2009年7月19日日曜日

スペイン国立バレエ団in マリインスキー劇場

DUALIA(二面性) LA LEYENDA(伝説)

スペイン国立バレエ団

7月18日 マリインスキー劇場 20:00~

実は今回こちらに来てから、初めてのバレエ観賞。それもよりによって、ロシアのバレエではなくスペインのバレエ。バレエに行かなかった主たる理由は2つあって、第一に、大阪に住んでいたころバレエを何度か見にいったことがあるけど、どれもピンとこなかったということがある。それもモーリス・ベジャールが振りつけた「春の祭典」や「ボレロ」、ローラン・プティが振りつけた「デューク・エリントン・バレエ」といった、世界的に見てもかなり評価の高いと思われるバレエだっただけに、自分には(とくに現代系の)バレエは縁がないのかと思ってしまった。第二に、バレエのチケットの値段は概して高い。バレエは「見る」ものである以上、できるだけ見やすい席に座りたいけれど、末席でも普通に1000ルーブルぐらいしたりする。もちろん日本での公演に比べれば圧倒的に安いけれど、他にも行きたい公演がたくさんあるのに、無理に行く必要もなかろうというわけで、結局行かずじまい。しかしスペイン国立バレエ団はペテルブルグにそう来ないだろうし、チケットも比較的安かったので(800ルーブルのチケットを購入)行くことにした。土曜日というのも好都合。

演目は2つ。DUALIA(ロシア語訳から重訳すると"二面性"となるけど、あっているのか?)とLA LEYENDA("伝説"。日本公演でも披露されているらしい)。いや~もう理屈抜きで楽しかった。ダンサーのカッコイイこと、カッコイイこと。前半のDUALIA。一挙手一投足が絵になるのはもちろんのこと、一糸乱れぬタップ、踊りながら鳴らすカスタネットに感激(踊りながら、あんなに綺麗にカスタネットをそろえられるものなのか?最初録音を流しているのかと思った)。まさしくダンサーの全身が音楽と化していた。後半のLA LEYENDAでは、中心となるダンサー、クリスティーナ・ゴメスとエレーナ・アルガドの2人が特に見事。初めてフラメンコを生で見たけど、すっかり目が釘付け。暗闇の中、スポットライトを浴びて黒ずくめの衣装で踊る彼女らの光景は、一生忘れられないと思う。何度かギタリストやシンガーなどが舞台に出てきて、ダンサーの後ろで生演奏を披露してくれたが、これがまたとても上手かった。

もちろん、終演後は拍手喝さい。いや、もうLA LEYENDAでは1つの踊りが終わるごとに盛大な拍手が沸き起こっていた。来年も来ないかなあと思う。今度来てくれたら、もっと高い席を買います。しかしペテルブルグに来てから最も感激した公演が、ティーレマン指揮のミュンヘン・フィルとスペイン国立バレエ団というのは???

2009年7月12日日曜日

P.ヤルヴィとマリインスキー劇場管のベートーヴェン

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン 交響曲第4番変ロ長調

同上 交響曲第7番イ長調 (以上7月9日)

同上 「献堂式」序曲

同上 交響曲第8番へ長調

同上 交響曲第2番ニ長調 (以上7月10日)

パーヴォ・ヤルヴィ指揮 マリインスキー劇場管弦楽団

7月9日&10日 マリインスキー劇場コンサートホール 19:00~

ここ数年、ゲルギエフに迫る勢いで八面六臂の活躍を続けているパーヴォ・ヤルヴィが登場。しかもマリインスキー劇場のオケを振ってベートーヴェンとはどんなことになるのかと思って、聞きに行った。実はこの演奏会、ゲルギエフやノセダ、ソフィエフなどの指揮者が交代でベートーヴェンの交響曲と協奏曲を振るシリーズの、最終回である。残念ながら、他の演奏会は聞きに行けなかった。

まず舞台を見て驚いたのは、弦の数が多いこと。数えてみると、ファースト・ヴァイオリンから順にプルトの数が7-6-5-4-3となっている。ヤルヴィのことだから、もっと小編成で臨むと思っていたが、意外と一般的な編成である。

