。

最初のメンデルスゾーンは、昼間の疲れが出て寝てしまった。したがってノーコメント。

続いてショスタコーヴィチ。私は彼の交響曲は大好きだけど、弦楽四重奏曲には未だになじめない。実はベートーヴェンもそう。これはつまり弦楽四重奏という形式が苦手ということなんだと、自分に言い聞かせている。

と言っても、弦楽四重奏曲の8番は、ショスタコーヴィチ・ファンの間では有名な曲なので、曲の流れは大体頭に入っている。ちなみに手持ちのCDは、定評あるボロディン四重奏団のもの。両者を比べると、第2、第3楽章ではボロディンの厳しさに比べて物足りなさを感じたが、第4、第5楽章ではむしろエマーソンの歌わせ方のほうが気にいった。柔らかいソファーのような厚みとでも言うのだろうか、身をゆだねたくなるような安らぎがあった。エマーソン=スポーティというイメージを勝手に作っていたため、これは嬉しい意外な発見。

一方、ベートーヴェンは各楽章のキャラクターの描き分けが上手かったが、やはり終楽章のカッコよさが一番の聞きものだったような気がする。こちらは、従来のエマーソンのイメージに近い演奏だったのではないか。最後まで聞きおわってみると、確かにこの人たち凄いかもと、納得させられた。それにしてもベートーヴェンは、晩年に何でこんな不思議な曲を書いたのだろう。

<追記>
エマーソンって、チェリスト以外は立って演奏するんだ。こういう形態は初めて見た。

2011年3月27日日曜日

ヴェルディのオペラ初体験~ローマ歌劇場の「ナブッコ」

  • ジュゼッペ・ヴェルディ:歌劇「ナブッコ」(演奏会形式)
ニコラ・パシュコフスキ指揮、ローマ歌劇場管弦楽団&合唱団、ダリオ・ソラリ(ナブッコ)、アントニオ・ポリ(イズマエーレ)、ドミートリ・ベロセリスキー(大司教)、ヴィクトリア・チェンスカ(アビガイッレ)ほか
3月27日 マリインスキー劇場 19:00~

1月の末、マリインスキーのサイトを見ていると、リッカルド・ムーティが3月の終わりにマリインスキーにやってくるという告知が!!曲目はヴェルディの「ナブッコ」を演奏会形式で。普段はヴェルディなんて見向きもしない私も、おおこれは行かねばなるまいというわけで、すぐに1200ルーブルのチケットを購入。ムーティは1993年のウィーン・フィルのニューイヤーコンサートで出会って以来(ニューイヤーを見たのも、それが最初だった)、ちょっと思い入れのある指揮者なのだ。ところがムーティは2月の初めに倒れてしまい、今日の演奏会もキャンセル。残念…。しかも払い戻しなしって、オイオイ。

でもおかげで、ヴェルディのオペラを初めて全曲通して聞くことができた。こんな機会でもなければ、ヴェルディに耳を傾けることなんて、ないだろうから。長くなるので書かないが、ワーグナーと対照的な面がいろいろ発見できて、その意味では面白かった。クラヲタを自認するならば、好き嫌いを抜きにして、有名な作曲家の作品を一通り耳にしておくべきなのかも。

演奏の出来は…いいのか悪いのかよく分からない。なにしろ比較できないから。オーケストラは、もう少し音に潤いが欲しいと思ったけど、これは会場のせいもあるのかもしれない(何でコンサートホールでやらなかったんだ!!)。知名度が高くなく、もっと下手かと覚悟していたけど、意外と整ったアンサンブルを聞かせてくれた。それにこの軽い感じは、ロシアのオケにはなかなか出せない。余談だが、ピッコロのおじさんが「あんたソリストか!」と言いたくなるぐらい大きな身振りで演奏していて、可笑しかった。独唱も合唱も自家薬籠中という感じで、良かったのではないだろうか(いや、あまり自信をもって言えないけど)。

むしろ印象に残ったのは、観客の反応。有名な「行け、我が想いよ、黄金の翼に乗って」の後など、熱狂的な拍手が鳴りやまず、もう一度歌ったぐらい。ロシアの人たちは、自分たちの「愛国心」をこの歌に重ねたのだろうか?もちろん全曲終わった後は、盛大な拍手とスタンディングオベーション。あ、今日の演奏ってそんな名演だったの?もしかして今日の私は、「猫に小判」状態だったのかもしれない。

2011年3月18日金曜日

ベルクとR. シュトラウス

  1. アルバン・ベルク:ヴァイオリン協奏曲
  2. リヒャルト・シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」 作品40
ワレリー・ゲルギエフ指揮、マリインスキー劇場管弦楽団、ライナー・ホーネック(ヴァイオリン)
3月17日 マリインスキーコンサートホール 19:00~

ロシアでも地震、津波、原発のことが大きく報道されて、いろんなロシア人から「あなたの親戚は大丈夫だったの?」と聞かれた。幸い、親戚に犠牲者は出なかったが…。こういう大災害の後だと、今日のプログラムが生と死の対比のように思えてくる。演奏する団員のほうは、さぞかし大変だろうが。案の定、開演時間の19時になっても、まだ会場に入れず、「英雄の生涯」を練習している音が聞こえていた。結局、20分ほど遅れてスタート。

ベルクは、昨秋にフィルハーモニーで聞いた演奏よりも、ずっと良かった。あの時予想した通り、こういう曲はフィルハーモニーよりもマリインスキー(というかゲルギエフ)のほうが上手い。ゲルギエフはこういう複雑な曲を上手に整理する。またライナー・ホーネックのヴァイオリンが、いい意味で「甘い」。ベルクがウィーンの作曲家だということを認識させられた。3拍子のリズムが、オーケストラともどもまさしくワルツとして響く。

