2009年7月8日水曜日

ゲルギエフの「リング」

リヒャルト・ワーグナー 楽劇「ニーベルングの指環」

ワレリー・ゲルギエフ指揮 マリインスキー劇場管弦楽団ほか

序夜「ラインの黄金」 7月4日 20:00~

第一夜「ワルキューレ」 7月5日 15:00~

第二夜「ジークフリート」 7月6日 18:00~

第三夜「神々の黄昏」 7月7日 18:00~

いずれもマリインスキー劇場

今年の白夜のスター音楽祭で一番楽しみにしていた公演である。「リング」全曲の生の舞台などそう簡単に接することなどできないし、しかも指揮はゲルギエフ。一生忘れられない思い出になるのではないかと思って、楽しみにしていた。しかし結果は…。

期待が大きかった分、失望も大きかったと言うべきだろうか。正直、ペテルブルグに来てから、最も疲労感あるいは徒労感を覚えた公演だった。3日目と4日目に至っては、これ以上聞いても無駄だと思って、第一幕が終わった時点で帰ってしまった。途中で帰るなど、クラシックのコンサートに通うようになってから初めてである。

まず歌手については、声量や声質の点でいろいろと物足りなさが残った。そりゃあ、マリインスキーの歌手たちにホッター、ニルソン、ヴィントガッセン等々の往年の名歌手と同じレベルを求めるのは、無体なのであるが…。歌手に限らないことだろうが、現代の演奏家は現役の他の演奏家のみならず、過去の名録音とも勝負しなければならないから、大変である。ゲルギエフとしては、歌手たちを鍛えるために、無理を承知であえて難役に挑戦させているという側面もあるのだろう(そう思いたい)。もちろん出演者の中には健闘している歌手もいて、特に「ワルキューレ」でブリュンヒルデを歌っていたオリガ・サヴォヴァは比較的よく通る声で、表現力もあり、印象に残った。

むしろ問題は、オーケストラのほうかもしれない。もちろんちゃんと弾けているのだが、ワーグナーの音楽に陶酔させてくれない。日本で年末に放送されるバイロイト音楽祭の放送を聞くと、演奏に多少の不出来があっても胸が高鳴るのだが、その胸の高鳴りがまるで来ない。なんだか単調なのである。こうなるとワーグナーの音楽は、ただ単に冗長なものでしかなくなる。もともとマリインスキー劇場の椅子はあまり座り心地が良くないだけに、なおさらだ。こう言っては悪いが、ワーグナーの音楽を嫌う人たちの気持ちがちょっと分かったような気がする。

演出については、特に言うことなし。

家に帰ってから、ショルティの録音で「神々の黄昏」のラストの部分を聞いてみた。「ブリュンヒルデの自己犠牲」と言われる部分である。ああ、この興奮を生で味わいたかったのに…。いろんな意味で落胆した。ただ幕が終わるごとに、ブラボーが飛んでいたことは記しておこう。結局、蓼食う虫も好き好きということか。

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