初日と2日では、2日目のほうが良かったように思う。1日目は、アンサンブルがところどころ乱れ、ヤルヴィの意思が今一つオーケストラに浸透していない感じで、「このオーケストラ、働きすぎで疲れているんじゃないか」と思ってしまった。管楽器のソロも、もっと上手いはずだったと思う。弦のプルトが多い割に、響が鈍重にならないのはさすがだが、見方を変えると元気がないとも言える。それでも、それぞれの交響曲の終楽章など、ヤルヴィの快速テンポに頑張って食らいついていたが。一方2日目は、「献堂式」の冒頭の音からして気合が入っているのがうかがえ、「今日は期待できるかも」と思っていたら、実際元気のいい演奏で楽しめた。初日よりも、指揮者の意図をオーケストラが良く咀嚼していたという感じである。どこかで吹っ切れたのだろうか?

パートごとに見ると、セカンド・ヴァイオリンやヴィオラなどの中声部がもう少し頑張ってくれたもっと面白かったのに、と感じた。チェロは両日とも健闘していたように思う。ヤルヴィの意図がより徹底しているのはカンマー・フィルとの演奏だろうが、たまにはこんな「他流試合」を聞いてみるのも、いろんな駆引きの跡が窺えて面白い。

2009年7月8日水曜日

ゲルギエフの「リング」

リヒャルト・ワーグナー 楽劇「ニーベルングの指環」

ワレリー・ゲルギエフ指揮 マリインスキー劇場管弦楽団ほか

序夜「ラインの黄金」 7月4日 20:00~

第一夜「ワルキューレ」 7月5日 15:00~

第二夜「ジークフリート」 7月6日 18:00~

第三夜「神々の黄昏」 7月7日 18:00~

いずれもマリインスキー劇場

今年の白夜のスター音楽祭で一番楽しみにしていた公演である。「リング」全曲の生の舞台などそう簡単に接することなどできないし、しかも指揮はゲルギエフ。一生忘れられない思い出になるのではないかと思って、楽しみにしていた。しかし結果は…。

期待が大きかった分、失望も大きかったと言うべきだろうか。正直、ペテルブルグに来てから、最も疲労感あるいは徒労感を覚えた公演だった。3日目と4日目に至っては、これ以上聞いても無駄だと思って、第一幕が終わった時点で帰ってしまった。途中で帰るなど、クラシックのコンサートに通うようになってから初めてである。

まず歌手については、声量や声質の点でいろいろと物足りなさが残った。そりゃあ、マリインスキーの歌手たちにホッター、ニルソン、ヴィントガッセン等々の往年の名歌手と同じレベルを求めるのは、無体なのであるが…。歌手に限らないことだろうが、現代の演奏家は現役の他の演奏家のみならず、過去の名録音とも勝負しなければならないから、大変である。ゲルギエフとしては、歌手たちを鍛えるために、無理を承知であえて難役に挑戦させているという側面もあるのだろう(そう思いたい)。もちろん出演者の中には健闘している歌手もいて、特に「ワルキューレ」でブリュンヒルデを歌っていたオリガ・サヴォヴァは比較的よく通る声で、表現力もあり、印象に残った。

むしろ問題は、オーケストラのほうかもしれない。もちろんちゃんと弾けているのだが、ワーグナーの音楽に陶酔させてくれない。日本で年末に放送されるバイロイト音楽祭の放送を聞くと、演奏に多少の不出来があっても胸が高鳴るのだが、その胸の高鳴りがまるで来ない。なんだか単調なのである。こうなるとワーグナーの音楽は、ただ単に冗長なものでしかなくなる。もともとマリインスキー劇場の椅子はあまり座り心地が良くないだけに、なおさらだ。こう言っては悪いが、ワーグナーの音楽を嫌う人たちの気持ちがちょっと分かったような気がする。

演出については、特に言うことなし。

家に帰ってから、ショルティの録音で「神々の黄昏」のラストの部分を聞いてみた。「ブリュンヒルデの自己犠牲」と言われる部分である。ああ、この興奮を生で味わいたかったのに…。いろんな意味で落胆した。ただ幕が終わるごとに、ブラボーが飛んでいたことは記しておこう。結局、蓼食う虫も好き好きということか。

