2011年4月27日水曜日

最後の演奏会~フィルハーモニーで聞くブルックナーの8番

  • アントン・ブルックナー:交響曲第8番ハ短調
マリオ・ベンザーゴ指揮、サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団
4月27日 フィルハーモニー大ホール 19:00~

とうとうペテルブルグを去る2日前になってしまった。さすがにバタバタとして落ちつかない。それでも、2月以来行っていなかったフィルハーモニーにもう一度行っておきたかった。なぜか最近、ここのフィルハーモニーでもブルックナーが取りあげられるようになっている。私は行かなかったが、7番も9番もすでにやっている。一過性のものなのか、このままブルックナーがロシアでも根付くのか。

ここのオケ、いわゆるドイツ的な重厚さはないものの、金管はよく鳴るので、ブルックナーも悪くないかもしれないと思っていたが、まあ予想通りの演奏。アンサンブルのタガがゆるくて、イマイチどっしり感がないのだが、トランペット、トロンボーン、チューバはよく鳴るので(ただしホルンとワーグナーチューバはパッとしない)、「そこそこ」満足。

重厚さがなかったのはオケの個性に加えて、指揮者がそもそもそんなものを求めていないということも大きいだろう。初めて聞く指揮者だけど、かなり早目のテンポ設定。全部で80分かかっていない。終楽章、コーダの快速テンポにはビックリ。これでオケにもっと機動力があったら、ブルックナーの斬新な側面がもっと見えて面白く聞けたのだろうが、オケの反応が鈍かったのは残念。ちなみに、版はノヴァーク版だったと思う。ロシアのコンサートではブルックナーに限らず、複数の版がある場合でもどのバージョンを使うのか全然告知してくれない。ロシア人はこういうのに無頓着である。

今日のチケットは学生券で100ルーブル!!気軽にこういう演奏会に行けるのが、ロシア生活の好きなところだった。

2011年4月25日月曜日

ムストネンのロシアン・プログラム

  1. ピョートル・チャイコフスキー:「四季」作品34
  2. ロディオン・シチェドリン:前奏曲とフーガ第21,2、13,14,15番
  3. アレクサンドル・スクリャービン:6つの前奏曲 作品13
  4. 同上:5つの前奏曲 作品16
  5. 同上:ピアノ・ソナタ第10番 作品70
  6. 同上:詩曲「焔に向かって」作品72
オリ・ムストネン(ピアノ)
4月24日 マリインスキーコンサートホール 19:00~

ムストネンのコンサートが全席300ルーブル!!先週のアンスネスに続いて、日本ではありえない価格設定。しかも結構空席が目立っているし。いや、партер(パルテル。中央の観覧席)は大体埋まっているので、まだましかも。一番前の席で拝聴。

まずは見ていて気がついたことから。この人、結構な汗かきである。ずっと右腕で汗をぬぐいながら演奏する。すべての曲で楽譜を置いて演奏するのも特徴。また、手をブルブルと震わせながら、鍵盤に触れる。まるでフルトヴェングラーの指揮のようだ(違うか?)。

最初はチャイコフスキーの「四季」。チャイコフスキーのピアノソロ作品の中では最も有名なものだが、初めて聞いたので、よく分からないまま過ぎてしまった。ただ同じ初めて聞く作品でも、シチェドリンのほうは楽しめたのだから、結局私は20世紀の作品が好きだということなのだろう。ピアノを弾けないくせにこんなことを書くのはおこがましいけど、シチェドリンがピアノの名手だということを思い出した。いかにも20世紀的な音の進行、和声なのに、ピアノの鳴り方が自然だと感じる。これ、意外な名作ではなかろうか。私がムストネンに着目するようになったのは、彼がバッハとショスタコーヴィチの前奏曲とフーガを組みあわせたディスクを出してからだが、シチェドリンの前奏曲とフーガも録音してほしい。でもレコード会社が渋るだろうなあ。

後半のスクリャービンは、ちょっと洗練されすぎというか、もうちょっとエロチックにドロドロやってくれたほうが好み。特に初期の前奏曲集は、もっと甘酸っぱさが欲しい。ソナタの10番も、個人的にはもっと粘っこいほうが個人的なイメージに合う。ただトリルの鳴らし方は見事。確かに何やら妙な(性的な?)快感がある。CDだったら、トリルを聞きたくて何回もかけるかも。「焔に向かって」では神秘和音が実に綺麗に響いた。

