2010年9月25日土曜日

ショスタコーヴィチの誕生日

  1. ドミートリ・ショスタコーヴィチ:歌曲集「ユダヤ民族詩より」
  2. 同上:交響曲第11番「1905年」
ニコライ・アレクセーエフ指揮、サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団、アナスタシア・カラギナ(ソプラノ)ほか
9月25日 フィルハーモニー大ホール 19:00~


こちらでは、作曲家の誕生日に合わせてその作曲家の作品を取りあげることが多いが、今日もそう。9月25日はドミートリ・ショスタコーヴィチの誕生日。大ホールのみならず、小ホールでも室内楽のコンサートをやっていた。実は大ホールのほうは、息子であるマクシムが振るはずだったのだが、なぜかキャンセル。今年の初めにも演奏会をキャンセルしているし、マクシム、大丈夫なのか。

それはともかく、演奏会自体は結構良かった。「ユダヤ民族詩より」も悪くはなかったものの、圧巻はやはり「1905年」。第1楽章こそ、もうちょっとあの凍えるような雰囲気を出して欲しいなと思ったが(冬の宮殿広場の寒さなんて、この人たちは絶対に知っているはずなのだから)、第2楽章の銃撃の場面の迫力はやはりすごかった。ただ打楽器は鳴りまくっていたが(小太鼓のリズムなんて、軍隊の雰囲気そのもの)案外トランペットは抑えめ。実はアレクセーエフは、結構バランスに気を使っている。何も金管を無理に鳴らさなくても、このオケは十分迫力ある音を出せるのだ。

誕生日にふさわしい曲目かどうかはともかく、まだまだこのオケにはショスタコーヴィチを十八番とする伝統が継承されていることを実感した演奏会だった。

オケのフォルテシモを聞いて、「ああスカッとした」という気分は、なかなかマリインスキーでは味わえない。でももうすぐ、ゲルギエフの「1905年」のCDが出るらしい。ちょっと興味があるが。

2010年9月24日金曜日

フィルハーモニーのシーズン開幕~リール国立管弦楽団

  1. マヌエル・デ・ファリャ:バレエ音楽「恋は魔術師」
  2. ジョルジュ・ビゼー:「アルルの女」第1組曲+ファランドール
  3. エクトル・ベルリオーズ:カンタータ「クレオパトラの死」
  4. イーゴリ・ストラヴィンスキー:組曲「火の鳥」
ジャン=クロード・カサドシュ指揮、リール国立管弦楽団、ソフィー・フルニエ(メゾ・ソプラノ)
9月24日 フィルハーモニー大ホール 19:00~


やっとフィルハーモニーのほうもシーズンが開幕。ただし、開幕を飾ったのはフランスからのゲスト。リール国立管弦楽団、知らないなあと思いつつ、でも当日になって足を運んでみた。ロシア以外のオケを聞く機会は貴重なので。何度もここに書いているけど、期待せずに行くと結構良かったりする。

もっと重厚な音を出すオケ、華やかなオケはヨーロッパにたくさんあるだろうし、ソロもそれほど上手いとは言えない。でも生のオケの音っていいよね、と思わせてくれるものがあった。縦の線はやや緩めだが、別にいいんじゃないのという気になる。

こうした軽く明るく、でも一定の厚みを持った音というのは、ロシアではなかなか聞けない。フィルハーモニーのオケの音は、もっと暗くて硬い。ツボにはまった時のパワーは凄いけど。マリインスキーの場合、ソロは見事だが、オケとしてはひどくスカスカな音を出す。

このコンビ、ナクソスから結構CDを出しているらしい。帰国したら買ってみようか。CDで聞くと印象が違うかもしれないが、それはそれでいろいろと学べるだろうし。

2010年9月15日水曜日

マリインスキーのシーズン開幕~ホヴァンシチナ

  • モデスト・ムソルグスキー:歌劇「ホヴァンシチナ」
ワレリー・ゲルギエフ指揮、マリインスキー劇場管弦楽団&合唱団、オリガ・ボロディナ他
9月14日 マリインスキー劇場 18:00~


とうとうマリインスキーの新シーズンが開幕。初日は、ホヴァンシチナ。このオペラ、昨年末に聞きにいったが、残念ながら時差ボケのため途中からすっかり寝てしまった。というわけで、再挑戦。

おかげで、(最初のほうで少し寝てしまったものの)ほぼ全曲聴くことができた。確かにこの曲、美しい旋律にあふれている。それも、チャイコフスキーのような甘い美しさではなく、もっと素朴な美しさだ。私の周りのロシア人たちが愛するのも分かる気がする。長丁場なので(6時に始まって終わったのが11時近く)、そう気軽には聞けないけれど、それさえ除けば、むしろ「ボリス・ゴドゥノフ」よりも親しみやすいかもしれない。

ただ演奏は相変わらずというか、オケも合唱も荒い。明らかにピッチが揃っていない個所が散見される。ゲルギエフ&マリインスキーの演奏って、日本の吹奏楽コンクールにおける佼成ウィンド・オーケストラの模範演奏みたいなもので(時としてそれ以下なのだが)、どんな曲か知るには十分な演奏をしてくれるけど、それ以上のものを求めると欲求不満が出てくる。今シーズンも、相変わらずこの調子なのだろうな。

2010年9月6日月曜日

ヘレヴェッヘ&コレギウム・ヴォカーレ in St. Petersburg

  • ヨハン・セバスチャン・バッハ:ミサ曲ロ短調
フィリップ・ヘレヴェッヘ指揮、コレギウム・ヴォカーレ
9月5日 カペラ 19:00~

マリインスキーもフィルハーモニーも、まだシーズンは開幕していないが、一足早く古楽フェスティヴァルが開幕。その演奏会がこれ。何とヘレヴェッヘとコレギウム・ヴォカーレで、バッハのミサ曲ロ短調。会場はカペラ。それほど広いホールではないが、ほぼ満席。

実を言うと、ロ短調ミサ曲って、それほどよく聞く曲ではない。一曲一曲はいいと思うのだが、あまり通して聞こうとは思わない。同じバッハの宗教曲でも、マタイはよく聞けど。マタイにはドラマチックなストーリーがあるからだろうか?

したがって、演奏の評価も難しい。悪くはなかったが、というところに落ち着いてしまう。合唱は全部で17名。ソロパートは、合唱団員が前に出てきて歌う。バスがやや不安定だったが、他は総じて上出来。特にテノールの柔らかく明るい声は良かった。オケも少人数なのに、弱さを感じさせない。だが、現代の進歩した古楽アンサンブルならば、この水準の演奏は出来て当然という気もする。

この日のコンサートで印象に残ったのは、むしろ聴衆の反応。ロシアでは楽章間で拍手が起こることも珍しくないが、今回は決して曲の合間に拍手をしようとしなかった。また全曲が終わった後も、指揮者が手を下すのを待ってから拍手をするというマナーの良さ。携帯も鳴らなかったわけではないが、演奏の大きな妨げにはなっていない。

しかし演奏後は熱狂的なスタンディングオベーションで、何度もヘレヴェッヘを舞台に呼び出した末、オーケストラが舞台裏に引っ込みはじめてもまだ熱烈な拍手が続くものだから、とうとうオーケストラが舞台に戻ってきて終曲をもう一度演奏するという、異例の展開になった。これこそが真のアンコール?

そういえば、4月にレオンハルトの演奏を聞きに行った時も、聴衆の拍手がハンパではなかった。もしかしてロシアにも、コアな古楽ファンが一定数存在するのだろうか。