2009年7月3日金曜日

マイスキーのロシア・ロマンス

グリンカ、キュイ、グラズノフ、ルービンシュタイン(アントン)、チャイコフスキー、ラフマニノフの歌曲の編曲

ミーシャ・マイスキー(チェロ)、リリー・マイスキー(ピアノ)

7月2日 フィルハーモニー小ホール 19:00~

6月30日のコンサートを聞いて、これなら7月2日のコンサートはかなりいいのではないかと思い、翌日あわててチケットを購入。もはや一番高い700ルーブルの席が2つしか残っていなかったが、日本で買うことを考えればまだ安い。しかし、ロシア歌曲の編曲集なんてプログラム、日本で組めるだろうか。伴奏者は実の娘。顔の輪郭は父親そっくりである。あと目の感じが、似ているかも。

前半は、ラフマニノフ以外の歌曲を並べ、後半はラフマニノフを集中的に取り上げていた。何曲かアタッカで演奏していくが、違和感はない。改めて思ったのは、マイスキーの持つピアニッシモの魅力。高音のフォルテはややきつい音になるが(会場の響き方も関係しているのかも)、ピアニッシモはだれにも負けない。ヴィブラートのかけ方も絶妙。取り上げた曲の中で、知っているのはラフマニノフのヴォカリーズぐらいだったが、これがとても美しかった。特に繰り返しの際、2回目で大きく音量を落とすのだが、そこでマイスキーの本領が発揮。背筋がゾクッとするような音を出していた。ただ私は、しばしばマイスキーのチェロについて語られる際に使われる「魂」だとか「真実」だとかいう高尚なものよりは、もっと艶やかなものを感じた。別に悪い意味ではない。終演後、ヴォカリーズの楽譜を持って楽屋に押しかけ、サインを頼んだのだが、「ヴォカリーズ」と感慨深そうに呟いてサインをしてくれたことも忘れがたい。

娘は伴奏者としての役割をきちんと果たしていたのだが、ラフマニノフなど、もう少しピアノからの働き掛けも欲しいと思った。偉大な父を前に、それは難しいかもしれないけれど。

2009年7月1日水曜日

ミーシャ・マイスキーとニコライ・アレクセーエフ

マックス・ブルッフ 「コル・ニドライ」

エルネスト・ブロッホ ヘブライ狂詩曲「シェロモ」

ピョートル・チャイコフスキー 交響曲第4番へ短調

ミーシャ・マイスキー(チェロ)ニコライ・アレクセーエフ指揮 サンクト・ペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団

6月30日 フィルハーモニー大ホール 19:00~

今度はマイスキーを初体験。そのマイスキーが出てくる前半は、「ユダヤ」を意識したと思われるちょっと濃い目のプログラム。そして演奏自体も濃いなあ。いや、「濃い」というのは不正確かもしれない。彼のチェロの音はむしろ「弱い」と言っていいぐらいなのだが、でも音色に独特の美しさがある。レースのような透明感、とでも言えばいいのだろうか。それとも、羽毛のような柔らかさと言ったほうがいいかも。したがって「シェロモ」などはいささか物足りなかったが(というのも、私はシュタルケルの剛毅な演奏でこの曲を覚えているので)、アンコールの小品はとても良かった(残念ながら曲目は不明)。この人、協奏曲よりも室内楽向きではないか。それもソナタより、アンコール・ピースのような小品向き。アンコールの2曲目として、バッハの無伴奏チェロ組曲第1番のプレリュードを演奏していたが、テンポが揺れまくる演奏だった。正直、あまり好みのタイプのバッハではないのだが、独自のものを持っていることは確かだ。

後半は、常任指揮者のアレクセーエフによるチャイコフスキーの交響曲第4番。それほど期待していたわけではないのだが、こういう演奏が実は結構楽しめたりする。聞きながら、ムラヴィンスキーの有名な録音が頭をよぎらなかったと言えばウソになるが、でも十分楽しめた。なんだかラフマニノフの時と矛盾する感想だが。たぶんウィーン・フィルのウィンナ・ワルツみたいなもので、このオケのチャイコフスキーというのは、否が応でも一定水準に達してしまうのかもしれない。いや、テミルカーノフの時の5番より良かったかも。テミルカーノフとは対照的に、それほどテンポは揺らさないストレートな演奏。ムラヴィンスキーの鋭さはなくても、響は十分充実していた。