2011年4月16日土曜日

アンスネス in St. Petersburg

  1. ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン:ピアノソナタ第21番ハ長調 作品53 「ワルトシュタイン」
  2. ヨハネス・ブラームス:4つのバラード 作品10
  3. アーノルド・シェーンベルク:6つの小品 作品19
  4. ベートーヴェン:ピアノソナタ第32番ハ短調 作品111
レイフ・オヴェ・アンスネス(ピアノ)
4月16日 マリインスキーコンサートホール 19:00~

今をときめくピアニスト、アンスネスとのコンサートがわずか400ルーブル(一番高い席で!)で聞けてしまう。にもかかわらず、空席がある。ありえない、日本ではありえないことである。実は4作品とも、個人的にはそんなに馴染みのある曲ではないが、凝ったプログラムだと思う。両端にベートーヴェンを配し、ドイツのピアノ音楽の系譜を旅するといった趣か。帰宅後調べてみると、実は4曲ともアンスネスは録音していないようだ。アンスネスが未だにベートーヴェンをまったく録音していないというのは意外だった。

さて演奏だが、「ワルトシュタイン」(なぜかロシアでは「オーロラ」というあだ名が付けられているらしい)の冒頭からして快調。でも、特にこれといった特徴は感じなかった。「お、これは!」と思ったのは、第3楽章に入ってから。「泉が湧きでるように」という形容がぴったりの、流れるような音楽。素晴らしい!

ブラームスは、途中で寝てしまったので、何とも言えず…。

驚いたのはシェーンベルク。持ち前のタッチの美しさを発揮して、シェーンベルクがこんなにロマンチックでいいの!?と言いたくなるくらい、美しく温かさを感じさせる演奏を披露してくれた。シェーンベルクって、もっと息を押し殺して聞くものではなかったかしら? 最近はシェーンベルクの保守的な側面が強調されることも多いけど、ここまでロマンチックなのは驚き。それも初期の作品ならともかく、すでに無調に入っている作品で。ぜひアンスネスには、シェーンベルクをはじめとして新ウィーン楽派を録音してほしい。

最後のベートーヴェンは、やや気負いが感じられた。第2楽章の中間部など、突然スウィングジャズが始まったようで、とても面白かったけど。でもあれこれ論評する以前に、こちらがもっとベートーヴェンの後期の様式に親しむ必要がある気がする。

何がともあれ、これで400ルーブルとはお得な演奏会だった。

2011年4月1日金曜日

ロシアのプログレ~Carmina Moriturorum


  • ZGA: Carmina Mortiturorum
3月31日 ESG 21 20:00~

ペテルブルグを去る1月前になって、また変なところを見つけてしまう。モスクワ駅の近くにある、Experimental Sound Gallery 21というライブハウス。ホームページはこちら(ロシア語)。モスクワには、実験的なライブを夜な夜な繰りひろげる、「ドム」という名のユニークなライブハウスがあるが、さしずめそのペテルブルグ支部とでもいったところだろうか。

古ぼけた建物の中をかなり奥のほうまで入っていかなければならない。事前にホームページで場所をチェックしていないと、たどり着くのは難しいだろう。街の中心部にあるのだが、併設されているカフェには怪しい場末の雰囲気が漂う。古いヨーロッパ映画にでも出てきそうだ。

聞いたのは、ZGAというバンドが演奏するCarmina Mortiturorum (運命の歌)という1時間ほどの曲。編成は女声ヴォーカル、アコーディオン、ヴァイオリン、ベース、トロンボーン、ドラムスにサンプリングが加わる。トロンボーンとサンプリングを担当する人以外は全員女性。でも作曲したのは、Nick Sudnickという、サンプリングを担当した人のようだ。オリジナルはこれに弦楽合奏が加わる。それを担当しているのが、実はOpus Posth 。ここからも明らかなように、典型的な「プログレ」の世界が繰りひろげられた。詳しくはこちら。全編ラテン語での歌唱。

そもそもロックなんてめったに聞かないので、これがロシアに特有のものなのか、あるいはもっと普遍的なものなのか、よく分からない。でも自分にとっては、新しい面白い世界。世界の果てのような場所で、日常の瑣事を忘れてこういう世界にどっぷり使っているときが、一番幸せだと感じる。