2009年9月1日火曜日

ロシアのスペイン表象―ミンクスのバレエ「ドン・キホーテ」

レオン・ミンクス バレエ「ドン・キホーテ」

ボリス・エイフマン・バレエ団

8月31日 リムスキー・コルサコフ音楽院 20:00~

ロシアの作曲家って、実はスペインものが好きなのだろうか、と思うときがある。ロシアの音楽で代表的なスペインものと言えば、リムスキー・コルサコフの「スペイン奇想曲」だけれど、ほかにもグリンカやグラズノフがスペインにまつわる曲を書いているし、「ショスタコーヴィチとスペイン音楽の関係」なんて研究もあるらしい(研究自体は未見)。チャイコフスキーは、直接スペインにかかわる曲は書いていなかったと思うが、ラロの「スペイン交響曲」に触発されてヴァイオリン協奏曲を書いたり、ビゼーの「カルメン」を絶賛したりしているところを見ると、やっぱりスペインものが好きだったようだ。

ミンクスが作曲したバレエ「ドン・キホーテ」を見ながら、そんなことを考えていた。ミンクスの音楽なんて今まで聞いたことがなかったけれど(実を言うと名前も知らなかった。帝政ロシアの作曲家にこんな人もいたのね)、音楽はそれこそ、バレエ用「スペイン奇想曲」といった感じ。カスタネット等でスペイン風に味付けされたロシアのバレエ音楽。ただし今回のバレエ、演奏は生オーケストラではなくテープだった。こないだの「ロメオとジュリエット」みたいにアマ・オケ並みの演奏を聞かされるなら、テープのほうがいいかも。でも録音のせいかスピーカーのせいか、はたまた座っている席のせいか、なんだかモノーラルっぽい、古びた音がしていたのが少し残念だった。

なんだか文句を書いているけど、でも面白い舞台だった。もしあらすじがウィキペディアにある通りなら、演出家がいろいろ手を加えていることになる。精神病院から始まるという設定は、多くの演出家が思いつきそうだけれど、でもプロローグでのバレエ一般を茶化したような踊りは皮肉が効いていて良かった。確かに中間部ではスペイン舞踏でしっかり名人芸を見せてくれるが、定期的に精神病院の場面が復活する。そして最後は精神病院での乱舞。しかもそこでの音楽は「スペイン奇想曲」を編集して使っている!生オーケストラではなくテープを使った理由は、こんなところにもあったのかもしれない。

もちろん中間部でのスペイン舞踏は、7月に見たスペイン国立バレエの舞踏とは明らかに別物。そういった意味では、典型的な「スペイン表象」。その点で「バフチサライの泉」と比較すれば、ロシア・バレエにおける「表象の方程式」みたいなものが見えておもしろいかも。いや、こういう問題って、探せばすでに誰か研究していそうだけれども。

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