カイヤ・サーリアホ Lumiere et pesanteur
ヤン・シベリウス ヴァイオリン協奏曲ニ短調
グスタフ・マーラー 交響曲第6番イ短調「悲劇的」
エサ=ペッカ・サロネン指揮 フィルハーモニア管弦楽団、リーラ・ジョセフォウィッツ(ヴァイオリン)
8月22日 フィンランディア・ホール(ヘルシンキ) 19:30~
「あなたが一番好きな曲は?」と問われればストラヴィンスキーの「春の祭典」と答えるだろうが、「では一番好きな「春の祭典」のCDは?」と問われれば、現在のところ、サロネン&フィルハーモニア管弦楽団のディスクを挙げると思う。メリハリが効いて、とても気持ちがいい。このディスクに出会って以来、是非一度聞いてみたかったコンビがヘルシンキに来るというので(ペテルブルグには来ない…)、国境を越えて聞きにいった。もちろんそれだけではなく、ヘルシンキという街自体にも興味があったのだが。結果は、期待通りの快演。
1曲目のサーリアホの曲は、サロネンに献呈された近作だそうだが、変化に乏しく、正直イマイチ印象に残らなかった。いや、「変化に乏しい」というのはおそらく意図的なもので、むしろその微妙な移ろいを楽しむ音楽なのだろうが、一回聞いただけでは聞きどころがつかみづらい。
2曲目はジョセフォウィッツをソリストに迎えてのシベリウスのコンチェルト。ジョセフォウィッツの歌い方はかなり激しいものだが、そのパッションが上手く曲とマッチしていると感じたのは第2楽章。動きのある両端楽章では、ところどころ鋭いフレージングを聞かせてくれたものの、幾分雑な印象を受けてしまった。むしろ見事だと思ったのは、サロネンの指揮。オーケストラが前面に出るところと伴奏に回るところを明確に描きわけて、ソリストを上手に支えていた。案外、協奏曲でこうした「伴奏」をちゃんとしてくれる指揮者って少ない。サロネンは3回もこの曲を録音しているだけに、曲を知りつくしているのだろう。シベリウスのコンチェルトを3回も録音している指揮者など、ほかにプレヴィンぐらいではないか。
休息時間に、ホールのロビーでジョセフォウィッツが公開のインタビューを受けていたが、その中でシベリウスのコンチェルトについて、技巧的に難しいだけでなく、オーケストラがドラマチックに書かれているので、オーケストラとの関係が難しいと語っていた。また作曲家としてのサロネンを「パワフルな曲を書く」と絶賛していたのが印象的だった。彼女はこの春に、サロネンのヴァイオリン協奏曲を初演している。
ちなみに、演奏とは直接関係ない話だが、このインタビューは英語で行われた。驚いたのは、通訳がつかなかったこと。ところが多くの聴衆が周りを囲んで熱心に彼女の話を聞いているのである。フィンランド人って、みんな英語ができるのか!?実は開演前にも、オーケストラの団員2人が出演して、同様のインタビューが行われていたが、やっぱり通訳はいなかった。さすが学力世界一の国(ただ念のため書いておけば、私は日本人も同様に、英語ができるようになるべきだとは思わない)。
閑話休題。いよいよメインのマーラーの6番。サロネンが振っているから当然かもしれないが、マーラーのごちゃごちゃした音響が実にすっきり整理されて聞こえてくる。でも単に整理されているだけでなくて、「これがオーケストラだ!」と言わんばかりに勢いよく鳴るオーケストラ、なかんずく9本のホルンの咆哮は快感だった。終演後、拍手喝采の中サロネンが真っ先に立たせたのもホルンのトップである。ただ曲の特性上、どうしても打楽器や管楽器が目立ってしまうが、個人的に惹かれたのが弦楽器である。ピッチがぴったり揃って1つの音として聞こえてくるのはもちろんのこと、意外と重量感のある濃厚な音色で、この人たちが5番のアダージェットを演奏したらどうなるだろうと、想像せずにはいられなかった。サロネン&フィルハーモニア管弦楽団の音色って、もっとあっさりしたイメージがあっただけに、ちょっと意外な発見。
終演後は観客が総立ち。国境を越えて聞きにきて良かったと満足できた演奏会だった。