一方、「英雄の生涯」のほうは、先週聞いた「ナクソス島のアリアドネ」と同じ感想。こんな重量級のプログラムにもかかわらず、オーケストラがちゃんと練習してきたのは誉めたいけれど、何か物足りない。ここには、さっきあったはずの「甘さ」がない。陶酔できない。ああ、なんで。音は並んでいるはずなのに。

考えてみると、今日がゲルギエフを聞く最後の機会だったかもしれない。この2年間、いろいろな演奏を聞かせてくれた人で、手放しで誉めることはできないが、これだけ多く接すると、名演も駄演もひっくるめて、大切な思い出のような気がしてくる。

2011年3月8日火曜日

ナクソス島のアリアドネ by ゲルギエフ

  • リヒャルト・シュトラウス:歌劇「ナクソス島のアリアドネ」
ワレリー・ゲルギエフ指揮、マリインスキー劇場管弦楽団、アンナ・マルカロヴァ(アリアドネ)、オリガ・プドヴァ(ツェルビネッタ)ほか
3月8日 マリインスキー・コンサートホール 19:00~

完全に初めて聞くオペラ。コンサートホールだったが、演奏会形式ではなく普通に上演。ただし前半はロシア語歌唱。後半の劇中劇の部分はドイツ語。

まず曲については、素晴らしいと思う。「ばらの騎士」に続く美の極致。ドイツ・ロマン派の最後の輝きとでもいおうか、ストラヴィンスキーが「春の祭典」を書き、シェーンベルクが無調で新しい表現を模索するなか、同時期にこんな作品が書かれていたのだと思うと、感慨深い。たぶん同時代の人にとっては、R. シュトラウスの世界こそが、最も親しみのある「現代の音楽」だったのだろうけど。

が、演奏について満足できたかと言われると、それは…。歌手は割と水準が高かったような気がする。特に要となるアリアドネとツェルビネッタの2人は見事で、「あれ、マリインスキーの歌手って意外と水準高いじゃん」と見なおした。実を言うと、マリインスキーの歌手って、あんまり評価していない。ドイツ語を歌っているはずなのにロシア語に聞こえるし、声量もあまりなかったりするし。でも今日は良かった。

オケは少数精鋭。出来不出来の激しいオケで、しばしば練習不足が露呈するが、今日はリハーサルをちゃんとやって来ていた。もともと各セクションのトップは上手いので、36名だといつもよりいいオケのように感じる。

では何が不満なのかというと、演奏の水準は低くないはずなのに、なぜか陶酔できない。そう、ゲルギエフの演奏を聞いていてよく不満になるのは、この「陶酔」という感覚になかなか出合えないからだ(少なくとも私は)。特に後半、めくるめく美しいアリアの波状攻撃に加え、わずか36名とは思えないオーケストラの色彩美がかぶさるのだから、もっと目頭が熱くなってもいいんじゃないの、と思ってしまった。

このプロダクションは今日が初演だったため、もしかしたら今後、もっと美しい演奏になるかもしれないが。

2011年3月6日日曜日

ゲルギエフ+イブラギモヴァ

  1. ミハイル・グリンカ:交響的幻想曲「カマリンスカヤ」
  2. ロディオン・シチェドリン:管弦楽のためのロマンチックな音楽「アンナ・カレーニナ」
  3. セルゲイ・プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第1番ニ長調 作品19
  4. ピョートル・チャイコフスキー:交響曲第4番ヘ短調 作品36
ワレリー・ゲルギエフ指揮、マリインスキー劇場管弦楽団、アリーナ・イブラギモヴァ(ヴァイオリン)
3月5日 マリインスキー・コンサートホール 20:00~

いつもながら、ゲルギエフのプログラムはヘビーである。こちらもそれに慣れてしまうが、いいのだろうか。

1曲目のグリンカは初めて聞く。アンサンブルはイマイチ。途中からアップテンポになるが、弦楽器が明らかに乱れている。

その点、多少音程を外してもばれないというのもあるかもしれないが、シチェドリンのほうが出来がよかった。これも聞くのは初めて。割と聞きやすい重厚な曲で(あくまでも、20世紀後半の作品にしては、ということだけど)、家に帰ってからCDをネットで探したけれど、どうも元のバレエのDVDしか出ていないようだ。ゲルギエフ、録音しないかなあ。

バレエ音楽「アンナ・カレーニナ」を演奏会用に編曲したものだが、面白いのはあの手この手で鉄道の音を再現していること。まるでオネゲルのパシフィック231の拡大版。オケは4管編成に多くの打楽器を投入していて、確かに気軽にプログラムに入れるのはちょっと難しいかも。

続いてプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第1番。今日のお目当てのイブラギモヴァ。どんなヴァイオリニストだろうと思っていたが、とにかくピアニッシモが綺麗。そしてピアニッシモの音も装飾音符もよく聞こえきて、オケに埋もれることがほとんどない。たまたま座った位置がよかったのかもしれないが。第1、第3楽章はとても満足。個人的には、第2楽章はもっとヴァイオリンを思いっきり鳴らしてほしかったが、演奏スタイルの一貫性という点から見れば、これもありか。ゲルギエフは、こういう曲の伴奏を手堅くまとめるのが上手いと思う。

休息後のチャイコフスキー。ゲルギエフのチャイコフスキーなんて期待していなかったが、意外とよかった。最初のファンファーレから思いっきり鳴っていた。全体的に元気のいい演奏で、あまり暗さとか厳しさもなく、やや響きが混濁気味だったものの、それなりに練れていた。「ロシア風のチャイコフスキー」を求めるのでなければ(というか、ゲルギエフにそんなものは求めないけど)、十分満足できる演奏だった。